松尾匡のページ

14年5月12日 欧州左翼党の選挙綱領は中銀引受



 え〜…まず一つ懺悔することがあります。
 引っ越しに際して書類を整理しておりましたら、これまで長年の間、学会など様々なイベントの出欠問い合わせなどで返事を怠った返信用葉書などが、積もり積もって大量に発見されました。
未投函葉書
 もともと先方の費用で買ったものです。こちらとしては本来お預かりしているだけの性格のものですから、換金して着服するわけにもいきません。
 しかし、今さら出しても意味がありませんので、どこか書き損じ葉書を集めている団体に寄付しようと思いました。久留米でお手伝いしていた市議会議員の後援会には福祉系団体の関係者が多いので、適当な団体を知っているだろうと思って、後援会通信の編集用のSNSで問い合わせてみましたら、関係者の一人が、「ジョイセフ」というNGOを紹介して下さいました。「途上国の妊産婦と女性を守る」とのことです。
国際協力NGOジョイセフ:切手・はがきを送る
 引っ越しのゴタゴタに原稿が重なったりして、なかなか手がつかなかったのですが、ようやく落ち着きましたので、連休が終わってからここに送りました。もともと葉書をいただきましたのは、次の方々です。(順不同。敬称略)

経済学史学会
筑後川流域連携倶楽部
AIM国際ボランティアを育てる会
晃洋書房
新社会党
基礎経済科学研究所
日本経済学会
協同総合研究所
九州経済学会
景気循環学会
経済理論学会
経済教育学会
9プラス25改憲阻止市民の会
「きよた信治二十一世紀の集い」実行委員会
くらしと協同の研究所
久留米大学経済学部H先生還暦祝宴
公益財団法人政治経済研究所
協同総合研究所
季報『唯物論研究』
原和美後援会
久留米大学経済学部D先生退官並びに古希祝賀会
祐誠高等学校
ふじばやし詠子後援会
篠原三代平先生を偲ぶ会
久留米市

 官製はがき107枚、私製はがき(未使用切手貼付)6枚、返信封筒(未使用切手貼付)1枚ありました。たしかに送りましたので、どうかご了解下さい。以後、返信するよう極力気をつけます。

 ところで、前回のエッセーは、連休で石川県の私の実家に帰省中に書きましたけど、連休明けが締め切りと言っていた英文論文査読の件、やっぱり連休明けまでにできるはずはなく、きのうやっとできました。結構めんどくさい行列の計算が続いて、全然歯が立たないならばまだいいけど、なまじ一生懸命考えれば解けてしまうものだから、結局すごい時間がかかって数式チェックを終えました。
 きのうはそのあと基礎経済科学研究所の事務所でケインズの『一般理論』の読書会の第一回目。ドブリューの一般均衡論の教科書の勉強会や投下労働価値計算の打ち合わせ会も始動していて、これから楽しみです。
 さてこのあとまた自分にとってはかなり難度の高い査読が一本。24、25日の経済学史学会をはさんでシノドスの締め切りは26日。朝日カルチャーセンターの31日の講演準備もしないとね。

 さて、前回のエッセーで、人手不足が進行しているという報道について触れましたが、毎日新聞や朝日新聞でも同じような報道があったようですね。
朝日新聞5月2日「人手不足、企業が悲鳴 営業短縮や店舗の閉鎖」
毎日新聞5月5日「人手不足:景気回復で奪い合い 時給1375円も求人難」
 毎日新聞のでは、時給が上がっている、非正社員の正社員化の動きが始まっているとも報道されています。
 はてなid:kuma_assetさんが、このかん長いこと、「真の失業率」というものを推計されています。これは、不況で諦めてしまって求職統計に出てこなくなる失業者を推計して加えたものです。5月3日のブログでは、3月までの数字では、公表完全失業率だけでなく、この「真の失業率」も順調に低下し続けていることが示されています。しかも、このグラフを見ると、現行景気拡大策が始まってからの低下が、公表完全失業率のグラフよりもよくわかります。
真の失業率──2014年3月までのデータによる更新:ラスカルの備忘録

 こんな中、円安で生産の国内回帰が始まったという報道もありました。
世界日報オンライン4月23日「日本の製造業に、生産・調達で国内に回帰する…」
日経ビジネスオンライン5月7日「パナソニック、国内回帰の勝算とは」

