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14年2月4日 小谷崇さんを追悼して都知事選挙について



 2月1日に経済理論学会のメーリングリストで、政治経済研究所の小谷崇さんの訃報が届きました。1月29日、急性心不全のため逝去。享年85歳とのこと。
 去年の経済理論学会大会に姿を見せなかったので、どうしたのかなという声はあったのです。しかし、私は小谷翁は不死身ということを当然の前提にしてきたので、深く気にかけないできたのでした。だから突然の報に、心にどう整理をつけていいか途方にくれています。

 2012年の愛媛大学での経済理論学会大会の後の夜、小谷翁と八尾信光さんと三人で飲んだときの話を以前このエッセーコーナーに書きました
 そのときにも書きましたけど、今、経済理論学会(マル経の全国学会)で、大声で総需要拡大政策を唱えているのは、このときの小谷翁と八尾さんと私と、あとは「百年国債」の日銀引き受けを提唱されている岩下有司さんくらいかな。小谷翁は長年、無期限無利子国債の日銀引き受けで無から資金を作り、巨額の給付金を大衆にばらまいて景気回復させる政策を唱えておられました。はい。経済理論的に全く正しい政策だと思います。
 エッセーに書いたとおり、そんな三人で飲んだら、当然、総需要拡大政策に冷淡なマル経学界や左派言論界へのグチで盛り上がったのですが、その晩の小谷翁の話はそれにとどまりませんでした。どんどんと酒が進んで話が尽きないという感じでした。
 戦時中授業でこの戦争は負けると言っていた恩師の話。軍国少年ばかりでも、それを誰一人密告しなかった自慢。戦後労働争議で、酒を持って闘争オルグに行っていたころの話。
 長年、洗面所共用の木造安アパートに住んでいるのですが、昔からの住人はすっかりいなくなり、短期に入れ替わる派遣だらけになっているとのこと。その一階の二部屋を借りて、一部屋は書庫にしている。以前上の階にいたら床が本で歪んだそうです。
 このアパートの大家が、経済理論学会でも日本経済学会でもない学会の人で、政治的理由から小谷さんを追い出そうとしたので、裁判闘争をして勝利したとのこと。このとき最初、共産党系の弁護士に相談したら、「先生がこんなところに住んでいてはいけません」と言われてとりあわなかったので、小谷さん相当お怒りだったそうです。
 是非一度拝見したかったので、今度泊まりに行きたいと言ったら「男は泊めない」だと。

 そんな小谷翁が、民主党政権時代に、会うたびにおっしゃっていたのが、戦前ドイツ社会民主党のヒルファーデング蔵相が均衡財政にこだわって大不況を激化させ、ナチスの台頭をまねいた轍をまた踏むのかという話。その後政権をとったナチスは、大規模な公共事業で完全雇用を実現して、大衆の支持を盤石にしたのです。

 昨今、戦争経験者から戦争前の雰囲気に似てきたという話を聞きます。そんな人たちに、この日本の行く末について死ぬ前に安心させてあげたいと思っているのですが、また一人、こんな不安な先行きの中で死なせてしまったと思います。
 しかも、多くの人たちが不安に思っているのは、専ら単に政治状況についてだと思います。小谷翁の場合は、経済政策の失敗によって左派・リベラル勢力の大衆的信頼が失墜し、そして今、右翼政権の経済政策が功を奏して大衆の支持を獲得しつつあるということまで予感できている点において、ひとしおの不安の中で死なせてしまったと思います。

 本サイトのトップページの1月25日の短信でも書きましたが、目下の東京都知事選挙。細川・小泉連合が票を取るとはとても思えません。見るからに「失われた20年連合」のイメージです。
 今、細川さんから小泉改革、民主党政権に至る、この20年の「改革」って何だったのかという怨嗟の気持ちが大衆の間に満ち満ちていると思います。小泉さんに「痛みに耐えろ」と言われて、輝く未来を信じて延々と耐え続けたのに、なんにも事態は改善せず、悪化するばかりだった。それが結局、政府がおカネを使えばあっさり解決するものだったとわかったわけです。なんだったのかこの苦労。怒って当然です。そして、この20年の犠牲しかなかった「改革」の立役者が、雁首揃えているのが細川陣営ということになります。

 まわりの言説を目にすると、こういうことについてのセンスの乏しさに、今さらながらびっくりしているのですけど。

 いや、左翼嫌いの脱原発派が細川支持するというのには何の文句もつけるつもりありません。
 左派、革新派を自認するあなたに言いたい。
 こと脱原発について、小泉さんを利用するということまでは作戦として否定しません。しかし、革新統一候補が成って、保守側が三分裂してくれたならば、それだけでもう小泉さんの利用価値は首尾よく果たされたということになりませんか。
 都政は原発問題だけではないのです。小泉さんによってどれだけの若者の人生が狂わされたかを考えれば、それは先の大戦と同じようなものです。戦後、A級戦犯がリーダーに入る陣営を、左翼支持者が応援することがあり得るかということです。

 おそらく舛添さんは、細川さん宇都宮さんの票を合わせたよりも多くの票を取ると思いますので、脱原発派の「統一」を気にして細川陣営に遠慮することはもともと意味のないことだと思います。いや、細川さん宇都宮さんの票を合わせたら舛添さんを超える事態もあるかもしれませんけど、それは、宇都宮さんが二位の場合だと思います。細川さんが二位のときにそうなる可能性は乏しいと思います。
 有権者が望んでいるのは、まず何よりも福祉や雇用の拡充なのです。それは当然のことです。福祉や雇用や生活の問題についてあいまいにするような選択はあってはならないと思います。

 都知事選挙の結果は、おそらく、総需要拡大政策を汚いもののようにみなす「改革」の時代の終焉を見せつけるものになると思います。それを見て、左派・リベラル派の勢力には、今度こそ経済政策について大方の認識を改めてほしいと思います。有権者がまず何を望んでいるのかを直視し、来年にも来るべき総選挙で安倍自民党が圧勝することをどうやったら防げるか真剣に考えてもらいたいと思います。自分としては、少しでもそういう動きになるように力を尽くすことが、小谷翁の追悼だと思っています。

 小谷さんにからんでは、まだいろいろ書きたいことがありますが、今日はこれくらいで。近々またエッセー更新するかもしれません。



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