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 04年4月14日 自己責任! だから偉い!


 同僚が以下の議論を24時間以内にホームページに書けと言ってきた。ただでさえ仕事が山盛りのときなのだが、脅しに屈してしまう私なのであった。

 北朝鮮問題でも右と左で言うべきことがアベコベだと言ってきたが、今度もやはり言うべきことが左右でアベコベに感じてイラだっている。
 何のことかと言うと、イラク邦人拘束事件について、NGO関係者などどちらかというと左側の人々が、人質救出のために政府が何もしないのは無責任だと攻撃し、読売新聞や右側の人々が自己責任で行ったのが悪いと人質の三人を非難している構図のことだ。言うべきことが逆じゃないか。

 在外自国民保護に、ただ自国民というだけで、政府が責任を負わなければならないという論理には、
私は左翼として虫酸が走る!!
 これこそいつもいつも、帝国主義的軍事侵略の口実となってきた論理ではないか。日中戦争の開始もそうだったではないか。
 「政府は何をすべきか」? ・・・何もすべきではない。もちろん撤兵はすべきだが、それはもともとこんな事件が起こると起こるまいとにかかわらず、当然なすべきことだ。
 仮に日本政府主導で米軍の救出作戦などが行われることになったとして、当の人質三人がそれを耳にすることがあったならば、「自己責任でやったことだから結構です」と断るだろう。
 (まあ本当に米軍が人質の所在を知ったら、喜んで「救出」作戦に飛んでいき、自分で手にかけるか犯人にやらせるかはともかく、人質ごと好ましからざる人々をみんな始末して、一石二鳥も三鳥も狙うだろうから、もともとそんな話は断りたくなるだろうが・・・これは余談)
 実際クウェートあたりには、人質解放後帰ってくるための自衛隊機が待機していると聞く。自国民保護のために海外に軍隊が出ているのだ。あの三人を自衛隊機に乗せていいのか。本人も乗りたいと思うのか。

 それに対して、まさに「自己責任」の論理こそ、NGOが政府の介入を排し、自由に地球上を活動するための根拠となっていたはずである。
 自己責任論から言えば、政府が行くなと勧告するような危険の多い所に、あえてリスクを覚悟で社会的使命感から自己責任ででかけ、その結果危機に陥った人々の行動は、賞賛されこそすれ、非難される筋合いはない

 たとえて言えば、社会的価値が高いがリスクの大きいビジネスに、使命感からそのリスクを承知であえて乗り出して、結局失敗して借金を抱え込んだ人がいるとしよう。これを政府に責任をとれと言って税金で借金の穴埋めをさせようとするのは、当然筋違いである。
 ではだからといって市民社会は、「自己責任だから危険なビジネスに手をだしたお前が悪い」と非難してすませていいのか。世の中に必要なビジネスなのに、自分はリスクを恐れて手を出さなかった。それをあえてやってくれた人がいるのだ。そう評価した人々が、「よくやった。またがんばれよ」とカンパを出し合い、借金を穴埋めしようとすることは、当然やるべきことである。

 自己責任だからこそ三人は偉いのだし、自己責任だからこそ私も彼らの救出のために何か協力しようと思うのである。政府が何もしないからこそ、イラクの民衆と日本の民衆の連帯が強まっているのである。撤兵も今の政府にやれとは言わない。派兵なんかする政府には辞めてもらうだけだ。

 ここのところが、なぜ今の日本ではアベコベになっているのか不思議である。「自己責任」の本場アメリカよりも、日本の方がよっぽどビジネスの失敗者に厳しい風土があると言われるが、そんなところが効いているのかもしれない。
 
 
 


 
 

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