 まあ株価は消費税効果を先取りして下がり続けていますけど。
 政府、日銀の対応は、こっちから見たらとてもモタモタして見えます。目に見える影響が出ないうちに、早めに大胆に手を打って、何事もなく順調に景気が拡大し続けるようにするのが筋ってもんだと思います。安心して気を抜いているのかとも思いますが、ひょっとしたらと、ついついうがった見方もしてしまいます。
 つまり、一回有権者に好況の味をちょっと味わわせておいて、その後消費税増税の悪影響が出るに任せて、また不況に戻る恐怖感を蔓延させる。消費税増税は民主党も同罪ですからね。その悪影響が出ても自民党にだけ有権者の責めが向くことはない。そこに、派手な景気対策を打って危機を乗り越え、政府支持率を高めるという作戦。夏ぐらいに景気後退が実感されてから対策を打てば、ちょうど来年の夏の同日選挙のころは好況絶賛ばく進中というタイミングです。(次回参議院選挙は16年7月でした。大変初歩的で重大なミスをお詫びいたします。14年7月14日)
 我ながらうがちすぎかもしれないとは思うけど、でも戦後民主主義体制が守れるかどうかの正念場、このくらいの想定はして備えておかないとやばいでしょ。

 まどっちにしろ、日銀が無からおカネを作ってそれを資金にして何でもできるという夢のような時代は過ぎつつあるということです。ああ、左翼は何でも望みのスローガンを掲げることができたはずなのに。福祉に、医療に、教育に、少子化対策に、貧困撲滅に、戦後補償に、国際協力に……国債を日銀に引き受けさせたら無からおカネが生まれて、これらを何でもまかなえて、おまけにそれで景気がよくなったところなのに。ブルジョワの手中にある大量の国債は、後顧の憂いを断つために、日銀が大量に買取ってナイナイしてしまえと言えたのに。
 もし今度夏頃に消費税の悪影響が出たら、そのときがこれを言える最後のチャンスです。このとき、景気拡大の味を知り、再び不況の苦しみに戻る恐怖に怯える有権者に向かって、どんな対案を提唱するか。それで、来年夏の絶好調の好況の中の決戦で、安倍総理の野望をくじくことができるかどうかが決まるでしょう。
 でも、わが共産党さんは、安倍さんが金融緩和を言い出したときも、「安倍晋三首相が主張するように日本銀行がどんどん国債を引き受け、お札を刷り続けた時代がありました。戦争中のことです」「国債大量発行のつけを払わされたのは国民でした」「消費は冷え込み、物価上昇の中で不況はますます進みます」と予言されてましたし...。
しんぶん赤旗2012年12月29日「きょうの潮流」


 ところで、もうすぐ欧州議会選挙があります。この選挙から、EUの首相にあたる欧州委員長は、欧州議会で選ばれることになります。それで今、主要欧州政党は、欧州委員長候補を立てて選挙戦を戦っているところです。
 ヨーロッパではこのかん、新自由主義のEU執行部と欧州中央銀行によって押し付けられた緊縮政策によって、欧州人民は塗炭の苦しみの中に叩き込まれてきました。今度の選挙でこれへの有権者の審判が下ります。おそらく現執行部を牛耳る中道保守派は敗北するでしょう。もちろん、欧州委員会の委員は各国首脳の会議で決まるので、たとえ新委員長が反緊縮派になっても簡単に政策が変わるわけではありません。強大なメルケルさんが立ちふさがり、今後、一波乱も二波乱もあると思います。

 EU加盟国の共産党や左翼党の連合である「欧州左翼党」も、今回の選挙で選挙綱領を発表して選挙戦を闘っています。その選挙綱領の英文がネットで出ていました。
2014年欧州議会選挙の欧州左翼党マニュフェスト「脱緊縮でヨーロッパを再建しよう」

