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 03年8月29日 8月13日と20日のエッセーに追伸


山田文明氏釈放される
 まず、8月13日のエッセーでお知らせしました脱北者とその支援者の拘束事件ですが、「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の山田代表は、いっしょに拘束された韓国のジャーナリスト達とともに釈放され、このほど帰国しました。とりあえず一安心です。みなさんのご支援に感謝します。
 しかし、同時に拘束された元在日の人の家族7人は依然拘束中で、死刑か収容所送りの待ち受ける北朝鮮に送還されるのではないかと、まだまだ本当に安心はできません。中でも赤ちゃんはとてもかわいいそうで、今後の運命が気がかりです。

8月27日の朝日新聞
 さて、8月20日のエッセーで、今日の政治は、「タカ派ナショナリズムvsハト派リベラル」の軸と、「小さな政府vs大きな政府」の軸の二軸で考えなければならず、政策整合的なのは、「小さな政府+ハト派リベラル」か「大きな政府+タカ派ナショナリズム」の組み合わせなのに、現実の日本の政治勢力は依然として、「小さな政府+タカ派ナショナリズム」か「大きな政府+ハト派リベラル」かという線の上に並んでいる、そこに政治混迷の原因がある、という話をしました。
 これをアップロードしたとたんの8月27日の朝日新聞1面と8-9面で、東大の蒲島郁夫氏らによる国会議員アンケートの分析が載っていて、同様の二軸分析がされていて驚きました。ここでは、「タカ派ナショナリズムvsハト派リベラル」の軸は「保守vs革新の軸」となり、「小さな政府vs大きな政府」の軸は「日本型システムの保守vs改革の軸」となっていて、かならずしも私のものにピッタリ一致しているわけではないのですが、ほぼ同じと見ていいでしょう。やはり主要政治家の政策位置は、依然「安保保守+経済改革」vs「革新+経済保守」の一本線(20日のエッセーの「B−C」の線)の上に並んでいることがわかります。政党単位で見ると、一つの政党の中にいろいろな傾向の議員が混在するので、形は崩れますが、やはりおおむね同様の線の上にあるようです。
  ここで驚いたのは、小沢自由党が、もっと「小さな政府」志向だと思ったのに、全体としては思ったより「大きな政府」や旧日本型システムを守旧する傾向があり、その点では民主党よりもむしろ守旧的だということです。しかも、一般に思われているほどタカ派的でもない。まあ、小沢氏本人はどうなのかわかりませんが。
 それと、興味深かったのは、やはり自民党の中には「安保保守+経済保守」(20日のエッセーの「D」)が結構いること。中でも江藤・亀井派が典型というのは、さもありなんという感じです。20日のエッセーの図では、保守陣営の中の「大きな政府+ハト派リベラル」(「C」)の典型として野中広務を位置付けたけど、野中さんはこの点ではどちらかというと中庸的で、一番典型的なのは河野洋平だというのも、言われてみればそうだなあという感じです。
 もっとも、質問項目には若干不満もあります。心からの市場主義者とホンネはナショナリスト守旧派である者とが、典型的に分かれるような質問をしてみたら、旧来の一本線からの乖離がどれほど進んでいるかが、個々の政治家ごとにもっとよくわかったと思います。例えば、「介護は家族が担うべきであってなるべく営利の対象としない方がいい」とか、「教育は国家の関与を減らして市場の自由にまかせた方がいい」とか、「組織犯罪や企業不祥事への対処のために、内通者や内部告発者を優遇・保護する制度を拡充すべきである」等々。
 それに、「大きな政府」か「小さな政府」かを聞くのに、「社会福祉など政府のサービスが悪くなってもお金のかからない小さな政府の方がいい」という命題への賛否の度合いを聞いているのは、聞き方としてまずいと思います。これでは革新系の議員がイエスと答えることは一切できない。しかし実際には、革新系の議員の中にも、従来の政策的位置を離れて、かなり「小さな政府」志向になっている人々はいるはずです。それがどれだけの割合くらいまで進んでいるのか、非常に興味があるだけに、この聞き方は残念でした。
 

 
 

 

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