松尾匡のページ

11年3月27日 自己犠牲的なこと言ったもん勝ちはいやだ



 五年前に自分が代表者になって久留米大学の共同研究のプロジェクトを始めていたのですが、途中で移籍して放り出した格好になってしまっていて、ああなんたる無責任。
 てなことがあったこともすっかり忘れていたら、先日、あとを引き継いだNPOの専門家の伊佐淳さんから電話があって、プロジェクトの最終年度の終わりだから報告を出すので論文を出せと。そういえばそんな話もあったわ...。でも具体的に締め切りとか聞いてなかったから全く意識になくて、すっかり市議会選挙準備の仕事に巻き込まれてしまってました。
 そんなんで、こないだ月曜日の卒業式から翌日帰ってくる途中の新幹線「さくら」の中で論文執筆開始。それから怒濤の執筆を続け、土曜日やっと提出しました。あいかわらずの泥縄。
 そのあと、選挙公報原稿の作成にかかったのですが、これ、ダメ出しダメ出しが続いて、自己没も含めて第10バージョン目です。うーむ。ちくま書房よりシビアな選対。間、選対会議をはさんで、ゆうべやっとできました。あとで事務所に持っていくけど、今度こそOKが出て欲しい。(後記:大きさが規定と合わなかった!合わせたつもりだったのに。)
 そういうわけで、ちょっとだけ時間が空いたので今の間にエッセー更新を。

 大学院生の熊澤大輔君との共著論文、「労働の超過需要領域を含むオールドケインジアンモデルの貨幣賃金率の運動」が、このほど『立命館経済学』第59巻第6号に掲載されたので、「研究業績リスト」にリストアップしておきました。『立命館経済学』のページからダウンロード(pdf,913KB)できます。
 ごく標準的な教科書的IS−LMモデル(いわゆる古典派の第1公準と労働市場に応じて貨幣賃金率が動くフィリップス曲線を前提)のもとで、労働の超過需要領域に入って労働供給制約で生産が決まる場合を考慮に入れたら、体系はどんな運動をするだろうかという話で、いたって初歩的、基礎的なモデルなのに、循環やらなんやら複雑な運動が生じるという結論です。是非ご検討下さい。師弟ともにそそっかしい所が共通なので、ミスタイプみたいなのはあると思うので、ご指摘いただければ幸いです。

 ついでに、久留米大学時代の最後の論文、「久留米地域におけるコンベンションの経済波及効果」が、『久留米大学産業経済研究』第48巻第4号に載っていたのを、「研究業績リスト」に掲載しもらしていたのに気づきましたので、改めてリストアップしておきました。要約はこちら。当時毎年のように、何かのコンベンションの波及効果計測の仕事がくるのを請け負っていたのですが、移籍するにあたってノウハウをすべて後任に伝えるために作った、それまでの仕事の集大成論文です。

 さて、どうしても話題は震災関連になってしまうのですが、経済論議としては、片岡剛士さんのこちらのシノドス記事に付け加えるものはありません。
http://synodos.livedoor.biz/archives/1711266.html
まさにこの記事が上がった日に為替介入があって、その後今日まで1ドル81円ぐらいが続いていますが、81円でも高すぎですね。なんだか白川さんにかかれば、被災地で野菜の値段が高騰すればそれだけでインフレ警戒の理由になりそうな勢いですけど、これから公私ともにどんどん復興資金が必要になっていくのに大丈夫でしょうか。
 『不況は人災です』にも書きましたけど、財政法第5条には但し書きがあるんですね。ちょっと第5条引用しておきますと...

第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。

 「特別の事由」って今をおいてほかにいつあるのかと思います。日銀が無から作ったおカネで復興事業をすれば、間違いなく景気は拡大に向かうでしょう。増税もなく、別の支出を切り詰めることもなく、復興はできて、景気はよくなって、いいことばかり!
 しかし、世の中はどうも「ドサクサ増税」に向かう公算大です。こんな経済状況で増税なんかしたら、どんな悲惨などん底不況になるか...。社共絶対反対しろよ。反対しなきゃ存在意義ないからな。

