松尾匡のページ12年1月28日 「かける数」を真横に書くとバツになる件
アメリカの中央銀行FRBのインフレ目標導入を受けた「北國新聞」の社説がネットで評判になっています。
北國新聞のサイトではもう読めないのですが、id: maddercloudさんのブログ記事で全文読めます。
「大胆な方針転換に打って出たトップの決断を評価したい。」
「日銀は「効果がない」「ハイパーインフレを招く」などの理由で、インフレ目標の導入に否定的だが、「効果がない」と言うのは、インフレ目標を導入している多くの国に対して失礼だろう。スウェーデン、ニュージーランドなどは一時的なデフレをインフレ目標の導入で克服したとされている。」
「現状のままデフレを放置していれば、「超超円高」はいつまでたっても解消されない。日本経済を支えてきた製造業は、耐えかねて海外移転に活路を見い出そうとしている。国内産業の空洞化は、財政赤字以上に危険であり、日本経済を細らせる。」
全くその通りだ! すばらしい社説だ。
いや信じられないです。「北國新聞」ったら、ボクが22歳まで育った石川県の地方紙ですけど、ボクが学生時代なんか県政のプラウダって呼ばれてましたもん。
いや今でもたぶんそうなんでしょうけどね。80年代当時の石川県は自民党の金城湯池、押しも押されぬ保守王国で、北國新聞は圧倒的シェアで君臨していた。
ああ、今の若い人には「プラウダ」とか言ってもわからないか。ソ連共産党機関紙で、当時世界一の発行部数の新聞でした。ソ連政府の公式発表とスローガンばかり載せた無味乾燥な広報紙として悪名名高かったです。──しかし今思い返してみると、こんな揶揄のしかたするくらいだから、当時の自分のまわりの左翼世界では、ソ連というものが、あたりまえのように「こうなってはならない悪例」として扱われていたわけですね。
しかし、そんな北國新聞のライバル紙、「北陸中日新聞」の本家中日新聞の社説でも、「インフレ目標 日本も導入に決断を」と言っているし、日の丸君が代問題で良心の自由を擁護してきた「琉球新報」の社説も、「景気回復にかけるFRBの決意がにじんでいる。政府、日銀にも思い切った政策が必要だ」と言っています。これらは、id: kunitakaさんのブログ記事の情報ですが、ここでは、他の地方紙でも「インフレターゲットの導入を望む社説が多い」と書いてあります。(共同通信社がどんな評価なのかはちょっと調べがつかなかったですが。)
やっぱり地方経済の疲弊はそれだけ深刻だということですかね。
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さて、前回のエッセーでも、今年の正月休みは、懸案の新書原稿はおいておいても、休み明け締め切りの論文が二本重なって大変だったということを書きましたが、これがまたその後も尾を引きまして…。
30日から三が日かかってTPP論文のドラフトを作って送り、ついで京大の大西広さんご用命の搾取論論文にとりかかり、困難の末、なんとかわりと一般的な関数のもとでの証明ができた!…って、大西さんに原稿送信できたのが15日。今電子メールの送信箱見ていたら、この前にも、細かな書類仕事とかいろいろ割り込んでいて、今さらながら見ていてストレスで指先がしびれてきます。
提出したとたん、まるでそれを待っていたかのように、市議会議員の後援会通信の原稿が届きはじめまして、印刷屋さんのレイアウト、校正、印刷を考えると、どう考えても翌日には印刷屋さんに全部出さないと発行日の23日には間に合いません。で、猛然と編集作業に取りかかったのですが!
よせばいいのに、大西さんに論文原稿送ったとき、いっしょに一橋の吉原直毅さんにも「こんなの書いた」って送ったんだわ。
速攻返事がきて、コメントいっぱいいただきました。マジ有難い。が、当然のことながら賛同されてるわけではないです。
やっぱり細かい間違いとか誤解を生む表現はいっぱいあって、それはすぐ直せばよかったんだけど、ちょっと簡単にいかない問題がありました。効用関数を一般的にしたので、均衡が複数出る可能性があるのですけど、ひとつしか均衡がないときに言える性質を、複数になったときにも当然成り立つかどうかちゃんと確認せずに使っていたのです。すげー、よく気がついて下さった。
これはちょっと大きな問題なので、腰を落ち着けて考え直さないと。というわけで、大西さんに「ちょっと待って」メールをしたら、編集担当者からの厳しく急がせるメールを転送して返してきた。
進退窮まった気持ちになったんですけど、とりあえず後援会通信の編集と、それで見つかった派生仕事をすませ、なんとか翌日印刷屋さんに原稿渡しました。短いスケジュールに印刷屋さんも大弱りの中、ひたすら拝み倒すしかなかったですが。
この印刷屋さんに行く途中、NPO関係の人から相談があるとのことなので、ひさしぶりに中心市街地に寄って話を聞きました。そしたら、年度末までに、今やっている実験事業の分析して報告書をあげなければならないとのこと。私が引き受けたら死にますので、ODとか院生とかでやる人がいないか探すということにしました。
で、翌日新幹線の中でも論文の証明考えながら滋賀に出て、別件の書類仕事や連絡仕事を間に挟みながら、もちろん最終週の授業も試験範囲カバーできるようこなしながら、なんとか滋賀にいる足掛け三日の内に、論文修正と後援会通信の印刷原稿を完成させました。問題の証明自体は、数学的には思いついてみたらわりと簡単なことだったのですが、図を二つ追加するなど、説明を大幅に変えなければならなかったので、結構手間でした。
