05年3月22日 少子化対策を考える
おとといの地震、自宅ではワイングラス一本割っただけで何もなかったけど、今朝研究室を開けたら本棚が倒れて本が散乱していた。
いやはや予期せぬ肉体労働で疲れたけど、本格的に被災した方はそれどころではなかっただろう。心よりお見舞い申し上げます。
このエッセーコーナーの更新がだいぶ滞っていたけど、年度末の諸務集中で大変だったのだ。とりあえずなんとかやっつけて、四件ばかり業者に原稿やら何やらを送ったものの納品待ちの状態。あがってきたらまたバタバタするけど、とりあえずちょっと一息つける。
今日は最近あちこちで議論を目にする少子化問題について一言。
少子化なんてたいした問題ではないという意見もあって、そうかもしれないとも思う。だいたいこの傾向は、発展途上国も含めて全人類的に貫いているものらしく、人為で止めることのできるものではないらしい。
もっとも、受験生が減ると大変困る大学人の業界利益としては、なんとか子供の数が増えてほしいのだが。
それはともかく、オヤジたちの飲み屋談義のレベルでは、「独身税」を取れとか、子供を三人以上生まない者から税金を取れとかいう対策を良く聞く。よっぽど高い税金にすれば、なにがしかの効果はあるだろうが、しかしそのような手段は、政策エリートレベルでは決して出てくることはない。なぜだかわかるだろうか。個人の人生選択への介入はできないという人権論が模範答案なのだが、人権などへとも思っていないオヤジたちは、そんな答えを聞くと一層人権論への反発を強めるだけで、決して納得できないだろう。
政策エリートがこのような対策を取ろうとしない本当の理由はお分かりだろうか。これは、経済学的思考の好い応用問題である。
「独身税」を課したら何がおこるだろうか。
まず、遺憾な現実であるが、いろいろな意味でハンディキャップがあって、結婚したくても結婚できない人々が世の中にはたくさんいる。所得や身体的障害や病気など客観的にデータが出せる人々は例外扱いできるかもしれない。しかし、世の中のけしからん現実では、「顔」なんてものも結婚のしやすさに効いてきたりする。正直言って、イケメンから税金を取り立てたい気持ちはあるが、現実問題「顔が悪いから免除」などという基準が作れるはずがない。
それだけならまだしも、そのような理解すべき立場の人々ではなくて、全くの正常な人間で、本人に責任のある性格的欠陥のために、本来なら結婚する可能性の低い人というのもいる。「独身税」を課してしまったために、そのような人々も税を逃れるためになんとかとりつくろってとりあえず結婚してしまい、家庭崩壊やドメスティックバイオレンスなどが増加する事態になってしまうだろう。
さらには偽装結婚がはびこるだろう。これは間違いない。
では独身か結婚しているかにかかわらず、子供のいない人や少ない人から税金を取る仕組みはどうだろうか。
子供が欲しくてもできない人々もいる。まあこれは不妊治療をやっていることの証明書を出せば免除ということにすればいいかもしれない。
おそらく政策エリートが本心で問題にしているのは、このような政策を取ると、高所得層の人はあいかわらずあまり子供を作らずに平気で税金を払う一方、低所得層の人々ほど税金を払うのがたいへんだからたくさん子供を生むようになるということだろう。特に、大学全入時代へ向かい学歴の二極分化が進行する現実のもとでは、子供を有名大学に行かせようとすると幼いころから多大な教育費が必要になる。比較的低い所得の人々が、子供にはいい生活をさせようとして有名大学にやろうとしたならば、教育費にお金が取られるのでどうしても子供の数は少なくなる。しかしそうすると税金がかかってくることになる。結局子供に高い教育をつける希望は諦めざるを得なくなる。結局、エリートはエリートの家庭からしか出なくなるがその人口は減っていき、低所得層ほど人口が増えてますます低所得になっていく。政策エリート達は、きっとその先に治安の悪化などを予想しているに違いない。
では、この税金を所得比例にしたらどうなるだろうか。
実はこれは全員に増税して育児手当てを支給することと数学的に同じである。いや正確に言えば、所得の高い人ほど高額の育児手当てを支給することと同じである。これは明らかに不公平だろう。
結局、増税してもいいから一律の育児手当てを出すという結論に落ち着くのである。
ところで、自分がもし右派ならば、こんなアイデアを提唱するだろうというのがある。ホントにこんな提案がなされたら絶対反対するけど、まあ、政策エリートが私のサイトを見てるはずがないだろうから、頭の体操のために書いておこう。(以前、財務省の『ファイナンス』という雑誌を買わずにウェブからダウンロードするという話を書いたら、翌月号からダウンロード可能な記事におもしろそうな記事が全然なくなった。まさかこんなサイトが財務官僚に読まれたりはしていないとは思うが、ちょっと心配ではある。)
1. 徴兵制を布き、男女とも40歳までの間に一年間の兵役を義務付ける。
2. 子供を一人持つごとに半年分の兵役免除権が発行される。
3. 兵役免除権は自由に売買できる。
こうすれば高所得少子者から子供をたくさん持つ者への所得移転が自動的になされ、子供を作るインセンティブができる。比較的低所得で子供をあまりつくりたくない者は兵役に行けばよい。良心的兵役拒否制度をつけて、兵役がいやな人は福祉ヘルパーで代替できるようにすれば、福祉問題の解決にも役立つ。
こんなことをすれば、お金もうけのために大量の養子を採って、ろくに育てもせず免除権を売る商売をする人が現れるだろう。しかしこれは自分が右派ならばこう考えるというアイデアなのだから、ここは筋金入りの右派らしく、それくらいの虐待に耐えてこそ根性のすわった子供が育つのだとしておこう。
何度も言うけど、自分自身はこんなのには反対ですよ。今の政府ならやりかねないが、本当にこんな提案がされたら、ただちにこのページをサーバーから削除して、何ごともなかったような顔で「誰が考えたんだ、けしからん」とか言わないと。