08年3月8日 近況+最適配分率公式の微分を使わない証明
今日は、最後の入試業務で大学に来ている。とりあえず終わったので、この機会にサイト更新しよう。
まず近況を。
「犯罪」からはもう足を洗ったはず(笑)なのだけど・・・。「少年犯罪データベース」の管賀江留郎さんがおもしろいことを書いている。昨年の殺人の認知件数が戦後最少値を記録したというのである。江留郎さんは、なぜこのニュースをマスコミが取り上げないのかとお怒りである。
私は前回のエッセーの最後で、殺人の認知件数の回帰分析を試みた。そこでは、失業率と、単純な線形トレンド(西暦年)の二つを説明変数にして、殺人件数を回帰した。そしてもし平成不況期の高失業がなければ、殺人件数は90年代に下げ止まることなく、もっと順調に下がり続けていたのではないかと結論づけている。
(ちなみに、「いちごBBS」では、殺人認知件数が90年代に下げ止まっているにもかかわらず、「戦後一貫して減少している」というまとめかたを私がしているのは、読者を誤導するものとするお叱りを受けている。ここの474。いいかげんな表現ですみません。こちらにとっては、むしろ90年代に下げ止まっていることは、読者に着目してほしい点なので、誤導させようという意図は全然なかったわけです。おおざっぱにまとめただけということでご理解下さい。)しかしもちろん、線形トレンドなんか使うのは本来は邪道なのである。時間と共に変化する何かが本当の説明変数なのである。だから、ここで西暦年を使う代わりに、例えば、一人当り国民所得を使っても、GDPを使っても、高等教育の進学率を使っても、都市人口比率を使っても、生産年齢人口を使っても、どれも同じくらいいい実証結果を出すだろう。どれを使うかの選び方によっては、ここからとんでもない差別的な結論を引き出すヤツも出かねないが、多少実証結果に優劣があっても、これらのうちのひとつに原因を絞る根拠は何もないのである。
ところで、前々回のエッセーの話題の元だった「論文A」という課目は、単位が取れたやつは学生論文集に載せることになっている。本来なら教務課に提出する時に電子ファイルもいっしょに出して、それが論文集の編集担当の教員のところにまわることになっている。ところが清水咲希は現物だけ提出して、電子ファイルは直接編集担当教員にメールで送るからと言って、そのまま延々送ってこなかった。
とうとう、ほとんど編集も終わりかけて担当教員がしびれを切らしたので、催促したら、ウェブでいろいろ指摘を受けたからこのまま送ったらいけないかと思っていたとのことだった。現物で出したのと違うのを出すわけにいかないから、そのまま出せと言ったら、速攻で送信されてきた。冗談を真に受けて散布図が45度に変わってないか心配だったが、変わってなかった。
しかしまあ、「45度」「45度」とネタにしても、系列相関を見のがすくらいだから、師匠と同じ読み方の人からは「おまえには言われたくない」と言われるだけだろうな。面目ない。編集担当教員は理系の情報系教員だが、送られてきた論文の、現実値と予測値を重ねた折れ線時系列グラフを見て、「たしかに系列相関してるねえ」と言っていた。「あんまり気にしないけどね」と言うのはまあ、あんまり時系列の世界に生きていない理系の人の感想なのだろう。
このかんの出来事で、自分が大学院1年のとき受けた20年前の計量経済学の知識では、今や間に合わない(とはいえ、誤差の系列相関やコクレン・オーカットくらいは習ったはずなのだが)ことを痛感したので、蓑谷千凰彦『計量経済学』(多賀出版)を先日取り寄せた。二次の系列相関まで確かめろとか、オクレン・オーカットは駄目だとか書いてある。ああ、あの繰り返しアルゴリズム体操の苦労は無駄だったのかorz。単位根の検定とかも必要だし、共和分してるかどうかも確かめなければならないらしい。やっぱり計量は奥が深いぞ。
当面ゆっくり読んでいるひまはなさそうなのだけど。
学生論文集はここに公表される。もうじき今年度のが載ると思うのでよろしく。でも、どうせ学生に回帰分析やらせるなら、来年度は、econ-economeさん経由で知ったこういうネタ(pdf)の方が明るくていいよね。
いやまあしかし、1月末から2月いっぱいすごかった。特に、市議会議員の後援会の仕事が大変だったのだけど。2月の新年会は実行委員のみなさんのおかげで思ったほど負担でなかったけど、4月の移籍に合わせて後援会の事務局長もやめることもあって、きれいに整理しようとしたら、深夜・早朝に及ぶ仕事に何度も見舞われることになったのだった。結局何の問題もなく万事きれいに究明できたから一安心。エクセル様式作って会計を新任者に引き継いで、県選管への収支報告書も仕上げて、詳しいやつも出して監査にまわして、あとは来週末の運営会議を待つだけだ。でも、まだ後任の事務局長が決まってなくて、書類もシステムもいつでも引き継げる状態にしたのに最後の難問である。
あとはなんだかんだといろんな手続きに追われてきたなあ。
ああそういえば先日、12月に実施した大牟田のまちづくり視察の報告ページと、2月4日に大阪で実施した公開研究会「市民事業と商人道」の報告ページを作ったので、興味があったら見て下さい。なお、このへんのコンテンツは、久留米大学産業経済研究所のホームページに移す予定です。
明日9日は系列の県会議員の集いにお客さんとして参加。あさって月曜日から研究室の図書館の本の返却作業に乗り出す。4月からも毎週金曜日はゼミと講義で久留米大学に来るので、研究室は残してくれるので助かるのだが、でもこの機会にちょっとは片付けないといけない。本や資料で向こうで必要なものは送らないといけないし。