終わったとたん、滞っていた仕事に猛然と取りかかりまして、まず、経済理論学会の雑誌の編集委員会関連の仕事、メール連絡やら書類仕事やら三件ばかり。…そういえばその前に、来年度の講義のシラバス入稿しないとと思って、ウェブの入稿ページにアクセスしようとしたら、締め切りすぎてた! あわてて事務の人にメールしたところが、うっかり教授会のメーリングリストに送ってしまい、全教員と関係職員に失態がばれてしまいました。あと、内地留学関連の手続きとか、生協から新歓フェアー用の図書の推薦リスト作れという話とか、三回生ゼミ論集の製本手続きとかなんだかんだとやっていたら…。
正月にドラフトをあげた共著用のTPP論文。ボクには政治的配慮の能力ないからということで、編者の同僚教員との共著の章ということにして、ともかくボクは経済学的に正しいと思うことを思う通りに書くから、その人が政治的に必要な修正をしてくれるということになっていました。
そしたら編者の先生から原稿が戻ってきまして、見てみたら、ほとんど何も変わってないの。書き出しの文章がちょっと追加されていて、比較生産費説とかの解説コラムがついているだけ。編者周辺ではかなり好意的にお褒めいただいたのはいいのですけど。
こんなの出したら、左右中間派全部からボコボコ叩かれるのに、いいんだろうかと心配になったのですが、仕方ないから、コラムとか修正して、注をつけて典拠とか引用とか書いて、先日完成原稿にして送りました。
そしたら編者の先生、コラムの元原稿とか書き出しとかは書かれてるのですが、著者はボク一人の名前にしていいからと。え? いやほとんどボクが一人で書いている著作権みたいな問題はどうでもいいんですけど。「イッショニ叩カレテイタダケナイノデスカ?」って感じなんですけど。とは内心の動揺。まあいいんですけどね。ぼちぼち覚悟もできてきたし。
まあ、あくまで「左翼道」を貫いたことを言うと、いかに現実の左翼から叩かれるかという見本みたいなものになりますわ、たぶん。乞うご期待。
そういえば、先日の組合大会で、職場執行委員になってしまった。前も一回やったことあるけど、もう回ってきてしまいました。前は本当に何もしなくて、会議も出るだけで一回もしゃべらなかったのですが、今度はそういうわけにいかないかなあ。来年度は後期九州大学に内地留学するので、前期だけやればいいとのこと。それとも再来年度一年間やるかと言われて、再来年度にまわすという、行動経済学の見本みたいな超近視眼双曲割引の選択をしかけたのですが、結局こうなりました。
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ところで、「社会経済学初級α」と称するマルクス経済学の原論授業、別の担当者と二人でやっていて、毎年だんだん理解してもらうのが難しくなるので、授業範囲も試験問題も毎年簡単になっています。今回の試験も、前回あまりに出来が悪かった反省をふまえて、やりとりの末、去年よりかなり簡単なものになりました。
それで、親切心を出して、「Aノート」って、授業ノートとか過去問とかのコピーを売っている商売があるのですけど、親しい学生にそれを入手してもらって、過去問の答えの間違っている箇所を最後の授業で知らせたんです。正解は言ってないんですけどね。そしたら、その間違えてた箇所のうちかなりの部分が、難しいと思って今年は授業もやめたところなのに、かえってそこが出題されると学生たちに勘違いされたみたい。もう授業もなくてアナウンスもできず後の祭りでした。
そのほか、何も言っていないのに、このサイトの「講義・演習」のコーナーにある、今年度前期の問題類をダウンロードして勉強した学生もかなりいたみたいです。前期は一人だけで担当しているから、内容もちょっとズレているし、やっぱり今回もっと簡単にしてもいるので、今回の授業でやっていないことも問題になっています。ところが解き方まで書いてしまっているもので、授業でやっていないのに勉強して解き方を覚えた人がだいぶいるみたいです。
なんだか、ちょっと前までの学生と比べて、すごく真面目になってる。不用意なことをすると、思わぬ混乱を与えるので、注意しなければならないと思いました。
この授業の終わりの方で、利潤率計算の仕方を説明したとき、終わってから学生が質問に来ました。なぜあっちの場合は「n」を分子だけにかけるのに、こっちの場合は「n」を分子と分母にかけて、しかも答えが同じになるのかというようなことを言っています。「分子と分母にかける」ということの意味がよくとれなかったのですが、その日した例題は、違う設定なのにたまたま答えが同じだったので、とりあえずその旨答えて納得してもらいました。しかし釈然としてないような表情だったので、このことがずっと気になったのです。
そしたら数日後、突然、雷に打たれたように、「分子と分母にかける」と言ったことの意味がわかりました。ボクが黒板に、
分子の式
───── n
分母の式
とうっかり書いたことが敗因だった! 分子と分母の間の線の真横にnを書いたから、分子と分母の両方にかけると思われたのだ。
全国の教員のみなさんには、こういうこともあるのだということにご注意いただいて、今後の授業に活かしていただければ幸い。
今回は「社会経済学初級α」もマークシートにしたもので、去年よりは採点は楽ですね。でも今回からは、読み取り操作は職員じゃなくて、教員がやれと言われたので、ボクがもう一人の担当者の分も読み取りをやって、点数が表示されるところまでエクセルで作って送りました。残る成績付けが、これから入試関係の仕事が始まるまでに、一仕事には違いない。
そしたら、先日、流通関係の雑誌から、商人道のテーマで論文を書いてくれと依頼がきました。これが急な話で締め切りが2月10日。本の宣伝になりますので、ありがたく引き受けさせていただきましたけど。
新書原稿がどうしてもしわ寄せを食うのですが、これもちゃんと進めていかないとね。
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