松尾匡のページ

12年1月7日 今年も「正月って何?」



 つつしんで新年のご挨拶をもうしあげます。今年もよろしくお願いします。

 前回のエッセーでも言ったけど、今年の正月は、正月休み明け締め切りの論文原稿が二つもあって。
 年末に正月休みに入ってから、新書原稿は中断して、ただちにまず、TPP関係の論文を書きはじめました。前にも言ったとおり、編者の先生がボクの章の共同執筆者になって、政治的に考慮した修正はやってくれるってことになってますので、こっちは自分が経済学的に正しいと信じることだけを思う存分書きました。賛成側も反対側も経済学的にみて間違った議論ばっかりで駄目だってやつ。このまま出したら、例によってまた左右中間派全部から総攻撃されるぞ。
 論文執筆のために、どウヨ櫻井よしこさんの主宰する「国家基本問題研究所」のサイト見てたら、もちろんTPP参加賛成の論陣はってるんですけど、一般会員のみなさんが激烈な反対の書き込みしてます。ハードウヨの世界ほどハードに両論に分かれているみたいです。ああ、良い子のみなさんは見ない方がいいサイトなのでリンクは貼りませんが、興味があったら確かめてみて下さい。
 いつも通勤する新幹線、一番割り引きが利くので携帯電話で予約するやつ使ってるんですけど、ポイントが溜まると普通通りの料金でグリーン車に乗れるサービスがあります。毎週のことなのでポイントは溜まるんですが、締め切りが迫ってるのに電源の取れる席が取れなかったときとか、満席になっちゃったときとかのために普段はとっといています。どうしても必要に迫られたとき使って、なぜかビクビクしながら座るんですけど、座ったらJR西日本東海 (12年1月29日修正) の出している「ウェッジ」って雑誌がポケットに入れてあって、それがいつも表紙見てるだけでムカつくわけ。やっぱり必要がなければグリーン車なんか使わなくて正解だわと実感します。
 その雑誌が、このかんずっとナショナリズム煽ってきて、それだけでも十分ムカつくんだけど、このところ、漁業への民間企業参入とか、今度のTPP参加とか賛成論掲げてて、今だに「小泉パッケージ」かいと、ますます不快になります。ナショナリズム右翼に徹するならそれはそれですっきりくるし、グローバル資本主義万歳ってのならナショナリズムくそくらえって言ってこそ壮快なのですが。ナショナリズムとグローバル資本主義を混ぜたら腐敗して毒素まき散らすぞ。
 それはともかく、保守側エリートオピニオンリーダーは、一致してTPP推進で押してきていますね。それに対して、ネットウヨ世論はTPP反対論であふれています。

 そもそも民主党も自民党もどっちともTPP賛成と反対と両方ありますよね。消費税増税もどっちとも賛成と反対と両方あって、ついでに言えばリフレ政策もどっちとも賛成と反対と両方あって、オイオイどうするんかい。
 こんな中で、比例区の議席減らして定数削減とか言ってるんだから。小選挙区ばかりにして、無理矢理自民党か民主党かどっちか選べとか言われても、こんな状態じゃみんな選びようがないでしょ。
 保守側政策パッケージと革新側政策パッケージが決まってた時代じゃないんだから。TPP賛成反対、消費税増税賛成反対、国債の日銀引き受け賛成反対、原発賛成反対、みんな安保問題とか歴史認識とか再分配の対立軸とリンクせず、それぞればらばらに賛成反対が分かれているのが世論の現状だと思います。
 そしたら、二大政党制なんて制度は現実乖離もはなはだしい。TPPにしても消費税にしても何にしても、いろいろな組み合わせの政党がいろいろあって、それぞれ民意の分布を反映して院内に存在していることが必要でしょう。そして、政策ごとに異なる政党で多数派を作ってこそ民意を反映するというものです。
 だから本来、小選挙区の方こそなくして、比例区議席を増やさなければならないのに、全く逆のことをしようとしているのだから。
 たぶん、民主党と自民党にとっては、小選挙区の方が有利だと思ってスケベ心でゴリ押ししようとしてるんでしょうけど、こんなどっちも選びようのない状態で小選挙区ばかりにしたら、思いもよらぬことが起こって足すくわれますよ。トンデモ扇動政党がいきなり八割とって民主党も自民党も惨敗するとか。そんなことが起こりかねないのが小選挙区制の怖さです。

