松尾匡のページ

09年6月18日 名古屋で喫茶マウンテンに行った



 二週連続の学会コメンテーターが週末にあって、6月に入ったとたん、終日久留米にいる日は金曜日だけという週が続いた。今晩帰宅して久しぶりに自宅五泊四泊になるな。(研究会で月曜には立命行きだった──6月20日訂正)
 このかん、12日には、朝自転車で久留米大学に向かう途中、河川敷で後輪がパンクして大変だった。しばらくそのまま走ってたら、チューブがはみ出してきて巻き付いて動けなくなった。河川敷だから、直近の自転車屋までかなり距離があるので、後輪を浮かせて押していくこともキツすぎて無理。それでチューブを切ることにした。ところがこれが丈夫で簡単に切れないので、断裂が入っているところを探してやっと二箇所切り、ぶら下がるやつをリムに絡み付けてやっと押して行くことができた。

 そういえば、京都教育大の準強姦事件で、加害者の知り合いの久留米大学の経済学部の学生が、ミクシーに被害者を中傷する書き込みをして騒動になり、学部長が謝罪したのだが、それも収まらないうちに、今度は立命館大学の経済学部の学生もミクシーで同じことをして騒動になった。全くけしからんことで、関係者として慚愧の念に耐えないが、しかし世の中にたくさん大学があって、なんでよりによってこの二校の、しかも経済学部なのか。どこかの掲示板とかで、松尾が煽ってるんじゃないかとか書き込まれるんじゃないかと思って恐い。決してそんなことはありませんので。
 なんか最近プチ受難続きなので、何が起こっても驚かないよ。

 ついでに言えば、退職金の運用で大損した話は以前書いたけど、退職金の残りがまだあったんだよね。それなんだけど、今毎週の交通費がかなり足出してるわけ。スカウトは、半期15回の講義で、一往復3万円かかるけど、半期30万円まで交通費が出るから、足が出るのは半期5回分、一年30万円だけだって計算してきて、うーんと悩んだ末、目をつぶって移籍決断したんだけど、ふたをあけてみたら、定期試験監督はあるし、月二回の教授会は長期休暇中も原則あるしで、全然半期15回ですまないよ。SAG×サ×♪。
 それで、なんとか交通費浮かそうと、JR西日本の株主優待に目をつけたわけ。一株で年一回チケットを半額にしてくれる。それまで株価が一株55万とか56万とかしてたのが、経済危機後30何万とかになっていたので、ここは底値だと思って退職金の残りつぎ込んで10株買った。まあ、足が出てるのの半年分弱はこれで取り戻せる。
 と思いきや、そのあと、例の高速道路千円ってやつが始まって、JR西日本は株価続落。今年の株主優待の交通費節約分はきれいに宙に飛んでしまった。OΓ乙。

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 こないだの土日は、応用経済学会で名古屋に行ってきた。
 例によって、開催地へ向かう機内でコメントレジュメを手書きで書き出して、その晩の懇親会と、名古屋大学の知人との飲みを経て、深夜ホテルで書き上げて間に合わせるという、毎度のパターン通りの展開だ。
 結構おもしろい計算が出来たので、明日、スキャナーがある久留米大学の研究室でこのサイトにアップしておこう。

 でだ。名古屋と言えば、名古屋大学から地下鉄で一駅の距離にこんな喫茶店があるのをネットで見つけた。その名も「喫茶マウンテン」。詳しくは↓
http://members.at.infoseek.co.jp/rimssecret/mountain.htm
http://park7.wakwak.com/~nymidi/mountain/

