松尾匡のページ

14年1月12日 この大学にいたら先が読める!?



 またずいぶん更新サボりました。も〜余裕がなくてなくて!
 ウェブ雑誌のシノドスの月1回の連載は、始まったら大変だろうとは思ってはいたのですけどね。何を隠そう実質数日で原稿書いているのですけど、ほかの仕事も波状的に次々入るのでやっぱり大変でした。
 今のところ三回出ています。毎月25日前後に出ています。

連載『リスク・責任・決定、そして自由!』
10月24日 第1回「小さな政府」という誤解
11月28日 第2回ソ連型システム崩壊から何を汲み取るか──コルナイの理論から
12月26日 第3回ハイエクは何を目指したのか ――一般的ルールかさじ加減の判断か

 今となってはほかに何で忙しかったのか、いちいち思い出せないぞ。校正の類は次々とひっきりなしにきましたね。
 そうだ。11月末はシノドスの原稿出してから、11月末締め切りの数理系論文の査読にかかったら、難しすぎてややこしすぎて七転八倒したんだった。
 12月末はシノドスの原稿出したとたん、年末締め切りの二原稿に取りかかったし。一つは前任校の経済学部20周年記念文集のけっこう長い原稿。もう一つは、『季刊経済理論』に載せる、秋の学会の分科会報告の原稿。座長やったものでこんな仕事がくるのです。でも三人分の報告とその討論を思い出してまとめるのは大変だぞ。同僚で大学院ゼミの後輩筋の大野隆も報告者の一人だったので、自分の報告の部分は本人に書いてもらった…というわけで何とかなりました。

 年明けてからも、地元市議会議員の後援会通信の編集とか、九州大学数理生物学研究室の人との共同研究の関係とか、いろいろバタバタしましたが、今出張が終わってやっと一息ついたかな。この間に急いでエッセー更新しておこう。


 まずいくつかお知らせ。
・ 今も触れました、九州大学数理生物学研究室の人との共同研究ですが、12年度後期に同研究室に内地留学していたときから続いているものです。このほど、その最初の論文が理論生物学の学術雑誌『ジャーナル・オブ・セオレティカルバイオロジー』に受理されました。以下からダウンロード(有料)できます。目次と粗筋と図は無料で見られます。

Tadasu Matsuo, Marko Jusup, Yoh Iwasa, "The conflict of social norms may cause the collapse of cooperation: Indirect reciprocity with opposing attitudes towards in-group favoritism," Journal of Theoretical Biology, Vol.346, 2014.

 例の「武士道vs商人道」話の数理モデルバージョン第一段です。理系では一般的なのか知りませんけど、上のオンライン版が出てからあとで校正がまわってきたので、まだここにはマイナーな数式の表現の間違い(一行の字数が足りない所で、関数の記号と変数を表すかっこの間で、かけ算と勘違いされて改行されている)があります。ご注意下さい。 (校正後の公式のダウンロードページにリンク変更しました。掲載号と年も追記。1/18)
 この校正も、理系では一般的なのか「48時間以内にしろ」とか言ってきて、しかもオンラインでやるやつで、初めての経験で「できるわけないじゃん」とか思っていたら、共同研究者のマルコ君が全部やってくれた。せっかく時間内に完璧にやってくれたのに、こっちは仕事の合間を見てのチェックに時間がかかり、二カ所ぐらい問い合わせたらマルコ君はどれもちゃんとやってあってすみません。結局私がやったのはボタン押すことだけでした。
 今、三人は次の論文に移っていて、今度はほとんどマルコ君が作っちゃって、あれよあれよという間に論文ができて投稿してる…。テンポが早くてついていくのがやっとです。

・ さて、基礎経済科学研究所の機関誌『経済科学通信』の最新号(133号、2013年12月)に論文が二本載りました。ひとつは、9月19日のエッセーで触れた、9月14日行われた基礎経済科学研究所大会の共通セッションでのベーシックインカムについての報告なのですが、「報告者は論文にして載せよ」とのご指示により書いたものです。実は、上記シノドス連載のあらすじになっています。もうひとつは「アベノミクスについて書け」ということなので、リフレ論についての解説論文を作りました。それぞれ拙論のタイトルは、
特集:ベーシック・インカムとマルクス経済学
「現代経済学の展開におけるベーシック・インカムの位置づけ」
小特集:アベノミクスを問う
「流動性選好説に立つ左派政策としてのリフレ政策」
 1冊1300円です。ご希望の場合は、基礎経済科学研究所 office@kisoken.org までご連絡を。

