松尾匡のページ

 07年2月3日 「社会新報」またやった


 1月31日号の社民党機関紙「社会新報」のコラム「偏西風」では、「不二屋」不祥事事件へのマスコミのバッシングを批判する主張が書かれている。
 たしかに経営側の責任に帰すべきことを、従業員や末端販売店までいっしょにして攻撃の対象にするような風潮があったならば、社民党は断固としてそれを諌めるべきである。何かと言うと熱につかれたように「イジメ」のターゲットを探す近年のマスコミ状況を批判する姿勢も間違っていない。
 しかし、過去の様々な企業悪と取り組んできた社民党の姿勢に照らして、この書き出しの文章はどうなのだろうか。しかも、どう考えても、この最後の段落は、社民党の言うべき言葉ではないだろう。とりあえず、社民党ホームページの「社会新報」のページに載っている全文をここに転載しておく。
 

 すべてが善であったり、またすべてが悪の人間なんていない。同様に完全無欠な企業なんてありっこない。どこだってたたけば多少のホコリは出る。そのホコリが「食の安全」という錦の御旗に触れたばかりに騒ぎは拡大する一方で。

 消費期限を過ぎた牛乳を使っていた老舗の菓子メーカー「不二家」が猛烈なバッシングを受けている。表面化した翌日には全店の洋菓子売り場を閉鎖し、数日後には大手スーパーやコンビニから全製品が締め出しを食い、「信頼確保の体制をつくった上、辞める」と言っていた社長も10余日目で辞任に追い込まれた。揚げ句に経営危機まで取り沙汰されている。その間に賞味期限切れや細菌検出の商品出荷なども次々明るみに出た。

 新聞やテレビで知るしかないが、今や不二家は“国賊”のごとき扱いである。もちろん誉められたことではないが、まるで、イジメの対象。ちょっと待ってほしい。

 とりあえず、2つのことを書き留めておきたい。期限の過ぎた牛乳を使ったのはパート職員とはいえ数十年勤めたベテラン。「彼の長年の勘を信じていた」という社長発言はひんしゅくを買ったが、職人を信じる経営者の態度は決して悪くない。大体、製造者任せの消費期限や賞味期限にどれ程の重みがあるものか。そして、例によって例のごときメディアの取材態度。居丈高で感情的で、まるで十手を振り回す岡っ引きみたい。

 発端は内部告発だった。後ろでほくそ笑んでいる人間がいるかもしれない。少数意見を承知で、愛すべきマスコット人形「ペコちゃん」に加勢したくなる。(根)


 社民党は企業悪に対して立ち向かう個人の良心をサポートする立場にあるはずだ。これまで日本の労働者の闘いの障害になってきたのが、企業一家意識の集団主義だったではないか。社民党はいやというほどそれに苦しめられてきたはずだ。「会社が損したら自分も元も子もない」「まわりを裏切るのか」「ライバル会社を利する」等々といった圧力がかかる中で、あえて社会正義のために内部告発などに立ち上がってきた勇気ある人々を、一生懸命応援してきたのが社民党だったのではなかったのか。
 それなのに、発端が内部告発なら、「後ろでほくそ笑んでいる人間がいる」という発想になるなんて。
 まずもって、ただの憶測で内部告発の価値を下げようとする言動! いったい誰の味方なのだ。
 それに仮に「後ろでほくそ笑んでいる人間」がいたとして、それがどうしたのだ。そもそも内部告発だけではないぞ。労働組合が激しい賃上げ闘争をしたら、ライバル会社は「ほくそ笑む」し、買収しようと狙って「ほくそ笑む」銀行や大企業や外資がいるかもしれない。だったら賃上げ闘争をしたらいけないのか。
 一族オーナーであろうが、銀行であろうが、外部大企業であろうが、IT成り金であろうが、外資であろうが、誰に支配されようが関係ない。しょせんはみんな資本なのであり、それに支配されること自体にあらがうというのが、労働者のとるべき立場だったはずである。

 どうも最近社民党への愚痴が多くなるが、このところホントにどうかしているぞ。
 こないだは、福島党首が、例の久間防衛「大臣」の一連の反米発言を取り上げて、「いい発言をしてくれている。どんどん発言してもらいたい」とエールを送ったと報道されている
 この記事を読んだ時は、目が点になりましたよ。
 久間さんって、防衛庁が防衛「省」になったと言って喜んで、「大臣」になって大はしゃぎしていた人だ。もともと疑惑だらけなんだけど、それはまあいい。
 問題はなんでこんな反米発言が確信犯的に繰り返されるのかということだ。久間さんは、「神道政治連盟国会議員懇談会」のメンバーである。「神道政治連盟」と言ったら、「天皇の大御代の光栄と永久を祈る。これが、日本人の繰り返してきた祭りの心であり、ここに神道的な日本国民の良心的な社会観があり、国家観がある」と綱領にうたっている宗教集団で、以前森総理が発言して問題になった「日本の国はまさに天皇を中心としている神の国である」というのは、この団体での発言である。だからもちろん、先頃の教育基本法改悪については、「『個』 から『公』のためという筋をわが国教育の基本の一本通すことができました」と誇っている(こちら)。
 つまり敗戦前の「鬼畜米英」の感覚がベースにあっての反米発言なのだろう。アメリカによって民主主義がもたらされる以前の日本に戻したいという本音があるのではないか。こんなのにエールを送っていいのか。柳沢発言どころではないぞ。
 もともと安倍内閣というのは、久間さんなどましな方で、こういう類いの宗教的イデオロギー集団をバックに持つ人々を集めて作られている。アメリカから自立していた昔の「伝統」的日本にあこがれる本音が渦巻いている内閣なのである。しかし、まともに政治をやろうとしたら、経済や国際政治の現実から、アメリカとくっつかざるを得ない。だからしぶしぶブッシュ政権に従っているのである。
 だから社民党は、エールを送るどころか、閣内不統一を攻め立てて、安倍総理に久間さんの首を切らせるべきなのである。かつて、我々手弁当の左派活動家に支えられた社会党執行部が、現実政治の中で保守側と妥協や腹芸を余儀なくされた。それが続くことで、下部組織がだんだんとぼろぼろ疲労していった。それと同じことを、右派側にも経験させなければならないのである。
 
 
 

 

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