03年7月30日 ウェブの根アイデア改良ゼミナール1:「民主国債システム」
このエッセーコーナーは月2回更新を心掛けていたのだけど、どうもアイデアがつきてしまっているうちに、今月は何かと立て込んで、とうとうまる一ヶ月空けてしまった。7月はエッセーなしというのもくやしいので、ウェブ上で見つけたヒトのアイデアに改良を加えるという方式を思い付いた。
小室暁生氏の民主国債システム:
と言うわけで今日取り上げてみたいのは、小室暁生氏の考えた「民主国債システム」である。
詳しくは、
http://www2.famille.ne.jp/~akio1998/ax_top2.html
を見ていただきたい。
無駄な公共事業をなくす仕組みのアイデアで、簡単に言えば次の通りである。
事業ごとに異なる国債を発行して専らそれを市中引受することで資金をまかない、その国債の償還に先立って、抽選で選ばれた市民による投票を行って利率を決定する。その際、ここがミソなのだが、過半がその事業を承認した場合には額面割れの償還(マイナス利子)となり、過半がその事業を否認した場合には額面を超える額での償還(プラス利子)となる。
これは何を狙っているのかというと、政府はなるべく人々が認めそうな事業をした方が返すお金が少なくなって得になる。人々が認めない事業をすると返すお金が多くなるので損になる。そこで、公共事業はなるべく一般市民が広く認めるものにしようというインセンティブが働くというわけである。出資者にとっては、投票で事業を否認してもらった方がいいから、ネガティブな情報を流すインセンティブが働き、情報公開に役立つというわけだ。
悪い公共事業ばかり生まれるインセンティブ:
しかしもちろんこのアイデアには問題があると思う。良い公共事業には出資者が集まらず、悪い公共事業にばかり出資者が集まる問題である。小室氏は、否認票多数が予想される悪い公共事業は、そもそも政府が実施するインセンティブを持たないと言う。
しかしこれは成り立たない。政府が国債償還に払わなければならない金額に感じるインセンティブと、出資者が利率に反応するインセンティブとでは、前者は比較にならないくらい後者よりも小さい。政治家や官僚にとって償還のために払わなければならないお金は、自分の懐を痛めて出すわけではない。しかも、償還時点ではすでに自分は財政悪化に責任のある地位についていないかもしれない。むしろ、事業資金が集まるかどうかの方が、よほど切実な関心事となる。結局、政府は、なるべく出資者が集まりそうないかにも悪い公共事業を、どんどんと実施することが常態となるだろう。
私の改良案:
では、この論者の精神を尊重して、最小限の修正ですませて所望の効果を得るためにはどうすればいいか。
簡単である。投票結果の扱いを逆にして、ごく素直に、過半がその事業を承認した場合には額面を超える額での償還となり、過半がその事業を否認した場合には額面割れの償還となるようにすればよい。そして、国債の引受けを、公開入札で決まる市価で行うようにすればいいのである。さらに、事業は、出資者の定期的総会によって選任、罷免される執行人を、最高責任者として実施されることにすればよい。
そうするとどうなるか。良い公共事業の国債は、将来高く償還されるので、発行時での需要が多くなって高い価格で引き受けられる。政府は容易に資金調達できる。悪い公共事業の場合は逆に、将来の償還額が低く予想されるので、発行時での需要が少なくなって価格が低くなる。政府は資金調達に困難をきたす。政府はなるべくいい公共事業をしようというインセンティブが働く。
この際、国債を買おうと考えた者は、入札までの間、なるべくその事業のアラを探し、ネガティブな情報を流すインセンティブを持つ。そうすると買い入れ価格を安くできるからだ。金融業者などに最低単位枚数の引受けを義務付けるなどの工夫をすれば、この効果が強く期待できる。
これが事業が始まると一転逆になる。出資者は、承認票が多くなるように、なるべくいい事業業績を出すよう、執行人を必死に監督するようになる。他方、財政当局は、なるべくその事業のアラを探し、ネガティブな情報を流すことにはげむ。
なお、効果を大きくするには、投票結果の扱いを、承認率の2倍をもって償還率とするようにすればよい。あるいは、国債引受け後と事業納期に各々投票を行い、両者の承認率の和をもって償還率とするのもよい。
なお残る問題:
とはいうものの、もともとの小室氏のアイデアもこの改良案も、投票者のインセンティブについて問題がある。自分のいいと思ったものに真面目に承認票を投じるインセンティブが必ずしもないからである。通常の選挙などの事前型の投票では、なるべく自分の望むものに投票した方が以後自分の望む政策がとられる可能性が高まるが、この場合には実施されてしまったものを事後承認するわけだから、投票結果のいかんが自分の利害に影響しないのである。この点をさらに工夫しないと、組織的な働きかけなどでいかようにでも投票結果がコントロールできるようになり、システムが崩壊する。
これからもちょくちょくこういうアイデア改良をやってみたいと思う。検討してほしいアイデアをお持ちの方、ウェブ上でトンデモなアイデアを見つけた方は、是非ご連絡下さい。
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