松尾匡のページ

17年6月5日 金子勝さんとの対論本出版ほか



 5月24日に、本サイトのトップページに以下の文章を載せました。
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 以前、荻上チキさんのラジオで対談したこともあるリベラル・リフレ派の論客、片岡剛士さんの日銀審議委員任命承認案が、本日参議院本会議で採決されていますが、民進党、共産党、社民党の議員が反対する中、山本太郎さんはじめ自由党の議員は全員賛成にまわっています。しかも、もう一人提案されている鈴木人司さんの日銀審議委員案の方は、自由党もみんな反対ですので、ちゃんと考えて入れてはりますね。みんなたろさのこと見くびってたでしょ! 反省するんだ!(17年5月24日)
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 その後、衆議院でも、片岡さんには民進党、共産党、社民党が反対なのに自由党は賛成、鈴木さんには自由党も反対となっています。やるなあ、たろさ。やるなあ自由党!…と思っていたら。

 衆議院天皇退位特例法案の採決で、共産党も社民党も(もちろん民進党も)賛成する中、ただ一党、自由党だけが賛成せず退席しました。
 おいっ! 共産党も社民党も何のためにおるんやあーー!! こんなことで天皇制を前にビビっていては、秘密保護法もあるし、この上共謀罪法もできたら、安倍政権にどう対峙できるのか。一部極右カルト集団の日本私物化を守るために、先方は死に物狂いで悪事の限りをつくしているというのに…。

 5月31日の日経によれば、自由党の小沢一郎さんは「我々は当初から皇室典範の改正を主張してきた。付帯決議案に『女性宮家』との文言が入ったが、何の法的効果も持たない」と語ったとのことです。14日の記者会見では「姑息なやり方」とおっしゃったそうですね。全くその通り。
 出自によって選択の余地なく人生が決まるというだけでも天皇制は人権侵害だと私は思いますが、せめて本人の意思でやめる自由ぐらいは保障しろよと思います。人権とは普遍的なものであり、ただ一人でも罪無く意に反して特定の役務に終身強制されることが公的に認められるならば、いつ政治の都合でそれが誰でもにふりかかってこないともかぎりません。現行皇室典範にそんな定めがあるのなら、それは自由な社会を保障するための国法としては欠陥なのであり、気づいた時点で改めるべきなのです。
 せっかくそのチャンスがきたのにそれをせず、かえって特定個人を名指しした特別扱いを法律で定めることは、自由な社会の原則への公的侵害の上塗りになるじゃないですか。これをヘンと思わないのは、安倍さんのお友達を特別扱いするのと同じメンタリティですよ。共産党も社民党もよもや賛成するとは思わなかった。異議を唱える声がでなかったら恐ろしいことでした。
 だからえらいぞ、自由党!
 私は、反自民党、反維新、反日本会議の政治勢力なら、特定の勢力だけに加担することなく、私の意見を聞いてくれるどんな勢力にでも協力する姿勢でいるつもりですけど、今、自分の中で自由党の株が急上昇中です。太郎さんを置いてるのも、ただの数合わせではないと思うようになってきました。

