松尾匡のページ11年12月2日 名古屋の『不況は人災』講演後「その手があったか!」
きのう、名古屋で『不況は人災です!』の内容を講演してきましたので、そのときのレジュメを「講演資料」のコーナーにアップしておきます。
呼ばれたのは、日本政策金融公庫熱田支店が取引先の経営者のみなさんと作っている研究会です。お世話になりました平松会長、三澤課長ほか関係者のみなさまに感謝いたします。
トヨタとかの孫請けなど、主に製造業の中小企業のみなさん20人ほどの集まりでしたけど、やっぱりみなさん大変優秀な技術をお持ちの中で、目下の円高に苦しんで崖っぷちギリギリでがんばっておられます。日本に製造業が必要だとの自負もあるし、雇用も守りたい、でももう海外に行かないとやっていけないから、政府の後押し策がある間に海外に進出しようかどうか悩んでいるという感じでした。懇親会では、「インフレなにが悪い」「円安何が悪い」と盛り上がっていました。
レジュメにも書いたのですが、「時間非整合性」という言葉があります。
これ、高インフレ国の中央銀行の政策について言われた言葉だと思いますが。インフレというのは、人々のインフレ予想が無くなれば、ある程度収まります。そこで、中央銀行がゼロインフレを目標に掲げるわけです。インフレ率ゼロになるまで、金融引締めを断固続けますよって。そしたら人々がそれを信じて、インフレ予想がなくなります。一旦そうなると、インフレ率は問題ない程度に収まるのですが、そのうえ本当にゼロパーセントまで持っていったら今度は不況になっちゃうので、まともな心性の中央銀行はそんなことしたくないです。だから、まだゼロインフレになる前に、プラスのインフレの段階で約束を破って金融引締め政策をやめちゃいます。それで、インフレ抑制と景気の維持といいとこどりをしちゃう。
「時間非整合性」ってこれ以外にも使う一般的な言葉だと思いますが、こういうケースについてよく言われます。こんなことを一回しちゃうと、もう中央銀行の約束なんて誰も信じなくなって、二度とインフレ目標で人々の予想をコントロールすることはできなくなるって話です。
2006年の量的緩和打ち止め以降、日銀がやったことは、ちょうどこの真逆だって思って、逆「時間非整合性」だって話をしました。ゼロデフレを目標に掲げて、その実現までは金融緩和を断固続けるって約束して、そのおかげで人々のインフレ予想がプラスになって景気が回復したのですが、そしたら、まだ実際にはデフレなのに金融緩和をやめちゃった。景気回復と物価抑制のいいとこどりをしたっけわけです。しかし現実には、そのあと景気は後退し、そしてもはや日銀の金融緩和スローガンなんかみんな本気にしなくなっちゃった。ちょうど真逆の話ですよね。
そしたらそれをネタに懇親会で大いに盛り上がったことには。
ある人が、日本政府は国の借金のデフォルト宣言したらいい、いやツイッターで流すだけでいいっておっしゃるんです。もう返せないよ〜んって。そしたら、円が暴落して、輸出が爆発的に伸び、一座の各々がたはじめ日本経済息を吹き返し、好況で税収が増えるから実際にはデフォルトしなくてよくなる。「時間非整合性」の話と一緒。(もっとも最初から結末を狙っているなら「非整合」じゃないんだけど。)
その手があったか!
まあ実際韓国なんか、いつもウォンが暴落するたびに、俄然輸出が伸びて好況になっていますもんね。
ネタに今頃になっての無粋なコメントをすれば、金利急騰を抑えるための金融緩和は同時に必要だと思います。なんだやっぱり日銀次第か。
明日は、東京で、性感染症の学会で、女性の性感染症と失業率の関係について学会報告してきます。以前このテーマで講演のお話を持ってこられた専門医の先生との共同報告です。
報告自体はもう一人の人にお任せしているのですが。理系の人たちって大量データでやるのに慣れてるから、こんなサンプル少ない話でも、相関係数だけでいいって。立ち入った統計分析出しても歓迎されないようです。万一立ち入ったこと聞く人がいたときのための控え要員ね。
さて、以下は、前回のエッセー以来のこのかんのことについてのメモ。
◆ 先週の土曜日、住んでる久留米で、「チェルノブイリ・ハート」の上映会があったので出かけてきました。チェルノブイリ原子力発電所の事故から20年後の近所の様子を撮ったドキュメンタリー映画ですけどね。障害児や流産や先天性心臓病が増えているという報告です。かなり衝撃的な映像です。
まあここででてくる統計数字はかなりトンデモらしく、数字の真相を追いかけたブログに、こちらとこちらとこちらがあります。ツイッターのまとめもあります。
まあ、映画の中の数字ほど極端ではなくても、汚染地域での障害の割合がそうでないところと比べて高いのは事実のようですけど、どこまでが放射能の影響かは特定できない。ストレスや栄養不足などの影響も含めて「原発事故の影響」と言うならば、原発事故のせいだと言えるというまとめになるみたいです。
ボクが後援会役員やっている市議会議員夫妻も上映会出てたのですが、さすがに障害者福祉の専門家だけあって、最初からこの数字はおかしいと気づいたそうです。ブログで数字を出したりしたら叩かれると心配してこの件を話してみたのですが、余計な心配でした。
それより心配すべきなのは、放射能の危険性自体はよく認識すべきことをふまえたうえで、あまり誇張した話が被災地で流れると、子供を作ることをあきらめた人生設計をする娘たちがたくさん出るのではないかと。それで自分の希望と適性にあった人生を選べれば何も問題はないのですが、母子が避難して、仕事のために一人残された男性がたくさんいる街に、おあつらえむきにそんな人生設計の娘たちがたくさん現われれば、本来の希望と適性には合わなかった職業選択を早まってしてしまうケースが続出しかねないと思いました。
◆ 大阪はやっぱり橋下さん勝っちゃいましたね。いやムッソリーニを選んだのも殺したのもイタリア人だ。まだ希望は捨てないぞ。
反ハシズム関係の情報ではこれがおもしろかったです。sociologbook様経由、「Everyonesays I love you !」様11月24日の記事。
「大阪維新の会が府議会に提案した教育基本条例案が成立すれば、定員割れが3年続いた府立高が統廃合される、といういことで、今春入試で定員を満たせなかった多くの府立高が統廃合の対象となるのを避けようと、事前に定員減を求めたのです。」
その結果、
「公立の募集定員の総数は4万3000〜4万4000人と、来春の府内の受験予定者数約6万7000人の65%にとどまりました。」
「私立側は当たり前のことながら、『学校の収容能力には限りがある』などとして、募集定員の総計は今春とほぼ同じ2万1400人に設定している結果、公私合わせても、府内の受験予定者数に約2000人足りない事態となっているのです。
このままでは2000人の中学生が自分の責任は全くないのに路頭に迷います。」
なんらかの政策をとったら、各経済主体はそれを受けて合理的に振る舞って、その合成結果として当初の意図にない現象が起こる──経済学がいつも警告していることがモロ起こっている!
さあ、このことが長期的にさらにどんな社会現象をもたらしていくかな。
この記事では、橋下さんが前宣伝に反して実際には府の借金を増やし続けてきたこと、その一方で、対抗馬の平松前市長は、大阪市の借金を減らし続けてきたことも示されています。
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