松尾匡のページ

 03年8月11日 自治体は地域通貨のために何ができるか


 昨日の新聞報道では、総務省が来年度から地方自治体が地域通貨を導入することの支援策に乗り出すそうだ。
 こういうものは、民間で多様な決済システムが自由闊達に生まれることがいいところなのであって、自治体が自ら藩札みたいなものを発行しても、うまくいって第2貨幣の君臨をつくり出すだけである。取り引きや決済の手段を民衆にとってコントロール可能なものにしようという、地域通貨提唱者達の問題意識にかなうものではない。

 そういえば、以前、福岡県のNPO担当者から、県が地域通貨のために何ができるかという御下問があった。とりあえず、このような問題意識から、県自体が一つの地域通貨システムを運営するのではなく、いろいろ草の根で行われている取り組みを整理するプラットホーム的な仕組みを考えて提案してみた。
 その後何の音沙汰もないが、この際だから、ここに公表してみよう。

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久留米大学の松尾です。
 さきほどの件ですが、県のような公共団体が、本来自主的活動である地域通貨にどのようにかかわるのか考えていたのですが、次のようなアイデアを思い付きました。

 いろいろな地域通貨が生まれていますが、まず、湯布院の例のような手形タイプのものを考えるとわかりやすいと思います。これは、各自が、例えばこの券を持ってきた人には1時間分の子守りをしますよと言った手形を切って、なにかしてくれた人に渡し、その手形が流通していくものです。これは、その人の信用が通用する範囲でしかなかなか流通しません。まあこれはカッパのごときマイナーな紙券タイプの地域通貨にも言えることで、よっぽどシステムを信頼していないと流通しません。
 それから、「ふれあい切符」のような介護の見返りにもらえる、将来介護される権利の券などは、遠い将来の介護サービスにしか使えない不便さがあります。

 そこで、県なり何なりが、次のような機関を作るわけです。以下「機関」と書きます。
 先ほどの湯布院タイプの手形を受け取った人が、あまりその手形の発行者を信用できないとき、その手形を「機関」に持ち込み、「機関」の地域通貨と交換するわけです。同様に、カッパのごとき紙券タイプの地域通貨についても、「機関」に持ち込んで「機関」の地域通貨と交換してもらえるようにします。「ふれあい切符」も同様です。
 この交換手続きは、郵送でもいいし、県の事務所どこでも窓口を作ってもいいし、「機関」の地域通貨も紙券でもいいしウェブ上の口座でもいいのですが、まあこれは細かいことですから省略。

 さて、それで、「機関」は引き受けた手形や諸地域通貨のリストを、ウェブその他で公開します。すると、このリストが、通常の地域通貨システムで言う「できますリスト」、つまり人々が提供する財・サービスのリストと同様に働くわけです。カッパなどに関しては、それが使える協力店リストを同時に掲載しておきます。
 例えば、「機関」の地域通貨を持っている人が、結婚記念日に子守りしてほしいと思ったら、「機関」のホームページを開いて子守りを提供するとしている手形がないか探すわけです。あれば、「機関」の地域通貨を「機関」に払ってその手形と交換し、それを使ってその手形の発行者に子守りをしてもらうわけです。
 実際には、ウェブ口座上で「機関」の地域通貨を持っているならば、「機関」にその旨連絡すれば、「機関」の方で手形の発行者に連絡してサービス提供を要請し、取り引きが成立すれば、ウェブ口座上から「機関」の地域通貨が差し引かれ、相当する手形が抹消されることになります。
 あらかじめ「機関」の地域通貨を持っていなければ、その場で自分の手形を発行して持ち込むなり、他者の手形や各種地域通貨を持っていればそれを持ち込んで、目当ての手形と交換すればいいです。
 同様に、「機関」の保有するカッパ券などの諸地域通貨や「ふれあい切符」なども、「機関」の地域通貨と交換にだれでも入手できるようにします。

 また、諸地域通貨だけではなく、NPOなどの発行している施設利用チケットや受講券なども、「機関」の地域通貨と交換に引き受け、リストに載せるようにすればいいと思います。

