松尾匡のページ

 03年1月14日 これで日本が右傾化したら左派政党のせいだぞ


 昨年9月20日のエッセーで、「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」のことをご紹介しました。今平壌政権下で迫害を受けている元在日コリアンとその家族の人々を救出しようという市民運動です。

 この会の機関紙「かるめぎ」の今年元旦号で、昨年末行われた「行方不明帰国者家族証言集会」の報告が載っていました。脱北者や北朝鮮帰国者の家族が、今平壌政権下でいかにひどいことが行われているかを証言した集会です。

 今までなかなか世間の注目を浴びず苦労してきた運動ですが、昨年の日朝会談以降、ようやく市民やマスコミの関心をひきはじめたようで、そのことは喜ばしいことです。しかし、この報告を読んで残念に思ったのは、本人や秘書が参加したり祝電を寄せたりした国会議員が、自民党や公明党や保守党の議員ばかりで、社共革新系が全然いなかったらしいことです。

 昨年末の年間事件回顧番組で、拉致事件関連がこれでもかと取り上げられましたが、「日本人の拉致」「日本人の拉致」と、ナショナリズム的な方向にばかり話がもっていかれるのには、とても恐ろしく、いらだたしい気持ちがしました。
 ところがこれに対して、新社会党などは、「植民地支配下の強制連行」を拉致批判前に枕詞のようにつけることで、ナショナリズム的風潮を克服できると思っているようです。仮に韓国の朴政権なり全政権なりが同じことを日本人にしたときにも、同じように「植民地支配下の強制連行」を拉致批判前に枕詞のようにつけるのでしょうか。
 いささかでも民主的に選ばれた国民を代表する政権が、このような拉致事件を起こしたのなら、「朝鮮人も日本人を拉致したが日本人も朝鮮人を拉致した」と言ってこちらの一方的な感情を冷ますことも必要かもしれません。しかし、相手は北朝鮮人民を不法に抑圧して君臨している反人民的な少数独裁者なのです。日本の拉致被害者も北朝鮮人民も(さらには韓国の拉致被害者)も、ともに平壌政権の犠牲者なのです。そしたら「植民地支配下の強制連行」を言うことは、常々必要なことではあるけれど、ことさらここで持ち出すことは文脈上そぐわない。
 むしろ、支配階級も人民大衆もいっしょくたにして、「日本(人)」対「北朝鮮(人)」という図式をつくり出すという点で、右翼を喜ばす結果になるでしょう。これでは在日朝鮮人に対する許しがたい不当ないやがらせを助長してしまうではないか。
 北朝鮮人民も、在日朝鮮人も、韓国の拉致被害者も、ともに日本の拉致被害者や北朝鮮の日本人配偶者と同じく、平壌の暴政の犠牲者として、その痛みを自らの痛みとして受け止めて固く連帯して闘うこと、これこそ日本のナショナリズム的風潮に抗する左派勢力のとるべき立場でしょう。

 だとしたら今からでも遅くない。
 これ以上、日本の右傾化を進めないために、左派勢力がなすべきことは何か。

 一刻も早く、中国に潜伏する北朝鮮難民を救う運動、北朝鮮に渡った元在日とその家族を救う運動、韓国の拉致被害者を救う運動、北朝鮮の民主化を求める運動を支援し、平壌政権に対する民族を超えた闘いをつくり出すことです。
 この暴政の延命に手を貸す、日本も含む周辺諸国の支配階級の階級的意図を暴露し、彼らを追い詰めることです。
 そして、何よりもまず、北朝鮮人民の置かれた悲惨な状況を直視し、それに心を痛め、それを広く宣伝し、日本の民衆が北朝鮮人民を敵視するのでなくその痛みを自らのこととして受け止めるようにすることです。

 過去平壌政権に幻想を持っていたとしても今謝ればすむことです。
 ここで決断せずして、そのせいで日本のナショナリズム的風潮がさらに高まったならば、謝ってすむ話ではなくなる。腹を切って責任をとれと言われるでしょう。
 
 


 

 

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