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 02年9月20日 日朝会談についての市民運動の声明文


 1959年以降、平壌政権にだまされて(あるいはコミュニティ全体を巻き込む運動の中で半ば強制的に)、大量の在日コリアンの人達とその日本人家族が、北朝鮮に渡っています。彼らはその後、しばしば強制収容所に送られたり刑死したりして、平壌政権下で著しい人権蹂躙を被っています。この悲劇の遠因を作ったのが日本の植民地支配であり、また根強い在日差別が彼らをおいやったことを考えると、平壌政権の魔手から彼らを救うことは日本人の責務とも言えます。

 そこで活動しているのが、「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」です。私も、会費を払うだけのはなはだ不真面目な会員を続けています。

 この会が今度の日朝会談の結果について声明文を出しているので紹介します。

 私個人は、冷戦後左翼の対外評価態度が劣化しているのではないかということを感じています。かつてカンボジアのポル・ポト政権が自国民の4分の1におよぶ大量虐殺を続けていた時、ベトナムがカンボジアを軍事侵略してこの政権を打倒しました。このとき、アメリカや自民党政府がポル・ポト側を支援したのに対して、共産党や社会党協会派はベトナムの行動を支持しました。私もこの態度は正しかったと思います。大量虐殺をするような独裁政権を打倒することは、ただそれだけで正当化されると思います。冷戦時代には少なからぬ左翼はソ連の与国にはあまかったかもしれませんが、そうでない国の独裁政権に対して態度を誤ることはなかったと言えます。

 今度明らかになった平壌政権の犯罪に対して我々はどういう態度をとるべきでしょうか。
 もしこれと同じことを、かつての南アフリカ共和国のアパルトヘイト政権がやったとしたら、韓国の朴政権がやったとしたら、チリのピノチェット政権がやったとしたら、ナチスドイツがやったとしたら、あなたはどんな態度をとりますか?
 冷厳な現実政治を、歴史的条件の中で起こったことと突き放し、世の中を悟り切ったような態度をとるのも一つの見識かもしれませんが、もしそうならばすべてに対してそういう態度を貫くべきです。一方なら熱く社会正義を語るのに、他方ではそれを押さえ込むというのでは筋が通らないと思います。
 
 

