松尾匡のページ18年4月7日 ブレイディみかこさん、北田暁大さんとの鼎談本が出ます
とうとう10ヶ月近くもエッセーの更新を空けてしまいました。
いやほんと人生どんどん忙しくなっていまして、いつも原稿とか校正とか講演準備とかに追われていますので、自分のホームページにエッセーとか書いていたら、「あいつ俺のところの仕事ほったらかして何やってんだ」と思われそうなので怖くてできないのです。同じ理由で、自分の研究になるともっと後回しね。
もっとも、そんなことを言いながら、更新が止まっているうちに、一応学術的な論文も4本(ほとんどは依頼論文だけど)出ているので、それを含めて諸々、研究業績リストのページを更新しておきました。
【安倍自民党に勝てる政策の売り込みにあがいたけど】
多忙さ、特にすごかったのが10月頃。なんか記憶が飛んでる感じがします。もともと月一、二回のペースで講演させていただいておりまして、本当にありがたく思っていますが、なにしろ10月は総選挙もありました。選挙の前の週は三回講演の機会をいただきました。
実は、総選挙が決まった後に、某政治家さんから、ご所属政党の経済マニフェストに提案する下案を作れというご下問がありまして、締め切りが数日後に切られていたから、「ひとびとの経済政策研究会」のメンバーで恐慌状態。時間切れでパーになったらいけないので、一段階ついた都度途中原稿を送りつつ、なんとかギリギリ間に合わせて提出したら、その途端、その政党としての出馬がなくなって、マニフェスト案は宙に浮いたのでした!
さあ、みんなで歌おう「豊洲の女」。
あんまりもったいないので、急作りの粗々だったのを手直ししつつ、ツテを頼んでいろんな政治家さんに採用をお願いしたのですが、どこからもお呼びはかかりませんでした。最終的にできたやつを、e未来の会のかたが、とてもきれいなレイアウトのカラー印刷版にしてくださいましたので、「ひとびとの経済政策研究会」のブログにアップしておきました。ぜひご一読ください。
「反緊縮経済政策マニフェスト案」印刷用
あるジャーナリストのかたからは、某野党党首に取材する機会に主張を手渡すから5ページ以内にまとめろと言われ、やはり大急ぎで「ひとびとの経済政策研究会」で「<経済政策提言レポート> 普通のひとびとが豊かになる景気拡大政策――安倍自民党に野党が勝つために」を超圧縮要約して、渡してもらったのですが、これも何の反応もありませんでした。
ともかく、ご厚意をいただいたジャーナリストのかたと、仲介していっしょに文章を練ってくれたかたに感謝します。
そんなころ、ウェブ雑誌のシノドスさんから選挙にあたっての記事を頼まれ、最後の「あがき」と思って、野党各陣営に採用してほしい経済政策の訴え方を文章にして載せてもらいました。シノドスさんには、機会をいただきましてありがとうございます。
左派・リベラル派候補がアピールすべき要点
でも、やっぱりどこからも反応がなくて、結局案の定、改憲勢力に三分の二以上を許す結果になったのですけどね。
同じ頃には、石戸諭さんに取材していただきまして、インタビューをもとにウェブ雑誌BuzzFeedの記事にしてくださいました。やはり、若い世代ほど安倍自民党の支持率が高いけど、若者は決して保守化していない、その原因を見極めて対抗政策を立てないと野党は勝てないという内容です。私なんかが書く味気ない文章とはやっぱり違います。
「損している若い人たちを救えない政治」 どう変えていくのか?