・ それから、もうすぐ経済理論学会の機関誌『季刊経済理論』の第50巻第4号が出ます。ここには、特集「置塩経済学の可能性」で私が依頼論文を一本書いているほか、次のような面々が!
【特集】置塩経済学の可能性
特集にあたって・・・・大野隆
置塩『蓄積論』再考・・・・中谷武
マルクス的経済理論における置塩(1963)以降の進展──搾取理論の場合・・・・吉原直毅
物象の世界と人間の世界の二重の把握──労働価値概念純化への置塩の道を進めて・・・・松尾匡
置塩経済学と森嶋経済学・・・・森岡真史
 このほか、九州産業大学の関根順一さんの投稿論文とか、大西門下の金江亮さんの成長論の本に対する川口和仁さんの書評とか──川口は大学院のときの置塩ゼミの同期で、今愛媛大学の教授です。なんか、置塩後継の中谷先生は今や別格の長老として、僕の世代(アラフィフ)の日本の数理マルクス経済学がせいぞろいしているという感じですよ。
 出版社の桜井書店さんのサイトの紹介ページはこちら


 このかんにもいろいろ失敗やプチ不運があって、そのたびに、読者にメシウマのタネを提供するためにこのエッセーに書こうと思っているのですが、このかんいろいろありすぎて、今となってはこれもイチイチ覚えていません。ひとつ特大のがあるけどそれはまた後日全部終わった後で。
 ああ一つ覚えていた。
 いつも、九州地方の電子マネーカードの「ニモカ」にチャージするとき、あんまりひんぱんにチャージするのもめんどくさいけど、万一落としたりしたらいやだから5000円にしているんです。ところがその日、朝残金が足りなくなってチャージするとき、5000円チャージするつもりが間違えて1万円チャージしてしまいました。まあいいか今まで落としたことなかったし、と思ったら、そんなときにかぎって落としてしまったのでした。
 数日の関西出講を終えて久留米に帰って気がついて、そのあと大学の宿舎に問い合わせたり、業務で京都キャンパスも行ったので、行き帰り途中降りる各府県の警察の遺留物のホームページ調べたりしたのですけど…ない。
 結局、大学のキャンパス管理室に届けがあって戻りました。大学のバス停に落ちていたのを、親切なかたがどなたか届けて下さったのでした。ありがとうございます。


 上で触れた基礎経済科学研究所というのは、もともと関西のマルクス経済学者とか労働者が作った「働きつつ学ぶ」と掲げる学会なんですけどね。中心人物の一人の大西広さん──どう考えても関西以外で似合いそうにない──が今や京大から慶応に移ったぐらいで、全国に関係者が散らばっていますので、だんだん「関西の」とか言ってローカル学会扱いしたらいけなくなってきたけど。
 この団体は、自分の印象では、わりと私の言っていることをおもしろがってくれたり、危機感を共有してくださったりしている人がいらっしゃる気はするのですが、でもやっぱり今回の『経済科学通信』でも、私の論調は他とは異質という感じがしますね。他のは現日銀の金融緩和に批判的な論調とか、景気拡大策がもうすぐ失敗すると見る論調ばかり。
 これで大丈夫かなあと…。

 やっぱり安倍さんの立場としては、9条改憲を強行して、さらに新憲法体制を樹立していくには、公明党ですら邪魔になります。もう一回選挙で自民党圧勝して、もっと議席を積み上げ、左派・リベラル派、9条護憲派を国会から一掃する必要を認識していると思います。そのために15年7月の参議院選挙を同日選挙にする可能性は高いと思います。(次回参議院選挙は16年7月でした。大変初歩的で重大なミスをお詫びいたします。14年7月14日)
 そしてそのときに好景気が実感されているように、あらゆる手を打つと思います。消費税増税のマイナス効果は非常に大きいと思いますが、それを抑えるためにどんどん対策をつぎこんでくると思います。