声明                         2002年9月19日
多数を死亡させた権力犯罪の真相解明こそ課題
−−
北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会
2002年9月17日、小泉首相は北朝鮮を訪問し、金正日総書記と会談した。この
会談に際し、私たち北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会は次の3点を要請した。
1、1959年以降北朝鮮に帰国した在日朝鮮人等帰国者の自由往来の実現が、日朝
間の人権・人道問題であることを金正日総書記に強く訴えて下さい。
2、帰国者、日本人妻のうち、行方不明になっている方々の調査と結果報告を直ちに
行うよう、金正日総書記に要請して下さい。また、政治犯その他の理由で逮捕された
全ての帰国者の名簿を発表するとともに、冤罪の可能性の有無を客観的に評価できる
よう、その裁判記録を遺家族に公開することを要請して下さい。
3、拉致された日本人、ならびに韓国人などの被害者の完全解放を即時行うことを、
被害国の首相として金正日総書記に断固として要請して下さい。
これら3点の要請に対し、1帰国者の自由往来と2帰国者、日本人妻の行方不明者お
よび逮捕された人たちに関する調査については、まったく触れられることもなく終
わった。
3については、はじめて金正日政権が公式に拉致を認め、安否を伝えてきたが、その
内容は日本政府が認定した11人にその他の3名を加えた14名のうち8名が死亡
し、1名は不明、生存しているのは5名に過ぎないという極めて残酷なものであり、
家族の願いと期待を大きく裏切るものであった。8名の死亡についても、私たちは額
面通りに受けとることはできない。
死亡したといわれる8名が現在も生存しているなら、その年齢はそれぞれ38歳,4
2歳,44歳,46歳,48歳,48歳,65歳,77歳であり、大半の人は死亡す
るにはあまりにも若く、死亡が事実であるならば、金正日政権の手で殺害された可能
性を考えざるを得ない。
この事態に際して、まず被拉致生存者およびその家族と日本の家族の面会を早急に実
現するとともに、原状回復が実現されねばならない。
同時に、すべての被拉致者について、拉致の経緯と実行犯、北朝鮮における被拉致者
の境遇と生活の歩みが、また死亡したといわれる人たちについては、死亡にいたる事
情と死因が一刻も早く正確に明らかにされねばならない。また、それらの人たちの実
情を知る北朝鮮の人たちに面会し、直接話を聞く機会が家族と日本政府に与えられね
ばならない。
北朝鮮に拉致された韓国の映画監督と女優の夫妻申相玉氏と崔銀姫氏は、その著書
『闇からの谺』で金正日の直接の指示で拉致され、北朝鮮では金正日の出迎えをうけ
たこと、そして金正日の映画造りに協力させられたことを語っている。
今回、元工作員金賢姫の教育係「李恩恵」としてはじめて世に知られることになった
田口八重子さんの拉致を認めたことは、大韓航空機爆破が金正日政権のテロであった
ことを間接的に認めたものである。このような重大テロ行為は、金正日が直接命令す
る以外に実行できないことは北朝鮮の政治の常識である。
かずかずの重大犯罪を実行しておきながら「部下がやったことで、自分は知らなかっ
た」という金正日の態度は卑怯極まりないものである。
今回の日朝会談にあたって、被拉致者多数の死亡という重大な事実に接しながら、死
亡に至る経過と日時、場所、死因などを聞き出して明確にすることもなく、拉致被害
者の多数が取り返しのつかない事態になっていることを知らされただけで「拉致問題
の進展」と見なし、金正日政権を支える資金提供を含む平壌宣言に署名したことは、
小泉首相の大きな失態である。今後の国交正常化交渉のなかで問題を協議するという
が、このような姿勢は「求められている課題を小出しにして時間を稼ぎ、硬軟表裏使
い分けて交渉し、その間に取り込めるだけの利益を取り込む」というこれまでの金正
日政権の外交戦術にはまり込むだけである。
私たちはあらためて以下のことを日本政府に要請する。
1、被拉致生存者とその家族について日本の家族の面会、ならびに原状回復を早急に
実現すること。
2、すべての被拉致者について、拉致の経緯と実行犯、北朝鮮における被拉致者の境
遇と生活の歩みを、そして死亡したといわれる人たちについては、死亡にいたる事情
と死因を一刻も早く正確に明らかにすること。
3、死亡したといわれる人たちの実情を知る北朝鮮のひとたちに家族が面会し、直接
話を聞く機会を設け、日本政府としても直接面接調査を実施すること。
4、今回判明しなかった1名の安否と、この他に拉致被害者がいる可能性を徹底的に
調査し、消息と安否の確認を進めること。
5、拉致犯罪の最高責任者は金正日であるが、まず辛光洙など拉致実行犯の引渡しを
金正日政権に求め、必ず実現すること。
6、わが国社会にとって重大な人権問題である北朝鮮帰国者のわが国への自由往来を
早急に実現すること。
7、帰国者、日本人妻のうち、行方不明になっている人たちの調査とその結果の報告
を直ちに行うよう、金正日政権に要請し、政治犯その他の理由で逮捕された全ての帰
国者の名簿を発表するとともに、冤罪の可能性の有無を客観的に評価できるよう、そ
の裁判記録を遺家族に公開することを求めること。
8、北朝鮮脱出者が日本へ亡命することを希望すれば受け入れることを明確に表明
し、受け入れ後の体制を早急に整備すること。
9、中国に脱出した北朝鮮難民を保護することを、韓国政府とも連携して中国政府に
強く働きかけ、必要な具体的処置を実行すること。
10、上記1〜7までが実現しない限り、金正日政権への経済的支援や国交の正常化
は絶対に行なわないこと。
最後に、北朝鮮にかかわる重大な人権問題に、これまで一貫して関心が低く、対応が
遅れた日本政府(特に外務省)と各政党、政治家(熱心に努力し続けてこられた少数
の政治家を除く)に対し、政治を担当するものとして、また一人の人間として、猛省
することを求めたい。さらに、これまで交渉にあたってきた日本赤十字社に対して
も、事実を解明できなかった経過を反省し、今後の北朝鮮赤十字社との交渉にあたっ
ては強い姿勢で実効ある協議を進めるよう求めたい。
以上

北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会
   名誉代表 小川晴久、金民柱、萩原遼
         代  表 山田文明
東京本部、関東支部 〒100-8691 東京中央郵便局私書箱551号    Tel&Fax
03-3262-7473
関西支部      〒581-0868 大阪府八尾市西山本町7-6-5(山田文明方)
  Tel&Fax 0729-90-2887
 
 
 
 


 

 

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