 「甘口抹茶小倉スパ」「甘口イチゴスパ」「小倉丼」「たらい氷」・・・。恐ろしい。この世にこんなものがあっていいのか。
 これはぜひ行かねばならぬと、事前にメールで同行者を誘ったのだが、次々と逃げられた。それで、学会当日はビラを作っていって(先にレジュメ作れよ!)、休憩室と言わず懇親会と言わず勧誘に励んだ。
 何人か色よい返事をした人がいたので、学会最後の講演である、京都大学の西村周三先生の「医療経済学と医療政策」を聞き終わったら、みんな打ちそろって出かけようということになった。
 それで翌日いざ西村先生の講演が終わったあと、早々に会場の外に出て待っていたら、九州産業大学の関根順一さんが出てきたあとは、ゆうべ声をかけた人がもう一向に出てこない。まだ中でダベってるんかと思ってのぞいてみたら、もうほとんど人がいなかった。最初から逃げられていたのだ。
 ああ関根さんだけが心の友だ。

 で、関根さんといっしょに方角を議論しながら住宅地を歩いていった。話は自然と、直前の西村先生の講演の話題になったのだが、西村先生が行動経済学の成果もふまえ、医療の世界では普通の経済学の想定する合理性の前提は成り立たないと強調されていたことに対して、僕は合理性概念を拡張して経済学の立場を擁護する立ち回りになっていた。
 そうするうちに、目的地に着いた。着いたらこんな感じだった。

 まだ梅雨でない6月の晴天から垂直の日差し。そこに並ぶ三、四十人の若者の行列が目に入ってきた。す、すごい。ここに並ぶのか。
 見ると、ウェブで何度も見た大看板が。

 停めてある車のナンバーを見ると、横浜、山梨、神戸、大阪、京都・・・。すっかり観光地。晴れの日曜日で全国から集まっているんだ。

 ああ、車の向こうにサボテンが見える。食材に使われているという噂の。
 前に並んでいる若者のグループは互いに敬語で会話している。どうやら、この行列で知り合ったグループどうしが打ち解けているようだ。だんだん分かってきたが、ゴスロリ衣装のコもいるオタク系女の子のグループ一つと、男の子のグループ二つ以上の、少なくとも三グループ以上がこの場で融合したようだ。すごいぞ喫茶マウンテン。人類に平和と友好をもたらすのだ。
 それを尻目に、もともと浮き上がった年格好の我々二人は、相変わらず周囲に壁を作る会話をしている。関根さんが、もしここで店主が出てきて「せり」を始め、高い値を払うと言った者から順に入れると言ったら、みんな怒るだろうと言った。たしかに、それで怒って帰らずに残るのは経済学者だけかもしれない。
 それはしかし、みんなあらかじめ価格情報を得て、それを承知してわざわざ出てきているのだから、それが勝手に変えられることになるので怒るのだろうと僕は言った。
 だが、阪神大震災のとき、人々の足下を見て高値で物資を売った行商者は責められたのだ。経済学的に考えれば、そんな行為を罰したら、被災地に持ち込まれる物資が減ってしまう。それなのになぜ人々は、そんな少しでも被災地に物資を持ち込む良い行為を、悪いこととみなしたのだろうか。
 僕は、もし供給が簡単に増やせない状況で、そんな人の足下をみて価格をつり上げる行為をしたら、独占レントが発生して資源配分が不効率になる。だからそんな条件下では、これを罰しようという感情は合理的なのであって、人類は今までこんな条件のもとで暮らしてきた期間が長かったのだと言った。
 そう、あくまで合理性にこだわるワタシ。しかしそんなことを言いながら、
自分が今からやろうとしていることは何なんだ!

