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 04年12月22日 ウクライナとイラクの新国家システムは失敗か


 
 
 【ウクライナの新大統領制】
 ウクライナでは、この間の事態収拾のために、大統領権限を縮小する憲法改正がなされた。新しいシステムは、基本的にフランスの制度と同じもので、大統領が首相を任命するが、それは議会の承認を必要とし、議会は閣僚を不信任することができることになっている。大統領主導の政治体制から議会主導の政治体制へ転換すること自体は、望ましいことである。
 しかし、このシステムは、フランスでも幾度かの紛争を経て、ようやく事実上の議院内閣制として定着しつつあるものである。フランスでは、深刻な地域間対立がなく、しかも二回投票システムを通じて諸政党が左右両極分解しているために、議会選挙が保革の政策方針の選択に直結し、議院内閣制が機能しやすい。

【新大統領制の問題点】
 しかし、ウクライナでは、今回の政変の進展を通じて、東西の地域間対立が深刻化している。この場合、地域利害代表政党が議会の多数となったならば、人口に優る側の地域代表が政府を独占してしまったり、逆に無理な地域政党間の連立によって議会選挙が政策方針の選択と無関係になったりする。
 このような中で、フランス型大統領制を導入するとどのような危険があるのだろうか。同制度の特徴は、議会多数派と大統領の両方が認めないと首相が決まらず、しかも議会半数の支持を失うと政府がつぶれることにある。このような制度のもとで、深刻に対立しあう東西の地域政党と、その両者ともとイデオロギー的に距離がある共産党が議会で鼎立することになった場合、政府が決まらない事態が起こりうる。これによって政治麻痺が起これば、国防相任命権限を持つ大統領には、武力によって危機を打開する誘因が出てくる。
 したがって、まずもって大統領と議会の権限関係については、以前「公選大統領制と議院内閣制の理想的な組み合わせ方 」で提案したアイデアに基づくべきである。すなわち、議会が過半数の支持で指名する者があれば大統領はその者を無条件で首相にしなければならないが、議会は後任首相の指名なく現内閣を不信任できないため、議会が過半数の支持で指名する者がなければ大統領が任意に任命した首相が通用し続ける仕組みである。

【地域間分断を防ぐ仕組みが必要】
 しかし、それだけではなく、地域利害代表政党によって政治が政策無関係に分断されてしまうことを防ぐ仕組みが必要である。
 この仕組みもまた、以前「多民族国家用議会選挙方法案 」で提案したことがあった。
 しかしこのときのアイデアは、諸民族の混住を前提にして、民族横断的な政党制が実現するようにするためのアイデアであった。そのために、少し手間がかかる工夫をしている。
 ウクライナの場合、混住ではなく、地域がはっきりとわかれている。しかもその地域が二大地域にわかれていて、地域数が少ない。このような場合、もっと簡単な工夫によって、地域横断的な政策政党制を実現する仕組みが考えられる。下では、それを提案してみよう。

【イラクの国民議会選挙制度の危険性】
 実は、この問題は、目下問題のイラクの暫定国民議会制度についてもあてはまる。
 イラクの国民議会は、全国一区の比例代表制で選ばれることになったが、シーア派諸勢力はシーア派諸勢力どうし、クルド人政党はクルド人政党どうしで共同名簿を作ったとのことである。選挙区に分けずに全国一区比例代表制にしたのは、議会を地域代表に分裂させないための浅知恵だったのだろうが、結局結果は同じである。いやもっと悪い。シーア派の人はシーア派名簿以外、クルド人はクルド人名簿以外、実質的には入れるところがなくなる。政策など全く関係なく、シーア派は何%、スンニ派は何%、クルド人は何%居住していますということを示しただけの選挙結果に終わるだろう。こんなこととの結果で、多数派が政府を独占すれば国が分裂するし、無理矢理連立させれば政策選択に民意が問われる機会がなくなる。
 イラクの場合も、北部、中部、南部で、クルド人、スンニ派、シーア派の居住地域がほぼ分かれているので、事態の本質はウクライナの場合と同じである。クルド人、スンニ派、シーア派で国が分裂することなく、政策でわかれた政党が民主的に民意を競うシステムを考えればよい。
 同じシステムは、キプロス、北アイルランド、スリランカ等にも応用可能だろう。

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二大地域連合国家の連邦制度案

対象:規模の格差があまり大きくない、二ないし三の、互いに性質の異なる地域からなる国家。ここでは、A、Bの二大地域があるとする。相互の混住はあまり進んでいないものとする。