【台風一過のハーベイ講演会】
10月は、こんな激動の中に、経済理論学会関連の大仕事があったのです。
経済理論学会の大会そのものは10月28日、29日に中央大学でありまして、学会の幹事で分科会の司会があてられてますし、今年2018年の大会の担当校なので挨拶もしなければならないので、参加しなければならないのは当然なのですが、それだけではない。
経済理論学会で「ラウトレッジ国際賞」という賞を非主流派の経済学者に毎年出しているのですけど、この賞を受賞したニューヨーク市立大学のデーヴィド・ハーヴェイ教授が来日しますので、我々立命館大学経済学部でも一般向け講演や大学院生向けセミナーをしてもらって、要はまあ、金のない学会のために協力してあげたわけです。
そしたら、辣腕学部長とか、有能な若手同僚たちのおかげでばっちり実施できたのですけど、まあ一応企画代表者だったものでいろいろ忙しかったことは間違いないです。なにしろハーベイさん到着の翌日が総選挙の投票日で、その翌日が一般向け講演の日という日取り。選挙前のいろいろとハーベイさん招聘準備が重なったわけです。
しかも、一般向け講演の当日は未明に台風がきまして、そもそも飛行機が予定通り着くかから危ぶまれ、それは大丈夫でしたけど、講演当日朝の交通は大混乱。実施の判断をいつするか、どう知らせるかとか難問がふりかかり、一般参加希望者からの問い合わせが相次ぎ…。そのうえ、ハーベイさん本人と対論者と通訳者ご一行が電車がまともに動いていない中で、宿から到着するかどうかが危ぶまれたりして。
結局無事開催でき、関東からなんとか駆けつけた人々、彦根からタクシーでおいでくださったかた等々、交通混乱をおしておいでいただいた人たちでホールがいっぱいになり、大盛況で終わることができました。
この講演内容は、クーリエ・ジャポンさんのサイトで読むことができます。
デヴィッド・ハーヴェイ「私たちは“未来”を差し押さえられているのです」
私たちスタッフの誰もハーベイさんの言っていることを知らない状態でしたので、たくさんのみなさんに助けていただいたおかげで企画を成功させることができました。中でも、対論・解説でご活躍いただき、東京までのハーベイさんのお相手などでもお世話いただいた大屋定晴さん、すばらしい通訳の平賀緑さん、いろいろ教えていただいただけでなくて途中からの通訳を急遽お願いする無茶振りを快諾してくださったコルナトウスキさん、ハーベイ理論について事前にご教示いただいた中村好孝さん、クーリエの撮影・録音でお煩わせした白井聡さんと学生さん、そして何よりハーベイさんご本人に感謝いたします。
翌日以降の諸行事も滞りなく終わって、学会大会の本体に出るのに東京に行ったら、今度はまた次の台風が来ると言う。それで、最終日帰れなくなると困るので早く帰りたかったのですが、最後に次回の主催校の代表として紹介されるのでいなければならないとのことで、雨音が高まる中やきもきして残っていました。で、駅についたときにはやっぱり新幹線が止まっていたのですけど、なんとかじきに動き出して帰れたというわけです。
なんかしようとするといちいち必ずハプニングが降りかかって、絶対にスムーズにいったためしがないのですが、結局何とかなるのがこれまでの人生であります。
【我らの太郎の大活躍!】
さて、あがいてもあがいても野党のリーダーのみなさんから相手にされない私ですが、唯一話を聞いてくださっているのが自由党共同代表の我らの山本太郎さんです。
その太郎さん最近大活躍で、特に、私のアドバイスとは全然関係ない私の専門外の質問で特にすばらしいのが多いですよね。官僚の人たちに「決して自分の命を無駄にしてはいけない」と呼びかけた質問は一部で話題になったようです。
特に心を揺さぶられたのが、入管で甚だしい人権侵害の末に次々人命が失われている実態を告発した次の質問です。
ユーチューブ動画 山本太郎 議員 内閣委員会 質疑(2018.3.23)
単なる政府攻撃の材料にするのではなく、どう言えば改善できるかきっちり狙っているところがいいと思います。ぜひ一度動画をご覧ください。誰かこれ各国語の字幕をつけて世界に発信しないですか。
さて経済政策に関しては、山本太郎さんはじめ自由党は、日銀役員人事に関して、黒田総裁の再任と雨宮理事の副総裁任命には反対、若田部昌澄さんの副総裁任命には賛成の投票をしています(リンク先は参議院での投票結果)。
若田部さんに賛成した理由については、太郎さんは小沢さんとの3月27日の共同記者会見の場で、「フランス10」の及川編集長の質問に答えて語っています。下記リンク先をご覧ください。
リベラルは自由党の経済ポリシーの下に大同団結せよー小沢一郎&山本太郎「自由党」代表、定例会見 by 酒井佑人