 ところがなんだか、増税に反対したら非国民扱いされかねない雰囲気です。安易なこと、楽で済むことを言ったら、不謹慎でダメというような。なるべく自己犠牲的なことを言った方が誉められるみたいな。
 これ、先の戦争のときのこの国の空気ですよね。合理的なことが言えない。なるべく犠牲を小さくする方策が言えない。そんなことを言ったら叩かれる。自己犠牲的なことを言ったもん勝ちみたいな状況でした。それで、戦艦大和の鉄と重油と船員を別の戦争資源にまわすことよりは、海上特攻で海の藻くずにする方を選ぶわけです。特攻隊も玉砕も、竹槍でB29に立ち向かうことも...。いかに戦闘効果を実現するかということよりも、いかにすごい自己犠牲を周囲にして見せるかの方が目的になってしまう。
 震災に際して見られた、他人を助けるための、多くの英雄的な、あるいはささやかな自己犠牲には、本当に心からの敬意をはらうべきだと思います。しかし、それがはずみがついて、自己犠牲が自己目的化してしまってはいけない。この国にはそうなってしまうクセがあることを、よく警戒しておくべきだと思います。
 どうか合理的であろうとすることをやめないで下さい。なるべく少ない犠牲で多くの効果をあげることを追求し続けて下さい。人が弱音をはくこと、怖がることを押さえつけないで下さい。

 その意味では、大学院の後輩だった、富山大学の大坂洋のこの品も何もない文章は、全くその通りだ!
東電役員以上の裏切り者はお前らだ
 原発事故に際して、「落ち着け」とか「冷静に」とかいう議論に対して、「私たちは、正常な恐怖心を失ってはならない」と言っています。「恐怖心を感じたら泣いたり喚いたりしましょう。」うん正しい。あまり大坂が泣いたり喚いたりしているのを見たくはないが。
 と思っていたら、中学2年生のアイドルの藤波心さんが、同じ主旨のことを言っていました。
批難覚悟で・・・・
おおっ、こっちの方がはるかに説得力あるぞ。大坂は世間から見向きもされてないけど、こっちはもうコメントが6000超えてる。泣いたり喚いたりしたらおじさんがなぐさめてあげるよ。
 あっ、大坂のブログに書いたけど、これ、ミクシーのマイミクの人の日記で知ったんだからね。それではじめてこの子のブログを読んだのですので、どうか誤解なきよう。「やっぱりリフレ派か」とか言っていっしょくたにしないで下さい。
 でも、大坂のは一回読んだだけだけど、こちらは何度も読み返し、ほかのエントリーとか関連サイトもいろいろはまってしまった不埒な私をどうかお許しを。
 まあ、なんと言うか、なんだね、これだけ他者に感受性があって心やさしければ、それだけで十分世の中から評価されて幸せになれるし、その上、文章も歌も踊りも才能あるんだから、どうか自分に自信を持って、狭いオタク向け世界の目の前の評価にふりまわされず、本当の自分の望むことにだけ忠実に生きて欲しい…コホッ。本当にその上でなら何やっても支持連帯するよムフフ。(後記3/28:その後、万事、強い意思と覚悟があってのこととわかりました。よし、もうおじさんは何も言わない。闘え!)

 まったく、「ダークサイド」に堕ちる(笑)と、オタクへの罠があちこち待ち構えているからいかん。アイドルがみんな同じ顔に見える善良な私に、こないだも田中秀臣さんが、『AKB48の経済学』を送ってきて、これは書評しなければならないから、その前に是非「検証」しなければと思ってしまったのでした。あんまりにも忙しくなってそれどころじゃなくなって助かった。あやうく世界オタク化計画の陰謀に巻き込まれるところであった。まあいずれ落ち着いたら書評はしますので。

 原発事故と言えば、今度のゼミの卒業生の一人が、原発のメンテの仕事もしている会社に就職するんですよね。内定出たとき「ボクが親ならとめる」と言ったんですけど、結局そこに決めた。
 卒業式の日会ったとき、給料高いんだから、いざとなったら逃げられるようにちゃんと貯金しておけって言ってしまいました。ゼミ生にこんなこと言った以上は、東電の人が逃げても決して責めるわけにはいきません。逃げずにがんばっているかたがたには、ただひたすら頭が下がるだけです。

 ところで、卒業式のときに立命館に出たときに判明したのですが、これまで使っていた京都往復割引企画が廃止になって、その上、新幹線回数券もエクスプレス予約も九州新幹線にはない。駅員にいろいろ聞いてみたら、結局、久留米から博多までは快速を使って、そこから先で割引を利用するほかないということでした。まともに行ったらたいへんな出費になるからそうするしかない。どこから聞きつけたのか帰宅する曜日に五限目最後まで授業を入れられたのに、実は九州新幹線ができてかえって時間がかかるようになっちゃったのでした。
 もともと反対してたのに、移籍が決まったら「便利になるかも」などと不埒な期待を持ってしまったことの天罰だな。


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