 ここでは、債務過剰な国に欧州中央銀行が直接融資すべきだとか、欧州中央銀行が作った資金で公共投資や公共サービスをすべきだとか、欧州中央銀行は民主的コントロールのもとにおかれるべきだといった主張が含まれています。
 以下に、4ページ以降の本文の重要な部分を和訳しておきます。例によって英語が不自由な私の訳なので、読者のみなさんは信用せず、ぜひ直接原文にあたって下さい。前文とか声に出して読んだら感動に震えるし。
 まあ実現可能性がだいぶ怪しい提案とか、反経済学的なアイデアも見られますが、人を人と思わぬ非道な緊縮政策の渦中で闘う最前線では、このくらい言わなあかんという気もします。私は原則自由貿易論者ですけど、海外進出企業が現地低賃金労働を搾取して作った激安製品が逆輸入されるのに関税を課すという提案は、現地労働運動が自由化されて賃上げが実現されるまでの戦術としては、正当なものだと思います。「財政ダンピング」に反対して、法人税制を国際調整するという提案は、現在の私たちが直面している問題の焦点の一つを押さえた決定打的政策だと思いますが、国の課税主権にこだわる古いタイプの左翼の発想からは飛躍したすばらしい提案だと思います。
 なお、フォントのデカ字強調は勝手に私がしたものです。諸君!これが左翼だ。


欧州左翼党2014年欧州議会選挙選挙綱領より


1-社会発展の新しいモデルをめざし、緊縮政策に抵抗しよう

a) 債務について
 我々の提案の出発点は、欧州債務危機の問題の核心に立ちふさがるものに対して反対することである。すなわち新自由主義政策に対する反対である。新自由主義政策は、金融上の課題に求められる資本側の貢献を最小限にまで免責し、一連のEU加盟諸国において、緊縮プログラムを押し付けることで、民主主義と労働者の権利の息の根を止めて空前の人道危機をもたらそうとしている。欧州中央銀行は、ひとつの機関として、この問題を解決するどころか悪化させてきている。我々の提案は、それゆえ、南欧諸国にのみかかわることではない。それは、全欧的政策のフレームワークの中で債務問題と取り組むために考えられたものであり、ここには信頼できる確実な解決策が含まれている。
・ユーロ圏の債務危機を話し合う欧州会議を。これは、1953年のロンドン会議で、戦後ドイツの債務問題が解決されたように、持続的な解決をもたらすためのものである。
・我々は、公的債務の大半を放棄し、支払いを凍結して、残りの部分には「成長条項」を導入するために闘う。それと同時に、我々は欧州中央銀行の役割と機能を根本的に変革するために闘う。欧州中央銀行は、最後の貸し手となって、債務過剰の加盟諸国に対して、直接の融資を提供するべきである。
・ 同時に、緊縮プログラムはやめなければならない。なぜなら、緊縮プログラムは失業の増大と不況の深化とをもたらし、その結果として、確実に新たな借り入れを必要にさせて、一層の公的債務の増大をもたらしているからである。ヨーロッパが必要としているのは、欧州投資銀行からもっと多くの資金を受けやすくすることによって、安定的な職の創出や持続可能な発展のプロジェクトのための資金をまかなう公共投資プログラムである。
 欧州左翼党が提案するこれらの当面の手段は、債務危機を一挙にすべて解決するものではないだろう。それらはあくまで、債務危機の着実な解決に向けた第一歩なのである。本当の解決のためには、経済と金融の領域における根本的な変革がともなわなければならない。それは、ラジカルな新しい経済モデルに基づくものである。すなわち、資本家的利益のためではなく、社会的ニーズに奉仕するような経済である。