 結局暑い中軽く一時間は待って店の中に入った。うしろには長い列がまだ続いている。前の融合グループは、元グループをシャッフルした形でいくつかに分かれて、順に誘導されていった。

 ふと見ると、手書きの新メニューが。
 関根さんは、5時過ぎの飛行機ということで、余裕と思ってついてきてくれたのに、すでに3時をかなりまわって焦りだしている。ようやく座れても、メニューがなかなかこなかったりして、結局、関根さんは、すぐにくるものということで、チョコレートパフェを頼んだ。
 これ、来たばかりのやつも写したんだけど、なぜか写ってなかった。少し食べたあとの様子。

中までガンガンにアイスクリームが詰まっています。底上げシリアルなんて姑息なものは一切無し。

 僕の頼んだのは、超極悪で名高い、この店の看板メニュー「甘口小倉抹茶スパ」。これが、関根さんがパフェを食べ終わる頃にやっときた。
 一口食べてみたあと。

 モワッと抹茶と油の混ざった臭い。ひたすらぶっといスパゲッティ麺に抹茶が練り込んであり、それ自体は甘みも塩味もなく、麺自体の味の中で苦みだけが主張している。それが熱い。
 これは噂にたがわぬ手強さだ・・・と思ったところだった。これから大変な「登山」が始まろうというときに、関根さんは帰ってしまった。
 ああ無事飛行機に乗れただろうか。こんなへんなことにつきあわされたせいで。すみません。すみません。報告論文ちゃんと読ませていただきます。
 孤独な闘いになってしまった。朝食も昼食もとってないのに、何口か食べてもう満腹である。あとまだまだこんなにも残っている。

 いろいろなサイトでは、あんこの甘さがキツいと書いてある。しかし僕には麺それ自体の味の方がよほど厳しかった。それで、あんこやクリームがなくならないように少しずつつけながら食べていった。
 いっしょに、流し込み用に「ストロングコーヒー」を頼んでいた。これは濃いことで有名なのだが、それ自体は僕は苦にはならない。しかし、苦い抹茶スパを流し込むのに、同系統の苦いコーヒーというのは取り合わせがまずかった。
 むしろ、コーヒーにお茶請けでついてくる小さなクラッカーが、塩味が効いてありがたかった。僕はクラッカーを少しずつ割って、スパといっしょに口に含みながら食べ進んでいった。
 こうして、抹茶麺とあんこを絡めたものに、混ぜるクリームの量を変えつつ、黄桃とクラッカーを交代して少しずつ口に含めながら、流し込むのもコーヒーと水でバリエーションを作って攻略していった。
 終盤、麺の色が濃くなったので、何だろうと思ったら、ただ焦げているだけだった。ますます苦みが増す。しかし、麺が冷えてくるので、その分はだんだん楽になった。これは行けるぞ。
 先が見えてきた。吐き気をこらえて一気に行く。

 とうとう登頂。もう戻したいだけ。しかしせっかくのソースをこんなに残しては悪いじゃないか。

 そこで、コーヒーのお茶請けにもう一つついているミニケーキを使って、

ソースをぬぐいつけて食べた。マンゴー味がオアシスのよう。
 はい完食。ごちそうさま。

 さすがにもう店の外には行列がなかった。さらばマウンテン。

 帰り道は吐き気を抑えるのに必死だった。宿までたどり着いたらまだ4時半ごろだったけど、もうその日は部屋の外に一歩も出なかった。もちろん夕食を食べる気にはならなかった。

 ブリタン・オブ・ポリティカルエコノミー誌に今度載る僕の論文の原稿を吉原直毅さんに送ったら、つい先日、早速吉原さんとロンドン大学のベネツィアーニ氏が共著でそれに対する批判論文を書いて、送ってきてくれた。同じ雑誌に投稿するから、その前にコメントをくれとのこと。
 早く投稿したいだろうから急ぐべきだと思って、その論文を持っていっていたのだけど、もちろん前夜までは自分のコメントレジュメ作成でそれどころではなかった。その用事は終わったのだけど、今度は前夜の寝不足の上に抹茶スパの威力で気分が悪くて、やっぱりそれどころではなかった。

 しかし、もう駄目だ、もうあんなものは食べたくない、と思っていたのに、こうやって思い出してみるともう一度食べたくなるのはなぜだ。あのにおいがなつかしく思えるのはなぜだ。
 今度名古屋で学会があったら、もう一度行くぞ、喫茶マウンテン。


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