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 02年8月15日 売春は女性差別か否か


差別の構造を利用しているのが差別なのである
 以前『週刊金曜日』で売春が女性差別か否かをめぐって、論争が読者を巻き込む混迷の泥試合になったことがあった。
 私見によれば、現状の売春は女性差別である。
 しかし、それは売春そのものがそうだというわけではない。他のあらゆるサービス産業との間で合理的な区別付けがつくわけではないし、あえてつければセックスワーカーへの差別となる。
 そうではなくて、「何の技能もない女性がまとまったお金を得て生活しなければならないときに、他に選ぶ適当な職業がない」という女性に不利な社会構造を、男の側が利用していることが差別なのである。
 もっと広く言えば、個性を生かして社会から評価されて生きていく道を見い出すに際して、女性にとっては、男と比べて他の選択肢が著しく狭められ、ただ容姿によって評価される道ばかりが異様に膨らんでいる社会構造そのものが問題なのであって、その点から言えば給仕もモデルもみな差別である。売春はその極端なケースというだけだ。

包括的えっち税のアイデア
 したがってこの差別を解消するのに、単純に売春業を禁止したりして解決できるわけではない。女性にとっての各種職業の雇用機会が真に男性と平等になり、セックスワークというものが、いろいろ選べる職業のうちの一つにすぎなくなったとき、はじめてこの差別は解消されるのである。
 そしてこれを実現する施策にかかる費用は、この差別の構造から利益を得ている者が支払うべきである。というわけで、次のアイデアである。

  1.  売春は合法化し、経営の近代化と労働組合の組織化を支援する。

  2.  
  3.  あらゆる風俗産業や各種ポルノグラフィー生産物の販売・賃貸を含むすべてのえっちなもの商品に、包括的間接税をかけ、その税収をセックスワーカーをはじめとした女性のための、各種職業訓練事業にあてる。

  4.  
  5.  女性の様々な分野への社会進出が男性のデータに近付くにつれて、段階的に間接税の税率を低め、それにあわせて上記訓練事業を縮小していく。やがて社会進出を示すデータが男性と対等になった時点で、この税と訓練事業は廃止する。
なぜ「包括的」か
 この間接税がえっちなものに包括的にかけなければならない理由はこうである。消費者にとっての代替財が他にあるなかで、例えば売春だけをとりだすと、その価格が上がれば別の手段で性欲を満たそうとするので、その価格弾力性は大きい。よってそれだけに間接税をかけると、それを価格に転嫁したとき需要が大きく減るので、生産者は価格に転嫁することができず、間接税はワーカーも含む生産者の側の負担となってしまう。あくまで差別構造から便益を受けている男性の側に負担させようというためには、すべてのえっちなもの商品に包括的にかけなければならない。すべてのえっちなものをあわせれば、その価格弾力性はかなり小さいだろうからだ。
 それでもたしかに、この課税によってえっちなもの全体での需要が多少減るのは間違いない。しかしそれは、まだこの差別構造が存在し、「不本意な」生産資源がこの産業に流入する可能性がある以上は、多少政策的に需要を抑えておく必要があるという意味では合理的である。

 なお、この職業訓練事業の対象者を日本国民に限ったならば、外国人女性の身体を搾取して生まれた金で日本人女性が解放されるというグロテスクなことになる。だから、国内に居住するすべての女性を対象にしなければならない。
 
 


 

 

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