この質問は四点あって、一つ目は、宮崎哲弥さんが『週刊文春』の連載コラムで、「リベラルは自由党の経済ポリシーの下に大同団結せよ! 反・緊縮、反・大衆増税、人民のための金融政策の義旗を高く掲げよ!」と書いていたことに,どう答えるかというもの、二つ目が若田部賛成投票の理由、三つ目がイラク戦争15年にあたっての総括、四つ目が東京都迷惑防止条例の改悪への意見です。三つ目と四つ目は全く私の専門外の話ですが、やはり全くもってそのとおりと感じ入ります。四つ目については、「つきまといを放置する気か」などと言われたら、私ならしどろもどろになりそうで、はっきり反対を言ってもらえてホントに心強い。
この宮崎さんのコラム、3月29日号(発売はもっと前なのかな?)の「時々砲弾」なのですが、実際読んでみましたけど、いや全く、書いてある言葉も内容も、四半世紀以上前の左翼ビラみたいな檄文ですよ(笑)。もちろん絶賛褒め言葉です(笑)。「「連合会長がAll for Allに心酔して野党の結集の政策にしたい」んだと。御用組合のダラ幹のホザきそうなことだ!」だって...。いや私が言ってるんじゃないですからね。引用、引用(笑)。「「失われた二〇年」は政府と日銀の失策、資本家と御用組合、そしてブル新によってもたらされたのだ。」...ブ...ブル新...いやいやいや引用、引用(笑)。
それで山本太郎さんが絶賛されているわけです。特に、3月6日、やはり小沢さんとの共同記者会見で「フランス10」の及川編集長の質問に答えている「All for All」への批判が全くその通りだと。そう、私も百点満点だと思います。下記リンク先をご覧ください。
アベを粉砕するため、今こそ野党結束を!!小沢一郎&山本太郎「自由党」代表、定例会見 by 酒井佑人
なお、黒田総裁再任への反対投票の理由ですが、この3月28日の参議院予算委員会での黒田総裁への太郎さんの質問であきらかだと思います。ぜひご覧ください。黒田さん追い詰めていると思います。国会でこんな批判されたことないでしょう。
ユーチューブ動画 山本太郎「消費税増税」安倍晋三・黒田日銀総裁3/28参院・予算委
そのほかにも最近はすばらしい質問がいっぱいでした。いくつかは太郎さんのサイトの「国会質問」のコーナーに動画と書き起こしが載っています。そのうち二、三紹介しておくと。
2018.3.5 予算委員会「芸能人とは、よくゴハン食べるのに 当事者の声 聞く時間ないの?」
「2013年から生活保護基準の引下げでの最大10%、総額670億円の減額がなされた」ことへの追及です。これによって就学援助が受けられなくなった数字をあげ、生々しい生活切り詰めの実態を告発。さらに、「二割から三割しか受けられるべき人たちが受けられていない」実態を指摘しています。これについては「ジャブ」の部分で、「生活保護の不正受給、件数で見た場合、約2%ほど、金額で見た場合、不正受給は0.4%台」とし、しかも全く不正と言えないような「不正受給」とされたケースもあげたうえ、「生活保護の多くが不正受給をやっているっていう空気づくりに一番貢献したのは誰だといったら、自民党じゃないですか」「セーフティーネットに恥の概念を埋め込んだのが自民党」と批判しています。それだけでもすばらしい追及なのですが、この質問がさらにいいのは、経済政策とからめているところ。GDPの六割を占める消費が一番景気に寄与することを指摘して、低収入の人の人たちの底上げによる消費拡大につながる予算づけを要求しています。
2018.3.20 内閣委員会「官房長官、おつかれですか? 日本のハウジングプア」
菅官房長官が、現在は「デフレ脱却じゃない状況」だとうっかり言ってしまった(笑)問題のやりとりです。太郎さんが消費税増税の景気への打撃を数字をあげて説明し、「一番変動が大きいエネルギーだったり、生鮮食料品だったりというのを除いたら、全然まだデフレですよ」と。そして庶民の生活の苦しさの数値を指摘し、過去最高益の企業への減税や金融資産所得の分離課税をまずやめてからにしろと言って、来年景気がよくなければ10%への増税は見送るのですねと念を押そうとするのですけど、菅さんはっきりイエスとは言いません。そこで太郎さん、「財務省に対して大きな借りをつくることになった国家の私物化が消費税増税の理由だ」「(和田政宗さんの質問を念頭に)アベノミクスを壊すのは財務省じゃありませんよ。総理御自身と身勝手なお連れ合いの国家の私物化が原因じゃないですか。」いや全くそのとおり。そして、日本の住宅政策の驚愕すべき貧困さを数字をあげて追及しています。
2018.3.29 内閣委員会「ロスジェネを救え!」