ところが11日火曜日は、学部からお別れの研究報告をしろと言われている。とんとやってない数理経済学の報告をすればいいのかと思っていたら、このかんのまちづくり関係のやつの報告をしろということだった。やっぱりそれがここでの存在意義だったのね。
まだ何の準備もしていないけど、例によってこのままいくと直前のやっつけ仕事になりそうだ。私の暮らした15年をこんな形で総括していいのだろうか。
どうでもいいが、4月からは数理経済学者として生きるぞと堅く決意しているのだが、去年の終わり頃、福岡教育大学で経済教育学会があって出かけたら、エコロジーやまちづくりにがんばる立命館大学経済学部の名物教授、藤岡淳先生と廊下で出会って挨拶になった。で、新任地のある草津では、有名な地域通貨「おうみ」はじめ、こんなこともやってますあんなこともやってますと、まちづくり関係の話をいろいろおっしゃった上、「期待してます」って・・・。「いやあ、長距離通勤で、当分慣れるまで大変ですから・・・」と笑って応えたのであった。
そんな話を周りにしたら、周りからは、「新幹線の中だけ数理経済学者」と予言されたものだが、どっこい。2月4日の大阪での公開研究会を開催しにいって気がついたのは、
新幹線の中は寝るだけ
という厳然たる事実だった。OΓ乙。
こんな私だが、一応3月3日・4日は、富山大学での宇野派・置塩派混在の研究会に参加してきている。そして、今度3月21日には、一橋大学の吉原さんのセミナーで、英語で本業の搾取論の報告をしなければならない。英語でアドリブはまず無理。これこそ準備していかないととんでもないことになるが、いったいいつから着手できるのだろうか。
吉原さんと言えば、今度岩波から出た新著『労働搾取の厚生理論序説』をいただいた。ありがとうございます。とうとう岩波文化人か。
日頃、自分の研究をちょっとすると、仕事をさぼってお遊びをしているような罪悪感にとらわれたものだが、こんな本を読むと逆の気持ちになる。「お遊びは終わりだあっ」と本業のはずの数理マルクス経済学に邁進したい気持ちが起こってくる。
今度Metroeconomica誌に掲載される拙稿も、この本でいち早くたくさん取り上げていただいてありがとうございます。もちろん全部批判されているんだけど。21日のセミナーで報告するのも、その拙稿の内容である。英語で批判されても答えられませんので吉原さんはお手柔らかに。
Metroeconomica誌にこれが載るのはたぶんもう大学を移った後なのだろうけど、所属はKurume
Universityのままになっている。ゲラ段階で、「載るときは4月過ぎているけどどうすればいいか」と上の教授に見せたら、このまま載せろと言われたもので。
ところで、昨日からカミさんは「さんまのスーパーからくりTV」に応援者で出るために、収録で上京していて明日帰ってくる。ウチの市議会議員もいっしょに出るらしい。おかげで土曜日に大学でこうやってホームページの更新とかゆっくりできているわけ。
さて、このエッセーも、移転前はこれで打止めか、あと一回あるかどうかというところだが、今日の本題(本題の方が短い?)は、今まで何度も書こうと思いながら書く機会がなかったネタをひとつ。
恐縮ですが、ミクロ経済学の専門の話です。
コブ・ダグラス型の効用関数で、最適消費決定問題を解くと、結論的に、各財の消費量の肩にかかる「べき乗数」が、予算中のその財への支出割合になる。これは、微分を使って導けばすぐ出てくる公式である。
こんな話は、公務員試験か経済学検定試験を受けるつもりのごく少数の学生にしかしないから、そもそもそんな学生はたいていの場合は微分ができるのでなんとかなる。しかしときに、微分ができないのにこんな試験を受けようという学生も現れる。そんなときには、仕方ないから、結論だけ覚えるように言うしかなかった。
ところが、これを微分を使わずに証明することに成功したのである。
消費財は二財あるものとする。コブ・ダグラス型の効用関数は、u=Ax1α
x2(1-α)
とかける。ただし、uは効用、x1は第1財の消費量、x2は第2財の消費量である。Aは正の定数、αは1より小さい正の定数である。
今、z1=p1x1/α、z2=p2x2/(1-α)とおく。ただし、p1は第1財の価格、p2は第2財の価格である。p1、p2はこの家計にとっては、市場で与えられる定数だから、u→max
という問題は、z1α z2(1-α)
→max という問題と同値である。
ところが、相加平均と相乗平均の関係より、
z1α z2(1-α)
≦αz1+(1-α)z2=p1x1+p2x2=Y
ただし、Yは所得である。左辺が最大となるのは、等号成立のとき。
等号成立は、z1 、z2が等しく平均値Yをとるときだから、これより、p1x1/Y=α、p2x2/Y=1-αがしたがう。q.e.d.
同僚にこれを見せたら、均等割りではない加重的な相加平均・相乗平均関係は、そもそも微分を使って導出されたものではないかと言われた。そのときはそうかと引き下がったが、よく考えたらそうではない。適当に細かく均等分割して、そのうちいくつかが同じ値だったと考えればよい。例えば上の例でαが1/3の場合は、z1、z2、z3で1/3ずつかけて平均することにして、うちz2とz3が同じ値だったと考えればよい。
1/2とルート以外でも、変数がいくつあってもこれが成り立つかということについては、両辺の対数をとれば、凹関数の性質から証明できる。
でも、微分も出来ない者が、相加平均・相乗平均関係なんて知るはずないから、やっぱり教育上の実用性は全然ないな。残念。