 こないだの靖国参拝の件、うがった深読みでただの取り越し苦労かもしれませんけど、やっぱりそんなスケジュールを頭においているなと思わずにはいられません。
 靖国参拝をいつするか。消費税増税後の下ぶれリスクに対中輸出減の影響が重なるわけにはいきません。景気に影響が出るまでの時間のラグを考えると、今年に入ってしまうとやばいです。その先の景気が戻したあとに延ばしたら、今度は選挙に近づきますので、やはり対中輸出減の影響が出るリスクはうれしくないでしょう。対中輸出減の影響が最小限ですむ時期を狙うと、なるべく景気が拡大するまでひっぱって、あの時がズバリ最適、今でしょ!という計算になります。
 そう思うと心底怖くなったんですけど…。
(上記ミスにより取り消します。14年7月14日)

 濱口桂一郎さんが、連合総研の機関誌で、シュトゥルムタールの『ヨーロッパ労働運動の悲劇』という本のことをお書きになったそうで、ブログに書いていらっしゃいます。拙著の名もあげて下さってありがとうございます。
hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳):シュトゥルムタール『ヨーロッパ労働運動の悲劇』からの教訓@『DIO』289号
 この本は、まだ読んでいないのですが、戦前のヨーロッパの左派政党や労働運動が、大不況に対抗する経済政策を持たず、ファシズムに負けて壊滅していった悲劇を反省している本です。ドイツでは労働運動も社会民主党も強大だったのに、財政の収支バランスにこだわったり、インフレを嫌って金融緩和に反対したりして大不況を悪化させ、人々に見放されていったそうです。
 詳しくはこちらの書評をお読み下さい。
荒野に向かって、吼えない…:『ヨーロッパ労働運動の悲劇』
 このエッセーコーナーでも何度も取り上げていますように、雇用のために財政拡大や金融緩和を志向することは欧米では左派・労働運動の当然の姿勢ですが、戦後、そういう過去の反省の上に立ってできた姿勢なのですね。
 濱口さんは、この本を取り上げて、今の日本は当時のドイツなどに似ていると警鐘を鳴らしているのですが、本当にそのとおりだと思います。

 この記事の中で濱口さんが私のことを「アベノミクス支持」と書かれていたので、私はアベノミクス「第三の矢」には反対だし、「第二の矢」も財政支出の振り向け先は反対なので、「「支持」は誤解を生む表現かも」とコメント欄に書き込んだのですが、そのお返事の中で、連合総研の親団体で、労働組合の全国組織である「連合」の機関誌『月刊連合』の1月号には、浜矩子さんのアベノミクス批判が載っているというお知らせが!
 浜矩子さんか…。ああ先はまだ長いですね濱口さん。

 浜さんと言えば、「2012年には1ドル50円を切る」と断言していましたけど、もちろんそんなことはありませんでした。
ライブドアニュース:注目エコノミスト「2012年は1ドル=50円時代が到来する」
 毎年年末になったら、翌年の世界経済破綻を予言し続けて、はや四年。とうとう五年目に突入しましたけど。
市況かぶ全力2階建:毎年「オオカミが来たぞー」と世界経済の崩壊を予測し続ける浜矩子と高橋乗宣の最新作がやって来た

 こんな豪快にはずし続けて、よくいまだに講演やら執筆やらの依頼が次々くるなあと…。
 ボクが同じことになったら絶対無理ですからね。さんざん2015年好景気と予言し続けちゃいましたけど、消費税引き上げ後、安倍さんが存外にバカで初動で油断して景気対策の手を抜いたりしたら、15年は景気低迷に終わり、私は信用失って、講演依頼も執筆依頼も何も来なくなるでしょう。
 ま、それで安倍さんが失脚するなら、超安いもんだ! (※ これは不謹慎でした。景気が低迷すれば失業や倒産が起こり、自殺者もでるかもしれないし、人生破滅する人も出るかもしれません。いくら安倍さんの首が取れても、決して安くはない犠牲で、本来あってはならないことです。私が講演・執筆依頼がくるかどうかなどで安さを測ってはいけない話でした。1月14日後記。)

 そういえば「資本主義の国のアリス」さんが、社民党の福島党首が浜さんを講演に呼んだツィッターを取り上げて、ブログでなげいていらっしゃるのですが、
throw ideas into shape:社民党の悲惨な経済離れ
いやあ、全くおっしゃるとおりですわ。
 で、拙エッセーを取り上げていただいたので、お礼をコメントしないといけないと思って、コメントしているうちに、ノリで新春ネタをかましてしまった!
 興味がある人はリンク先コメント欄を見てみてください(笑)。もちろん本文も読んであげてね。


