私の主張2 :コンドラチェフ長期波動と今日の激動
コンドラチェフは1920年代に活躍したソ連の経済学者で、世界の資本主義経済には50年周期の長期的な景気の波があることを見い出した。彼はその後スターリンに殺されて、その学説は長く経済学の主流から無視されてきたのだが、ここ十数年見直されつつある。多くの論者がこの波動の別々の局面に着目してその特徴を論じているが、それらを私なりに総合すると次のようになる。
成長期 | 頂点期 | 停滞期 | 停滞期の半ば | 次の長波への転換期 | |
特徴 | 安定的世界秩序と高成長 | 革命、労働反乱、戦争などの集中 | 政治的反動 | 根本的技術革新の普及 | 政治的枠組みの転換 |
第1波動
1780年代半ば-1840年代半ば 議会重商主義時代 |
産業革命後の英国資本主義の発展 | 1810年代半ば-1820年代初め
・ラッダイト運動の全盛 ・ナポレオン戦争 |
ウィーン体制 | 力織機の普及、ミュール紡績機の自動化、鉄道の開始 | 1848年のヨーロッパ革命、イギリスの自由主義改革 |
第2波動
1840年代半ば-1890年代半ば 自由競争時代 |
ビクトリア中期の繁栄 | 1860年代半ば-1870年代初め
・第1インター、8時間労働運動、パリ・コンミューン ・南北戦争、普仏戦争 |
パリ・コンミューン鎮圧後の反動 | 「製鋼革命」など一連の重工業化 | 「三国同盟vs露仏協商vs英国」の均衡世界秩序の形成 |
第3波動
1890年代半ば-1940年代半ば 独占資本主義時代 |
「ベル・エポック」 | 1910年代半ば-1920年代初め
・ロシア革命、ドイツ革命など ・第1次世界大戦 |
ファシズム運動 | 電機、自動車、石油化学産業の成立 | 第2次世界大戦、戦後冷戦秩序、IMF・GATT体制の成立 |
第4波動
1940年代半ば-1990年代半ば 国家独占資本主義時代 |
パックス・アメリカーナの繁栄 | 1960年代半ば-1970年代初め
・学園紛争、パリ「5月革命」、ベトナム反戦闘争、賃金爆発 ・ベトナム戦争 |
「保守化」サッチャー、レーガン、中曽根、アンドロポフ | ME化(ロボット化、コンピュータ化の急速な普及)、国際化 | 東欧革命、中南米・アジアの民主化、ソ連崩壊、ヨーロッパ統合、先進国政治の動揺、WTO成立 |
私見では、この波動が起きるメカニズムは次のようなものであると思われる。それぞれの長期波動は資本主義の各段階に対応している。各段階の資本主義経済は、自らにふさわしい政治的枠組みのもとで、順調な成長を遂げることができる。しかし成長が行き着くと、やがて労働力などの資源が枯渇する。失業の危険がなくなると労働者の戦闘性が高まり、革命や労働反乱が集中することになる。体制側は危機を外にそらし資源を確保するためにしばしば戦争に訴える。ところが労働反乱のために労働生産性上昇が停滞し、経済は長期停滞期に入る。その結果不況が続くと失業が増え、労働者は守勢にまわり、政治的反動が勝利する。資本家は長引く不況からの脱却のため、技術革新努力を行い、根本的技術革新が集中することになる。経済全体の根本的な技術体系が新しくなると、それを運営する資本主義経済もそれに合わせて新しい段階のものに変化する。ところが政治的枠組みが旧来のままならば、せっかく新しくなった資本主義も十分に発展することができない。そこで、新しい段階の資本主義にふさわしい新しい政治的枠組みを作り出す作業が始まる。そしてこれが完成したならば、資本主義は次の順調な成長を始めることができる。
これにしたがえば、現在は国家独占資本主義の長期波動が終わり、次の長期波動が始まる時期に当たる。私はこの新しい段階の資本主義を「世界的自由競争資本主義」と呼んでいる。この10数年の世界の大激動は、古い国家独占資本主義時代の政治的枠組みを取り壊し、新しく生まれた世界的自由競争資本主義にふさわしい政治的枠組みに作り替えるための作業であったと言えるだろう。