 で、締め切りのすぎた定期試験問題とか作りながら、正月三が日かかってTPP論文は書き上げまして、今度は大西広さんご用命の搾取論論文にとりかかったのですが…。
 う〜む。うまくいきません。行き詰まっています。
 前回のエッセーで書きましたけど、以前大西さんとの科研の共同研究で報告論文に書いたモデルを発展させよというリクエストです。マルクス=置塩の基準による「無搾取」と、ローマーの基準による「無搾取」とは、一般に乖離するとされているのですが、この論文では、生産手段の初期存在量が増えていくと、ローマー的無搾取はマルクス=置塩的無搾取に一致していくということを証明しました。これをもっと一般的なモデルで証明するのが課題なのです。
 前回のエッセーでは記憶違いで、前の論文のモデルは各自の効用関数が「コブ・ダグラス型」と呼ばれる関数を仮定していたと書きましたが、これは間違いでした。財の消費については一次関数で、労働の不効用は二次関数で、両者が分離可能なただの引き算になっているというかなりご都合主義的な効用関数でした。このおかげで非常にクリアーに解けたのですが。
 それで財の数が一種類だったのを多種類にしようとしたら、まず、いろいろな条件がでてくることがわかって挫折。次に、一財モデルでも、効用関数を一般的にしたら、またまたいろいろな条件で性質が変わってくるのを考慮しなければならなくなって、今日相当ねばったのですけど、どうやら挫折した方がよさそうです。
 生産技術が固定的なのだったのを、可変的なのに一般化するだけになりそう。ちょっとショボい。やっぱり頭が鈍くなったのだなあ。(結局かなり一般的な効用関数のもとで証明できたみたい。急ぎ執筆にかかるけど、これから後援会通信の原稿もどんどん届くやろうなあ。──1月8日)

 前の科研の報告論文は、業績リストにもあげてないしろもので、図書館などで一般に簡単に入手できるものではありませんでしたので、この際、本サイトの「アカデミック小品」のコーナーにあげておくことにします。ご関心がありましたら、是非ダウンロードしてご検討下さい。

 この正月明けは、応援している市議会議員の後援会通信の編集長の仕事もあったのだった。9日に印刷所に原稿出さないといけないのに、まだほとんど原稿が集まっていないから何も着手していないけど、ボクの責任じゃないもんね〜。
 この後援会に「ヤング学ぼう会」と称する会があって、「ヤングとかいう言葉古くてダサい」という感覚が今や古くてダサいらしい。おじさんは「ヤングオーオー」とか思い出してしまいます。さすがに「ユーゲント」じゃまずいでしょうね。
 その「ヤング学ぼう会」が12月はじめに介護保険の経済効果みたいな話で学習会していました。おじさんはもともと参加するほど鉄面皮じゃないけど、東京に感染症学会の報告に行っていて出られなかったから、介護保険支出の経済波及効果を自動計算するエクセルファイルを作って関係者に送っておいたんだよ。
 ほらよくあるあれ、「阪神優勝の経済波及効果」とか出るやつ。久留米大学にいるとき、毎年のように地元の観光イベントとかの経済波及効果の計算やらされました。
 トップシートの窓に、年間の介護保険支出を入力すると、福岡県内の経済波及効果と就業者数増が自動的に出てきて、同じ規模の公共事業への支出の効果との比較もできるというものです。
 今度の後援会通信で紹介しようと思っているから、やはり「アカデミック小品」のコーナーにあげておきます。見てみてね。



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