 浜さんとこの大学、去年は大河ドラマで一躍脚光を浴びて、ご同慶の至りでありますが、こと賃金水準に関しては、決して到達することのできない未踏の高嶺として我々関西私学の前にそびえ立っていたのであります。
 そしたら、去年の春、内地留学あけて最初に職場に出たとき、うろうろしてたらちょうど組合の職場集会やっていて、ひっぱられちゃった。半年いないと浦島太郎状態で何言ってんだかさっぱりわからないのですが、どうやら「基本給がD志社に追いついた」とか言っているらしい…。春闘わりと賃上げ勝ち取れたみたいで、ああ偉大なるM同志。人民の太陽。
 ボーナスとか手当とか含めるとまだまだD志社さんには至らないのですが。

 とか言っていると、その後半年ほどたつ間にキャンパスの中に妙に警備員さんが目立つようになりました。京都キャンパスは特にそうだけど、滋賀の草津キャンパスでも、一回生でも「春と比べるとずいぶん警備員が増えた」と言うくらい。京都キャンパスでは、学生が大学の問題点を提起するツイッターとか作っているのですけど、そこに載っているパロディ・ポスターは、まさにこれを取り上げていて、警備員さんが後ろ向きに仁王立ちしている画像を使っています。

 う〜む。

 私がR大学に移ってきたとき、長年いるベテランの先生から言われたのは、この大学は、常に時代を先取りしてきたということでした。
 明治の殖産興業のときに、京都の旦那衆がそんな時流に乗ってお金を出したのが始まり。大正デモクラシーの時代は、自由主義の拠点となって、のちには京都帝大を追われた教授を受け入れる。ところが昭和も深まるととたんに軍国主義に走り、のちにGHQから取り潰されそうになる。しかし戦後手のひら返して「平和と民主主義」と言い出し、その後70年代には上から下まで真っ赤に染まる。
 それが冷戦後は、まあ何というか、みなさんご存知の企業家精神あふれる経営の大学になりまして…、小泉さんの大学改革を先取りしてガンガン突っ走ってきたわけです。

 へぇ〜そうかとそのときは聞いていたのですけど。
 ちょうど私が移ってきた、その2008年なんですけど、急にそれまでの強圧的…あ〜何と言うか、トップが強いリーダーシップを発揮する姿勢が軟化しまして、「満腔の反省」とかいうフレーズがトップから出てきたり、「みなさんのご意見をうかがって」とかおっしゃるようになって、急に風向きが変わったなと思ったら、なんと6.3%ベア実現がなされたのです。
 びっくりしてたら、翌年自民党から民主党に政権交代しました!

 ところがこれでこの大学も変わるかと思いきや、学園トップの言い回しだけはものわかりがよくなったのに、昔からの組合との懸案はズルズル何も決まらず、結局何も変わってないじゃないかと。そんなことをしているうちに、いつの間にか190億円で新キャンパス用地を買う話が進んでいて、最後は、まあ何と言うか…「総長としての責任で」とおっしゃって決めました。
 そんな姿が、その後の民主党政権の姿そのものだったわけです。「総理としての責任で」と言って原発再稼働決めた人もいましたけど。

 そのうち、組合に対するトップの物のいい方もまた「五年前に戻ったんじゃないか」と言われるようになってきたら、…アラフシギ日本全体も自民党政権に戻ったと。

 この大学を見ていたら、すぐ先の日本のゆくえがわかる!
 まあ、団交で組合が理事会を攻めるときにも、「そんなことは今の時流に合わない」というセリフがでるぐらいで、ひとより一歩先の時流を読んだ方が勝ちというような遺伝子が、上から下まで染み付いているところがありますな。
 そんなことを言っているボクも、六年もいたらイヤでもそんな精神が染み付いてくるのだ。先行きを読むのに、D志社のおばさんに負ける気はしない。

 というわけで。去年のR大学。
 賃金が上がって、警備員さんが増えた…。日本はこれから、経済政策は当たって賃金が上がるけど、警察国家になるのだ!



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