2014年の消費税増税は全額社会保障に使うという約束だったのに、実際には3%増収分の1割とか16%とかしか社会保障の充実に使っていない。社会保障の「安定」に使う分を足しても55%。おまけに5年間で3.45兆円も社会保障を削減している。消費税増税での消費減はリーマンショック以上。この20年間の政府支出の伸び率は日本は世界でダントツのビリ。借金の伸び率は外国と比べて高くない。これでは不景気になるのは当然で、子どもを作るどころではない。ロスジェネは本来またベビーブームを作るはずだったのに、出産年齢期が「失われた二十年とどんかぶり。就職氷河期、就職などまともにできない。細切れの労働、資格を取ることもままならない。景気が少し上向く頃には次々に新卒の新しい世代が正社員になっていく。一方で、自身は不安定な働き方から身動き取れない、正社員になる限界年齢に近づきつつある」ので、結婚して家族が作れるような補助が必要。新規国債発行と大胆な財政出動以外ない。日銀の国債買いオペで、実際に借金返している。子育て支援、介護、教育、いろんな分野に対して人々のための経済政策をやるように。――いやあ、何も口をはさむところがない。おそれいりました。
【講演動画とエキタス京都関係者の著書への書評】
ところで、更新できない間に、いくつも講演の機会をいただいたのですが、グローバル・ジャスティス研究会さん、みんなの社会構想☆読書会さん主催の昨年12月17日の講演が、IWJ(Independent Web journal)さんのサイトで動画にしていただいています。
12・17松尾匡氏講演会 財源はある、必要なのは政治的意志だ――みんなが安心して生きられる社会のために(京都市)
このかん言ってきたことを、一回分の講演の中にまとめきった感じです。ぜひ拡散してください!
この講演の会では、最低賃金引き上げの運動をされているエキタス京都さんのかたのアピールもありました。合わせてぜひご覧ください。(動画では半分くらいのところです。)
そう言えば、エキタス京都さんの中心的な人のひとりが、昨年、Amazonオンデマンド出版で書籍を出版されました。『人権の経済システムへ サビ残ゼロ・最賃アップ・消費税3%が開く新しい社会』です。自民党側の労働強化論とリベラル側に蔓延する衰退必然論を、ともに需要サイドを忘れた議論だと批判して、総需要不足なのにいわゆる「サービス残業」などで生産を増やそうとするから労働生産性が落ち、デフレと過労のスパイラルに陥るのだと言います。そして、「サービス残業」廃絶・消費税引き下げ・最低賃金引き上げをセットにして、総需要拡大・労働市場逼迫による賃金上昇をもたらすことを提案しています。
その通りだと思いましたので、エキタスさんの関係者からこのような議論が出たことを歓迎し、書評を書きました。そうしたところ、著者ご本人のブログで全文掲載してくださいました。
ishtaristさんブログ「Space of ishtarist」
松尾匡氏による書評:『人権の経済システムへ』
【京都府知事選挙福山和人候補の経済公約押し出し】
ところでエキタスさんは、時給1500円を唱えて運動されていますが、これ、まさに今やっている京都府知事選挙で、福山和人候補が打ち出している公約の一つです。もちろんそのままでは経営が成り立たなくなる中小企業とかいっぱいありますから、企業負担軽減策とセットでするのです。例えば、社会保険料を軽減するなどです。
いきなり全面的にやるのも難しいですから、まず当面は、府が発注する事業で時給1500円を条件づけるのだそうです。そのほかいろいろな支援策を「中小企業地域振興基本条例」として制定するとしています。
福山さんは、90年代以降染み付いた左派・リベラル派のイメージと違って、公共事業をすると言い切っているところがいいですね。もちろん対立候補の大手ゼネコンばかりがもうかる大型事業ではなくて、地元企業を優先する地域密着インフラの公共工事のことです。宣伝チラシには、これらの公共工事には「1兆1400億円のニーズがある」としています。それで経済を底上げすると言う。左派・リベラル派候補が、公共工事に予算をなるべくかけないことをウリにしてきた時代が続いてきたのに、ようやくこうした数字を宣伝として載せる日が来たのかと思うと、おじさんはうれしくて泣けてくるよ。
そのほか、医療や教育や介護や子育て支援、農業支援など、暮らしに密着したところにお金をかけることを前面に打ち出し、実現可能な費用計算をして数字を示しているところがいいです。(もちろん対立候補の大型公共事業の方がよほど費用がかかるのですけど、利益はみんな東京や大阪のゼネコンに行っちゃう。)
私は何もお呼びはかからなかった(地域経済の専門でないので当然です)のですが、私と同様の考え方の知り合いが政策に意見を聞かれたらしいので、少しは反映されたのかもと思います。遅まきながら、福山和人さんを応援する「つなぐ京都」の呼びかけ人に加えさせていただきました。