 先日、5月27日には、「ひとびとの経済政策研究会」主催で、山本太郎さんとコラボの講座企画を実施しました。5月19日に本サイトトップページで、このことに触れた文章も載せておきます。
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 13日、14日は、ブレイディみかこさん来日に合わせて、東京で対談の収録や、岸政彦さんを交えた鼎談イベントをしてきました。本当に楽しかった。ブレイディさんはじめ関係者のみなさんに感謝します。やはり「反緊縮」がテーマでしたが、蓮舫さんの財政規律条項を作る改憲案は、私たちの間では衝撃ネタで、「緊縮憲法」と呼び名がついて局所的祭りになっていました。ブレイディさんのおっしゃっていたことで一番印象に残ったのは、「欧州では反緊縮と言えば、まず何より財政問題債務問題」ということ。「国の借金は返すな」ということが反緊縮派であるための不可欠の主張なのですね。だから、中央銀行がおカネをたくさん作るという金融緩和は、国の借金を事実上なくしてしまうための、反緊縮派のごく自然な主張になるわけです。
 ところで「ひとびとの経済政策研究会」の企画として、5月27日に京都で山本太郎さんとコラボの経済政策講座をする予定ですが、申し込み者が定員を超えましたのでご参加を締め切りました。間に合わなかった人はもうしわけありません。たくさんのお申し込み感謝いたします。
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 (「財政問題」という表現がどうもしっくりこないと感じていましたが、たしかに「債務問題」とおっしゃっていました。すみませんでした。)
 まさにこの、「国の借金は返すな」がテーマでした。国の財政が破綻することはないし、日本の公的債務問題は大いに誇張されている。国の借金を返すために緊縮を強いられたギリシャは大不況になって人々の雇用も命もたくさん失われたのに、国の借金を返すのを拒否して、緊縮どころか逆に社会保障支出を拡大したアイスランドは、人々の健康は損なわれずに景気が回復して雇用が増え、やがて借金の返済もできるようになった。こんなお話です。
 「ひとびとの経済政策研究会」の朴勝俊さんが原案を作り、私たちメンバーで修正したパワーポイント紙芝居を、太郎さんが実演するのがメインコンテンツ。プロの役者にノーギャラでこんな仕事をさせていいのかと私なんかはずっとビビっていたのですが、太郎さん本人にはノリノリでやっていただき、本当に感謝のかぎりです。さすがにうまかったです。学者にはまねできません。
 そのあと、太郎さんと私でトークしたり、会場の質問を受けたりして盛況のうちに終わりました。ご参加いただいたみなさん、本当にありがとうございました。

 山本太郎さんとコラボの講座企画第2弾は7月8日にまた京都で行う予定です。詳しく決まったら「ひとびとの経済政策研究会」のブログでお知らせします。

 山本太郎さんとは、6月13日のラジオのニッポン放送16時から、宮崎哲弥さんの「ザ・ボイス そこまで言うか」でも、ご一緒にお話する予定です。先日5月27日の講座の前には、宮崎さんが大阪でのテレビ出演の帰途わざわざよって挨拶してくださって恐縮でした。おみやげにおいしい棒鮨もいただきましてありがとうございました。こっちの企画を手伝ってくださっていたスタッフみんなびっくりしていましたけど。

 ところで7月8日はもうひとつイベントがあります。「ベーシックインカム勉強会関西」さんが、『ヘリコプターマネー』の著書で有名な井上智洋さんを呼んで大阪で講演会をします。人工知能(AI)とベーシックインカム(BI)と貨幣イノベーション(CI)の三題噺ですよ。
 実は、井上さんは彼が院生の頃からの知り合いで、8月27日には、「ベーシックインカム勉強会関西」さん、「市民社会フォーラム」さん、私たち「ひとびとの経済政策研究会」の共催で、井上さんと私のトークイベントをする予定です。これも、詳しく決まったら「ひとびとの経済政策研究会」のブログでお知らせします。
 ということで、井上さんにも「ベーシックインカム勉強会関西」さんにもお世話になるのですが、7月8日は別企画をぶつける形になってしまって大変もうしわけありません。関係者がみんな都合が合う日がほかになかったので。フライヤーを載せて宣伝しますので、どうかご容赦下さい。
“井上講演フライヤー”

 さて、今日のエッセーのメインのお知らせです。
 今年元日のエッセーでもご報告しましたように、昨年11月に立命館大学社会システム研究所主催で、慶応大学の金子勝さんと私との対論のプロレス企画がありました。まあ、あまり直接バトルにはならず、お互い自分の主張を述べて終わった感じでしたけど。
 このときの私たちそれぞれの講演と、パネルディスカッションの記録に、イベントが終わってから各自執筆した章をつけて本にしたものが、このほど、かもがわ出版から出版されました。
 基本的に大学の企画物で、個人の献本枠がありませんので、いつもお世話になっているみなさんにも献本することができません。もうしわけありませんがご容赦下さい。各自ご入手いただけたならば大変幸いです。