 そしてですね。一定期間需要がなかった手形や諸地域通貨は、定められた係数をかけて割り引くことにします。つまり、例えばカッパは1カッパ100円、1時間労働6カッパという公称目安があるのですが、最初にカッパを受け入れる時には公称目安通りに「機関」の地域通貨と交換します。しかし、一定期間誰もカッパを欲しがらなければ、その交換割合を例えば8掛けすることにするわけです。手形式のものについても同様で、例えば「理論経済学の講義1時間」などという誰も要らないサービスを提供する手形は、一定期間誰も欲しがらなければ、以降同じ人の同じ内容の手形を持ち込んだ場合0.8時間分の「機関」の地域通貨と交換することになるわけです。そしてこれはリストの上でも公開します。
 安くなれば買い手がつくかもしれませんが、それでもなお一定期間誰も需要しなければ、さらに割引係数をかけていくことにします。
 なおこの基準は、保有総数に対する需要の割合いで決めるのがいいでしょう。人々から信用されない券ほど多く持ち込まれるわけですし、特殊だけれどたまに必要に直面したときには有用な労働を提供する手形は、ありふれた労働を提供する手形と比べて総数が少ないでしょうから。

 さらに、引き合いがあって、「機関」から、手形に約束した便益の提供を要請された発行者が、それを拒否した場合、その人の発行した手形は、以降やはり定められた率をかけて割引くことにします。
 もちろん事情があってできないこともあるでしょうから、以降要請に何度か応じたならば、割り引きを元にもどしていくことにします。
 こうして「機関」は、主観を交えることなく、諸地域通貨の評価機関として機能するわけです。

 それから、県下にはLETSタイプの通帳型地域通貨が多いですが、これとのリンクは次のようにやればできます。
 「機関」自体がその地域通貨システムの会員になるわけです。例えば博多「よかよか」の会員になります。すると、「機関」自体が「よかよか」の通帳を持つわけです。
 そうしたら、「よかよか」の個人会員が、「機関」に「よかよか」を持ち込んで、「機関」の地域通貨と交換できるわけです。つまり「機関」の地域通貨と引き換えに、その人の「よかよか」通帳から黒字が減り(赤字が増え)、「機関」の「よかよか」通帳の黒字が増える(赤字が減る)わけです。この「よかよか」残額は、やはり保有手形などと一緒にリストに載せ、別の「よかよか」会員が、「機関」の地域通貨やその他の諸地域通貨を持ち込めば「よかよか」と換えることができるようにします。
 そしてこれもやはり、一定の基準のもとに割引くことにするわけです。赤字通帳からは引き受けないなどの基準も必要かもしれません。

 さて、以上があらましですが、諸地域通貨がそれほどまだ生まれていない現状では、このシステムと並行して、どこかのモデル地区で手前味噌でも個別地域通貨をはじめてみたらいいと思います。これは、全体システムをうまく機能させるためには、手形方式でやるべきだと思います。
 すなわち、会員には次のことを印刷してあるぶ厚い手形帳を渡します。そしてそれを自由に切って、他者から便益を受けた時の見返りに発行できるようにします。
・その人の顔写真(団体会員の場合はその記章)
・「私****は、本券と引き換えに、__時間分の下記サービスを提供いたします。」(****部分は本人の申請に基づき印刷。__部分は本人が書き込む。)
・「提供サービス内容******等。詳細は下記ホームページを御覧下さい。」
・会員番号
・「本券発行者の提供サービスを御入用の方は、下記○○まで御連絡下さい。また本券を○○に持ち込んだ場合には、定められた基準に従い、○○発行の〜券と交換することができます。」(「機関」の所在地、電話番号と電子メールアドレス、ホームページの連絡フォームのページのURL)

 割り引きを避けるために、提供サービス内容に関しては「機関」に連絡して追加がきくようにします。
 また、裏書き制度もいいかもしれません。本券と引き換えに__を提供しますというのを裏書きしていくわけです。そうすると裏書きのたくさんついた券は、「機関」に持ち込まれてリストに載れば、高い評価がつくでしょう。
 立ち上げ期には、まだ手形リストがそろわないでしょうから、普通の地域通貨システムのように、「できますリスト」「してほしいリスト」を作る必要があるかもしれません。
 
 


 

 

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