松尾匡のページ

 03年2月22日 こんな反戦理由はいらない


 もともとイラク攻撃には反対だったけど、最近の反戦世論の盛り上がりには、すなおに喜べないところがある。
 「大量破壊兵器を作ってたのなら攻撃していいけど、サダム・フセイン体制の転覆を目的に掲げた攻撃なら反対」とかいった、国家主権不可侵論、内政不干渉論に立つ議論が広がっているようなのは全く気にいらない。独裁体制のもとで無辜の民衆がどれだけ抑圧されても、外国にいる人々は何も手出しせずにじっと見ているべきなのか。

 西部邁が出している右翼雑誌『発言者』の最新号は、イラク戦争反対の特集である。西部さんはアメリカを左翼の親玉扱いしている。この規定は彼の立場に立つ限り全く正しい。伝統慣習共同体としての国家の自立を、グローバルな社会経済統合から守ろうというのが右翼の立場なのだから。

 だがこうした右翼と同じことを左翼があおってたらいかんだろ。
 カンボジアのポルポト政権が自国民の大量虐殺を続けていたとき、ベトナムが軍事侵略してポルポト政権を打倒したことを、共産党も社会党協会派も支持したではないか。
 チリの独裁者であったピノチェットが、在任中の人権抑圧の罪でイギリスでチリ政府の承諾なく逮捕されたとき、日本の左翼世論はこぞってこれを喜んだではないか。
 東チモールの独立前、独立反対派民兵によって大量虐殺が続けられていたとき、「国際社会はこの事態を放置するな、多国籍軍の駐留を急げ」というのが左翼世界の主要な論調だったではないか。
 たまたま、ベトナム共産党やチリの左翼勢力や東チモールの解放勢力を応援してきた過去があったから、こんな主張になっただけで、過去の歴史的つながりがたまたまなければ、国家主権不可侵論の方が優越して、人権抑圧の犠牲者達を見捨ててしまうのだろうか。

 ピノチェットの逮捕、ポルポトを裁くカンボジア国際法廷の設置、旧ユーゴ紛争を裁く国際法廷の設置とミロシェビッチらの戦犯起訴…これらの動きは、いかにブルジョワ的に歪められたものであれ、もはや国家主権は最高原理ではなく、人権原理のような世界的原理が国家主権を超越して世界秩序を担うようになってきた時代を示している。これをまた昔に逆戻りさせてはならない。

 このように言うことはブッシュを後押しすることになるのか。
 われわれは過去、韓国の軍事政権や南アフリカのアパルトヘイト政権や東南アジア・中南米の軍事独裁政権に反対し、これらの国々の人権抑圧の犠牲者大衆と連帯して闘ってきた。このとき、誰が韓国に軍事介入しようと言っていただろうか。
 私が主張したいのは、このときの韓国や南アフリカやに対してとった態度と、同じ態度をイラクや北朝鮮に対してもとるべきだと言っているにすぎない。

 いろいろ理由が必要になるのは戦争に賛成する側である。
 戦争に反対するのに、人命が奪われるからという以上のいかなる理由が必要なのか。
 
 
 


 

 

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