ポスト「アベノミクス」の経済学:転換期における異議申し立て
“金子対論本”
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 対論イベントのときに使った講演パワポは、本サイトの「講演資料」のコーナーにアップロードしていますが、本ではイベント当日の記録はデータ更新はしない原則になっていますので、ほぼこれと同じグラフ類を使っています。その後データ更新したグラフは、3月時点のものでは、「ひとびとの経済政策研究会」ブログの3月21日記事をご覧ください。
 その後、5月29日に神戸のみなさんから講演に呼ばれましたので、講演用グラフはまた最新のデータに更新しましたが、基本的には傾向は変わっていません。実質賃金の上昇は当面止まった感じですが、27日の日経では、全産業の国内設備投資の計画が、「伸び最高」の前年比13.6%増と報道されています。私は前々から、大衆消費に支えられず設備投資と輸出に主導された景気拡大には反対だけど、このままだったらそうなるだろうと言ってきました。緩和マネーを政府が意識的に大衆のためにまわすのでなければ、実質利子率が下がるだけなら当然です。その上やおら少し政府支出にまわしたら、オリンピックだのリニアだのだし。
 こっち側がボヤボヤしているうちに、質の悪い景気拡大が進んで、日銀の作ったカネで福祉充実させる対案の余地はどんどん少なくなっていって、そのうちさすがに労働市場が逼迫すると賃金上昇も目立って、結局好況は全部安倍さんの手柄にされてしまう。ほんとはヘタクソな景気拡大なのに総選挙では自民党超圧勝。極右カルトの日本私物化は磐石なものになると。あ〜あ、ホンマどないするんやこれ。安倍さんたちの悪事がどんどんバレている今のうちに、できるだけ内閣支持率を下げてもらって、解散総選挙できないようにしてほしいところですが。
 自由党さんならどうしたらいいかわかってくれるかなあ。たろさがんばって。

 もうすぐ総選挙のイギリスでは、当初は保守党が支持率6割で地滑り的大勝利とか言われていて、一時はコービンさんもこれでダメかと思っていたのですが、なんとここにきて労働党猛追。「1ポイント差」という調査結果もあるそうで、政権交代も現実味を帯びてきました。
 ブレイディさんがなんか興奮してブログにコービン労働党党首の出演番組の動画をあげてはるのですが、英語不自由だから聞き取れないよぉ〜。ヤフーの方でも解説を書いてくださっています。「労働党のマニフェストには、緊縮財政で暗い国を作らなくとも、投資と成長で収入を増やせば財政は健全になるのだと書かれている」だって。
 まあ要は、労働党の反緊縮のマニフェストがウケているということです。メイ首相が高齢者ケアの緊縮案を打ち出して、あまりの不人気に慌てて撤回したこともあって、当初ブレグジットが争点と思われていたのが、「緊縮vs反緊縮」の争点に変わっていったとのこと。テロ事件まで、緊縮で警察を削減したせいということになって、労働党の追い風になっているそうです。
 これを見たらもう、安倍さんに勝つには何をしたらいいか明らかですよね。

 上のブレイディさんの言葉をもう一度掲げると「欧州では反緊縮と言えば、まず何より債務問題」です。今の日本の国の借金を全部返すべきだとか増やしちゃダメだとか、経済成長はいけませんだとか言ってたら、いくら福祉充実と言っていても信用されませんからね。たしかに今、だんだん失業が減っていて、緩和マネーで政府支出する対案の余地は日に日に少なくなっています。そしたらやがてそのうち、国の借金を増やしてもヤルぞとはなかなか言えなくなるかもしれません。
 でも、今後どんな人手不足になったとしても、日銀保有国債のうち、決して売りオペで民間に出ていくことのない「根雪」の部分は永久債に換えてしまう(超高額コインに換えてもいい)ことは、何の弊害ももたらしません。福祉拡大への心理的抵抗をなくすにはいいことでしょう。伊藤隆敏さんたち相手に、スティグリッツさんもはっきり言っていますしね。せめてこのくらいは掲げるべきです。

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