松尾匡のページ

14年3月16日 右腎臓全摘しました



 いろいろあって更新が止まっていましたので、書くべきネタはたくさんたまっているのですが、とりあえず近況報告のみ。

 昨年末、右の腎臓の内部にごく初期の癌が見つかり、3月7日に入院、10日に手術し、右の腎臓を全摘しました。術後の経過は順調で、明日退院予定です。ごく初期の小さな癌で、腎臓の内部深くにあったのを、腎臓まるごと取りましたので、今後の転移の可能性もまずありません。
 担当医師はとても優秀で丁寧で、スタッフのみなさんも親切で、本当に感謝しています。

 やっぱり手術当日の夜はキツかったです。将来歳とって死ぬ前は毎晩こんな思いをし続けるんだろうなとか、これから歳とっていくと、こんな経験何度もすることになるのだなとか考えて、これからの人生はかなんでいました。それを考えるとやっぱり今後高齢化を支える人手は足りなすぎるぞとか…。
 ちょっとした苦痛に耐えようとすると吐き気に襲われるのがたまらなくて、やっぱりこんなんじゃ、これから強権国家になったら拷問に耐えられそうにないな、責め手が美女でも無理だな(?)、やっぱり転向するしかないな…などと悶々と思っていたわけです。(追記:傷口はそれほど痛まなかったのですが、長時間の手術中の姿勢のために「肩凝り」のすごいやつになっていて、右肩が痛かったのです。3/17)

 翌日11日は排尿できずにむくんでいき、飽くなき挑戦の末ようやく成功。が、その晩はガスが出ないのでお腹が張って眠れず、12日は排ガス闘争にあけくれる。で、やっと出たはいいが、その晩は便が出そうで出ないを繰り返して眠れず、13日は排便闘争の一日だ。これもようやく勝ち取り、今夜こそは眠れるぞと調子良く寝込んでいたら…伊予灘地震の揺れで起こされて、また寝付けなくなったのでした。こういうオチかい。まあ、被害にあった方々はそれどころではないでしょう。お見舞い申し上げます。あれが手術中来てたらどうなってたかとか思うと怖いですね。

 まあそうやって人間の機能をひとつひとつ取り戻して、身体からチューブとか付属物がひとつひとつ消えていき、いたって順調に回復しました。医師からは今度の土曜日の卒業式に関西に行けると言われています。

 ところで、ウェブ雑誌シノドスの連載記事「リスク・責任・決定、そして自由!」ですが、先日入院中の12日に第5回が掲載されています。
第5回 ゲーム理論による制度分析と「予想」

 入院前日に脱稿して送り、入院後、校正を繰り返して手術前日ぎりぎりで完成という、いつもにもまして綱渡りな仕上げ方でした。
 実は、2月下旬に掲載いただく予定だったんですけどね。読者のみなさまにはお待たせしてすみませんでした。

 2月21日に、学生さんの学習サークルの連合会みたいな団体から講演を頼まれまして、リフレ論を語ったのですが、このパワーポイント資料、数日前に主催者に送ったら作り替えを求められましてね。いや、てっきり結構左派系の団体と思って、左派・リベラル側の危機感に訴える作り方をしたのですが、実は保守系の人もいる政治色のない団体だって。政治的なところは全部カットになりました。
 最初の「つかみ」の部分、相当エネルギーかけて作った自信作だったけど、全部カットになっちゃった。残念。もったいないからその「つかみ」の部分だけしばらくここにあげておきます(ppt.3.9MB)。東京都知事選の分析から始めています。
 まあそういうわけで、資料の作り替えに追われ、シノドスの連載はその講演が終わるまで着手できなかったわけですが、講演が21日で締め切りが24日なので当然できるはずもなく…。
 3月1日、2日に東京工業大学で「ゲーム理論ワークショップ」があって、九州大学の数理生物学研究室の共同研究者が発表するのについていくので、今度のシノドス原稿のテーマがちょうど「ゲーム理論」だから、何か反映できるかもしれないということを口実に、同ワークショップが終わるまで締め切り延ばしてもらったのでした。

 行ってみたら、なつかしい内地留学中知り合った数理生物学研究室関係の人たちがたくさんいて、「シュジュツするぅー」「エーッ」といった会話で盛り上がっていたわけですが、経済学系の報告はさっぱりわからん。生物学の報告の方がよっぽどわかります。
 結局、経済学系は「マッチング理論」の話ばっかりで、今回のシノドスの制度論関係にかかわる話は全然なく、「反映」なんて無理じゃん。どうするんだよ。
 帰途滋賀のキャンパスで一泊して、教授会に出て九州に帰宅したのでした。
 そのあと、確定申告期間が入院中に終わるので、入院までに確定申告を終わらさなければならなかったし...。これがまた着手してみると、書類がどこ行ったと探しまわり大変でした。

 そんなわけで遅れてしまったわけです。どうかご了承下さい。
 ちなみに、この入院、手術の件がありましたので、シノドス連載の3月下旬の分はもともとから休載させていただくつもりでいました。それゆえ今回のは、2月、3月分の合同とご理解下さい。

 さて、こんなことがあって腎臓が片方になり、今まで二個でやっていた血液浄化を一個でするわけですので、若干機能は落ちて、しばらく慣れるまでは疲れやすくなるようです。腎臓に送り込まれる血流量は、全身の4分の1だそうで、そりゃ大変だろうなと左腎臓に同情を覚えるわけです。
 そういうわけで、もう九州からの毎週の長距離通勤は無理だろうということになっています。
 そこで、今回入院までのバタバタのスケジュールの中で、京都市内に部屋を見つけましたので、新年度から単身赴任することにしました。幸い、一人息子をなんとか入学させてもらえる大学があって、春から一人暮らししてくれるので、もう私も家にいる必要もなくなりましたし。
 退院したら、卒業式とか、28日の経済教育学会のパネリストとか、その他の年度末諸務の合間を縫って、ひっこし準備を進めることになります。こんな身体で大丈夫かいなという気もしますが。

 今回の癌が見つかったのは、もともと副腎に腫瘍があって、今の所別に悪いことはないのですが、警戒のために半年に一回CTを撮っていたからでした。腎臓癌は症状がないので、普通は手遅れになってから発見されるものなのだそうです。しかもこの副腎の腫瘍も、肝機能が悪くなったために、肝臓を調べる目的でCTを撮って発見されたものでした。こんなことがなかったら、十年後ぐらいに腎臓癌が手遅れで死んでいたかもしれない。
 いつもいろいろプチ受難にあってばかりいますので、その分大受難を免れているのかなという気もします。赤点ばかり取ってどこも大学入れそうになかった息子も入試に通り、担当の修士二回生も修士号とり、手術も無事終わり、ハードルが次々クリアされて春に向かっていくのは壮快であります。

病室の窓
眺望最高の病室の窓。久留米市街地が広がる。この病院は建築デザインの賞を受けているとのこと。



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