【反緊縮って何だ? これだ!...という本】
さて、やっと本日の本題。近々本が出ますので、そのご案内です。
そろそろ左派は<経済>を語ろう――レフト3.0の政治経済学
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さきほどあげた、エキタスさん関係者とか福山和人さんとか、いわゆる左派側が<経済>を語り出していることは、とてもいい兆候だと思います。<経済>と本のタイトルで表現したのは、景気を拡大して、人々の暮らしを今よりも豊かにする政策の意味を込めたつもりです。この傾向をもっと進めましょう。「縮小がいい」とか言っていたら、いつまでたっても安倍さんに勝てませんよ。――というメッセージの鼎談本です。人々の暮らしを今よりも豊かにするには、福祉や医療や教育や子育て支援や住居やその他の人々の暮らしの応援のために、政府が大胆にお金を使って、景気と雇用を拡大しなければならない。その主張が、今欧米急進左派で隆盛している「反緊縮」というものです。
鼎談のお相手は、今大ブレーク中のブレイディみかこさんと、東大の社会学者の北田暁大さん。ブレイディさんとのファーストコンタクトについては、本サイトの去年の正月の二本のエッセーをご覧ください。あっという間に鼎談にまで至ったのだから夢のようです。北田さんは、先日別の鼎談本で一部世間を震撼させた(笑)のですが、その中で褒められてるもんだから、夜道が歩けなくなるかと思った(笑)。
ブレイディさんは主に、欧州、特にイギリスの経済状況や反緊縮運動の現状、労働運動などの歴史を、北田さんは社会学理論だけでなく、アメリカリベラルの歴史やドイツの現実、日本の社会運動の歴史などを語り、私が主に経済学などを語るという役回りで反緊縮を説いています。いつもの私一人での話では、さぞかし空理空論に聞こえがちだろうと思いますが、お二人の事実に基づくお話、特にブレイディさんの実体験と労働者階級のまっとうな実感に裏打ちされて、説得力のある本になったと思っています。北田さんのお話からは、経済学の世界で言われたことが、社会学でも言われていることがわかり、やはり意を強くしました。
この本のカバーの装丁ですけど、文字が「左に寄っている」というコンセプトだそうです。
カバーだけでなくて、背表紙も、
左に寄っている。
オビも、
左に寄っている。
ブレイディさんは、今や雑誌やウェブや新聞の連載などでひっぱりだこです。最近の記事でみなさんに読んでいただきたいものは、まず、この朝日新聞のコラム記事。
元モデルの路上生活者、国会近くで死す 欧州が抱える病
緊縮財政告発の文ですが、注目はその逆として紹介されているケースの箇所。ポルトガルでは2015年に成立した左派政権が反緊縮政策を進め、経済的に成功を収め、景気拡大のおかげで逆に財政赤字が減っているという話です。
それから、晶文社のウェブ雑誌に連載している「UK地べた外電」のこの記事ね。
「ブレグジットは富の配分の問題」と言った天才物理学者、ホーキング博士の最後の闘い
先日亡くなったホーキング博士は、反緊縮の闘士だったのだ。知らなかったです。ベトナム戦争に反対し、パレスチナ問題にも声をあげ、ブレグジットでは残留派だったけど、離脱が選ばれたのは富の不公正な分配に原因があると言っていたそうです。そして「死の前の半年間、ホーキング博士は、英国の無料国家医療制度NHSを守るために闘っていた」とのこと。「NHSのサービスがなければ、今日の僕はいなかった」と。
なんか読んでいたらしみじみきます。また貴重な闘士をなくしてしまった...。
もともと、エッセー更新の手がなかなかつかなかったのは、去年の春にノートパソコンを買い替えてから、それまでやっていた古いネットスケープで書いて、ワードのテキスト文で要らない改行を消すという方法ができなくなって、しかたがないから前に作ったファイルを下敷きにして、直接html文で書いているので、めんどくさくてしかたないということがあるのです。
春休みになっても一向に楽にならず、やっと原稿が一段落ついて、今のうちに書き上げないとと、やっと着手しましたが、やっぱり画像が入ったりするとめんどくさくて、思ったより時間がかかってしまいました。
ゆうべは息子から仕事気安く受けすぎだと怒られてしまった。たしかにそのとおりです。
ブレイディさんもいつ寝ているのかという活躍ぶりだし、今度出る本の編集者は休日深夜に仕事のメールを飛ばす「高度プロフェッショナル」でした。みんなお互い無理しないように気をつけましょうね。
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