b) 緊縮政策を止めて人間と人道の崩壊を防ごう。

c) 社会的ニーズに合致するように、経済活動を再活性化させて──ただし、環境に配慮すること──、プレカリアート化や失業と闘おう。特に若者と女性のプレカリアート化や失業と。
・ 我々は「競争力協定」を拒否する。
・ 我々は欧州公共銀行の創設を提案する。これは社会的で連帯に基づく発展のための銀行である。「欧州安定基金」とは反対に、それは社会的、環境的基準に基づいてプロジェクトに資金を配分する。それは、欧州中央銀行と、EU予算の一部と、さらに資金の取引や収益への課税とから資金をまかなう。それによって、公共投資は金融市場の影響から切り離されるであろうし、この点で投機家たちは無力化されるだろう。
・ 欧州経済の戦略的セクターの公共的で民主的なコントロールを目指そう。
・社会的環境的な理由に照らしてヨーロッパでの生産を再活性化し、生産を変革しよう。できるだけヨーロッパの消費地に近い所で生産することが必要である。
・もっとよりよい生産活動をしよう。経済戦争を煽るより、協同の中で生産しよう。我々は、我々が今日生産しているやり方に対するクリティカルな評価をすることを提案する。そして我々の生産目的を再定義するよう提案する。すなわち、生産の社会的有用性や、その環境へのインパクト、そして事業において決定がなされるやり方を考慮に入れた評価を行うのである。
・ 我々は戦略的諸産業については欧州産業プランを提案する。そして、欧州復興プランを提案する。
・ヨーロッパに産業を再配置しよう。それは、全欧的貿易保護のための機関と、社会的環境的ルールを通じてなされるもので、グローバル市場における、資本と低コスト生産の圧力に対抗する。例えば、欧州外に生産を移した企業からヨーロッパに再輸入される財に対して、諸国が協調課税する。無用に遠くからの財の輸送を減らすための「マイル」税を課税するなど。

d)予算の振り向け先は、社会的連帯と、困難にある諸個人や諸国の救済とでなければならない。予算は、社会的地域的ジェンダー的な不平等を減らすことを目的にすべきである。
・ 我々は貧困者支援のための予算の削減に反対する。
・ 我々は加盟諸国とヨーロッパにおける富の公平な再分配と公平な課税システムのために闘う。
・ 我々は富者や、資本からの収益が、もっと財政に貢献することを望む。
・ 我々は、欧州経済復興プランの資金をまかなうために、高額資産に対する欧州税を提案する。
・ 資金取引への課税。
・財政ダンピングを許さないために、全欧的に法人課税の調整を行うことに賛成する。[訳注:一国が社会保障などのために法人課税を強化すると、企業が法人税の安い国に逃げ出して、その国の雇用が減ってしまう。そのため、企業をとどまらせようとして各国間で法人税の切り下げ競争になり、社会保障などの財源が不足してしまう。これが財政ダンピング。]
・ 我々は、利益をあげながら労働者のクビを切るような会社に公的補助金を出すことを禁止するよう求める。
・ 我々は、まっとうな仕事の創出や、社会的環境的基準に基づいて、企業への公的支援を条件付け、配分をやり直すよう提案する。

・・・・・中略・・・・・・

2-人民の手に力を──市民の革命のために
 社会的で環境的に持続可能で、民主的で連帯に基づくヨーロッパは、現存する欧州連合協定のもとでは築くことはできない。人々の手に、労働者・市民の手に力を与えることによって、ヨーロッパを再建しなければならない。

a) 金融に対する力を取り戻そう
欧州中央銀行に対する民主的コントロールと銀行信用の方向転換。欧州中央銀行はその通貨創出力を使って、まっとうな職(産業や研究や新しい生産様式における)を創出するプロジェクトの資金をまかなったり、各国レベル・全欧レベルでの公共サービスの資金をまかなったりするべきである
欧州中央銀行は、諸国家に対して、低い金利(あるいはゼロ金利)で、いかなる政治的経済的制約条件もなしに、直接におカネを貸すことを認められるべきである。欧州中央銀行が諸国家に直接おカネを貸すようになれば、公的債務に対する投機は直ちに止まるだろう。
・銀行への資本注入が必要となる場合、(これは民主的にコントロールされなければならないが)これらの銀行は、社会的所有を通じて民主的コントロールのもとに置かれなければならない。これは、国家の監督のもとの公的な銀行につながり得る。
・ EUとその外のタックスヘーブンとの間の資本移動を止めよう。
・ EU自体の中のタックスヘーブンを根絶しよう。
・ 我々は欧州通貨同盟の新自由主義的な基準を受け入れない。そして、雇用や社会的な開発や民主主義が優先されることを要求する。
・ 銀行への公的コントロール。公的なbanking pole [banking-pol 銀行警察か]の創設、商業銀行と投資銀行の分離。
・ 脱税と闘う。
・ 銀行の守秘をやめる。これは大資本と課税逃れを保護しているからである。
・ 共済基金と非営利協同組合の発展を促進する。

・・・・・・・後略・・・・・・・


 


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