目的:地域代表に政治が分断されることを防ぎ、地域を超えた政策をめぐって民主主義的な政治選択がなされるような政治制度を示す。

大統領:
1. 自由立候補の候補者に対して単記秘密投票を行い、A、Bの各地域ごとに集計する。
2. 各候補者は、A、B両地域における自己の得票率のうち、少ない方に比例する表決権を得て、大統領評議会に参加する。
3. 大統領評議会で表決権総数の過半数の支持を得て互選された候補者がいた場合、その者を大統領とする。
4. 3.の該当者がなかった場合、大統領選挙に立候補した者以外の者で、大統領評議会における表決権総数の3分の2以上の支持を得た者があれば、その者を大統領とする。
5. 選挙後10日を経ても4.の該当者がなかった場合、最初の大統領評議会の互選投票において、得票の累計が過半数に達する者までを、全員一致の意志決定に基づいて集団的に大統領の職務を果たす者とする。その筆頭者は協議に基づき輪番する。

議会と内閣:
1. 議会選挙は政党名簿に対する投票による。A、B各地域を選挙区とするが、立候補した政党はいずれの地域でも名簿を立てなければならない。
2. 選挙後、各政党はまず、A、B両地域における自己の得票率のうち少ない方を、総議席数に乗じて端数を切り捨てた議席を得る。
3. 2.で得た議席数に比例して、残余の議席を各政党に分配する。(地域的に支持の片寄った政党を消す工夫)
4. 各政党の議員は、A、B各選挙区の名簿から交互に埋める。
5. 原則として議会が内閣を組織する。詳細は「公選大統領制と議院内閣制の理想的な組み合わせ方 」に準ずる。
6. 議員の任期は5年とするが、選挙後、2.の段階での決定議席数の総議席数に対する比を5年に乗じて端数を切り上げた年数を経たならば、大統領はいつでも議会を解散できる。(政党がみな互いに地域的に片寄った主張をしたならば解散されやすくなるので、地域的に片寄った主張は控えるようになる)
7. 大統領が必要と認めた場合、議会の議決における投票は、各政党ごとに一括して行われる。(互いに相容れない地域政党が、議席配分のために形だけ合同して立候補することを防ぐ工夫)
 

A Fedaration System for the Dual Union State

For what kind of states:
This devise is a system for a state which consists of two or three regional entities which are different in properties each other.
ex.) Ukraine(East and West), Cypros(North and South), Northern Irland(Cathoric and Protestant), Iraq(Shiah, Sunni, Kurd)

The aim of this system:
This devise attempts to prevent political devision between regional entities, warranting the democratic competition about trans-regional issues.

Let there be two regional entities; A and B.

The President:
1) Vote for one person among free standing candidates at the popular election. The votes shall be counted for each entity A and B.
2) Each candidate has votes at the Presidium proportional to the fewer rate of votes obtained, between that at A and that at B.
3) If one candidate gets the majority votes at the Presidium, the person shall be the President.
4) If no one can be elected by 3), then search a person other than the candidates of the popular election, who can get 2/3 or more votes at the Presidium. If found, that person shall be the President.
5) If no one who fits 4) can be found for 10 days after the popular election, then the candidates whose cummulative votes obtained at 3) reach majority of the total votes of the Presidium shall be the Co-President, who serve as President collectively based on unanimous agreement.

The Parliament
1) Vote for one party list among free standing parties at the general election. Any party must submit lists at both entities A and B, which shall be the election districts.
2) A party gets seats proportional to the fewer rate of votes obtained, between that at A and that at B. The fractions below 1 seat shall be rouded off.
3) The rest seats shall be distributed in proportion to the seats obtained at 2). (This is the devise that erases the local biased parties.)
4) The seats of each party shall be filled up alternately from the list at A and the list at B.
5) In principle, the Parliament organizes the Cabinet. For details, see here
6) The term of the members of the Parliament shall be 5 years in principle. But the President can dissolve the Parliament after the years of 5 multiplied by the ratio of the seats decided at the step of 2) to the total seats (the fractions below 1 year shall be rounded up), from the general election. (By this devise, the parties will refrain from advocating the local biased assertions or the Parliament can be easily dissolved.)
7) If the President needs, the decision of the Parliament shall be voted in lump by each party. (By this devise, disguised union of the local biased parties can be prevented.)

参考→用語解説「選挙制度・議会制度
 

 

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