松尾匡のページ

12年7月29日 今度は共著が出た



 『新しい左翼入門』早速増刷決定! お買い上げいただいたみなさま、ご紹介下さったみなさま、本当にありがとうございます!
 それにしても、恐るべし講談社販売部。まいりました。タイトルが「左翼」じゃ売れないなどと、しろうと判断でゴネてすみません。

 講談社のメールマガジンで、担当編集者さんが書いている当初タイトル案は『社会運動とは何か』ですけど、これは編集者さんのアイデア。
 ボクの案は、『世の中の変え方注意書き』ってのでしたけど、はなから全然相手にされませんでした。
 今周りの人に言ってみたら、「売れん売れん」とか「そらアカンなあ」とか、そんなんばっかり。なぜだ。

 ご紹介いただいたブログなどのうち、お名前をあげても迷惑でなさそうな知人を中心に、記して感謝しておきます。
濱口桂一郎さま 稲葉振一郎さま 大坂洋さま 梶谷懐さま 児玉昌己さま(上下) Utahさま(アマゾンレビュー)
ありがとうございました。

 でもいまだにこんなタイトルで売れていることが信じられないんですけど。
 例の官邸前抗議行動の主催者が、労組の旗を禁止するのに「日の丸」を許しているのは、「左翼と見られないため」だそうで、それくらい偏見いっぱいの世の中だと思うんですけどねえ。

 ちなみにこの問題、このところ何も実践らしきことをやっていない身では何も言う資格がないことは重々承知の上で、とりあえずコメントを許していただければ、主催者の人たちが意識的な政治的背景がなくて言っているならば、それは説得の対象でしょう。左翼活動家は率先してめんどくさい業務を引き受けて信頼を勝ち取って、自分の言うことに耳を傾けてもらうよう努める。「日の丸」で右翼集会みたいに見える印象を「中和」するためには、組合旗がダメなら反原発スローガンを書いた赤旗を立てる。所属を示すには、ワッペンなりゼッケンなりを付けて、大衆の前で、盾になったり弱者をいたわったりゴミ拾いしたりして、評判を高めていく…といったことが必要なのだと思います。
 ま、何もしてないのにこんなこと言うんだから、なんてサイテーな自分って思いますけど。誰が言っているかにかかわらず、考慮に入れるべき意見と思ったらご検討下さい。

 何もしてないというのも、この本が出てからもなんだかんだと用事がたてこんでいっこうに楽にならないせいでもあるわけで…。
 目下さしせまっているのは、7月末までに某学会の雑誌の特集原稿四本を編集しなければならないことで、いろいろ急ぎの修正をお願いしたりしてご協力いただいているのですが、一本どうも大幅な修正が必要そうなものがあって、さあどうしようと、途方にくれつつここ何日。

 前期試験の監督が終わった翌日まで滋賀にいたのですが、最後の日は、マークシート読み取り操作を教員がやらなければならないもんだから、セコセコとやったあと、部屋の本、資料類を段ボール箱に詰めて宅急便で久留米の自宅に発送。カミさんから、「たねや」のお菓子を買ってこいという指令と、5時頃までに帰りつけという指令がでているので、昼休みの組合の会議に出ているのは無理そうに思って頭を下げまくってサボって出ました。まあ、「たねや」のお菓子は、後期内地留学する九州大学理学部の受け入れ先の先生に、挨拶に行きたいのでボク自身別途必要だったのですけど。
 で、慌てて出てきたので、実は当面必要な書類を段ボール箱に入れずに直接リュックに入れてもって帰るために机の上に取り分けておいたのですが、見事忘れて出てきてしまったのでした。

 そして、博多駅で新幹線から在来線の快速に乗り換える。いつになくぴったりの接続で、これは余裕で間に合うかもと思っていたら、…新幹線の座席上の棚に「たねや」のお菓子を忘れてた!
 慌てて次の駅で降りて、博多駅まで戻り、忘れ物の預かり所にいったら、よかった、ちゃんとあったぞ。でも時間が足りなくなっているので、これは九州新幹線で行くしかないと思って、新幹線料金払って「さくら」に乗りました。そしたら…
 この「さくら」、久留米駅に停まらないじゃないか。
 で、久留米の次の駅で降りて上りの新幹線に乗り換えて、やっと家に辿り着いたのでした。

 そしたら、なんで5時までに帰れということになっていたかというと、カミさんの職場の飲み会なので夕食の準備をせよということだったのですが、結局、やっぱり間に合いそうだからということでカミさんが夕食準備していたのでした。何も慌てて帰ってくることはなかったという…(午後までいれたのなら、某外国で連絡とれなくなってた院生が事務にくるというので、捕まえて一言言ってやりたかったのですけど)。

 とまあ、相変わらず、目の前の課題で頭がいっぱいになって他のことに気が回らなくなる性格を発揮しているわけですが、今度の新書も、本当は後ろ四分の一ぐらいに書いた、決定とリスクと責任のバランスについての組織論が本当に展開したかったことなのですが、そのつかみのために専門外の歴史記述を始めたらその課題にのめり込んでしまって、出来上がったら歴史の本みたいになってしまいました。

 その本当に書きたかったことについて、ある程度詳しく展開した文章が共著で出ました。『新しい左翼入門』の中でもちょっと触れたのですが、

社会主義理論学会編『資本主義の限界と社会主義』時潮社、2800円+税

です。 amazon セブン&ワイ HonyaClub 

 ここの最後の章がボクの章で、ベテラン「革命家」の「南天南八(なんてんなんぱち)」と、アイドルの女子大生「下原千恵(げばらちえ)」の掛け合いという形式で書きました。国営指令経済で特権と粛清が発生するのはなぜか、ソ連・東欧経済が私有資本主義になった理由、なぜコルホーズ制をとったか、労働者自主管理企業で内部資金で蓄積すると年功制や会員権方式を通じて変質すること、ユーゴ型自主管理経済がインフレで崩壊する必然などを説明したあと、決定とリスクと責任のバランスという観点から企業の主権のあり方を考察しています。
 背景には、ゲーム理論などの応用ミクロモデルがあるのですが、もちろん、まったく数式などは出さず、例によって主観的には一般向けにわかりやすく書いたつもりです。実はひとりよがりかもしれませんけど。参考文献案内もたくさんつけましたので、立ち入った勉強をしたいときにも役立ちます。

 目次などはこちらの「労働運動資料室サイト管理人」さんのブログの記事をご覧下さい。
 鎌倉孝夫、大西広などの有名人も書いています。ボク個人の感想では、やはり編者の田上孝一さんの疎外論の章がおもしろかったです。ボクはマルクスの文献考証はそれほど得意じゃないので、田上さんが厳密にやってくれているのを読むと、やっぱり正しかったと自信が持てます。
 それから、山崎耕一郎さんの「労農派社会主義の原点と現在──山川均論を中心に」がおもしろい、おもしろい。ちょうどこんな話を書いたところですからね。ボクが省略した、敗戦直後の「民主人民戦線」の話も詳しく載っています。山川が、社会党、共産党両党や労働組合など幅広い勢力を糾合して、戦後民主体制を根付かせるための共同戦線を作ろうとしたものです。石橋湛山なんかも加わるんですね。でも、社会党も共産党もわが党大事で冷淡で、結局ポシャってしまいます。
 でも自分が同じ立場にあったら、こうなってしまうことがわかっていても、やっぱり山川と同じように考えたと思いますわ。

 というわけで、『新しい左翼入門』と合わせて、是非お買い上げを〜。図書館などにも発注お願いします。


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