松尾匡のページ

13年5月6日 共産党支持者の4割が内閣支持とかTENGA賞残念とか



※追記:下記、「共産党支持者の40.2%が安倍内閣支持」との調査結果が裏がとれていない件ですが、「はてなブックマーク」でid:hatesauyouyoさんからご教示いただきました。ありがとうございます。こちらに報道記事があります。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130224/plc13022420170010-n1.htm
 民主党支持者も40.5%が安倍内閣支持なんですね。
 そういえば、安倍さんが、ネトウヨの嫌韓言動を批判する発言をしましたけど、まあ選挙戦術的に当然ですね。今や自民党にとって、民主党はライバルではなくて、主要な脅威はハシスト党です。そもそも対民主党では景気問題一本で勝てますし。そしたら、ハシスト党の言動を危ない極論と描き出して、それと比べたら我々は安心できるよとアピールするのが最適になります。民主党支持者からも「よりまし」で自民党に票が入るようにもっていくわけです。改憲反対政党は経済政策論を改めないと、このままでは「天下分け目」の今度の参議院選挙で、自民党圧勝を招いて壊滅するのは鉄の必然です。(5月12日)


 連休も終わりの日ですけど、みなさん新年度落ち着きましたか。特に新入社員のみなさんはどうですか。
 そういえば、こないだ卒業したゼミ生がひとり、N総研に入っているのだけど、どうしてるだろうか。いじめられてないかね。「デスノートに名前百回ぐらい書いてありましたよ」とかチクってないだろうな。全然私の思想に染まらなかったケシカラんやつなので、どうかいじめないで下さい。
 私の方はと言えば、4月8日のエッセーで、半年内地留学で長距離通勤しないでいるうちにお腹が出てきて、卒業式に穿いていく服がなくて、キャンパスの最寄り駅の前の西友で買ったという話を書きましたが、そのとき、授業用のスラックスも穿けなくなっているだろうからと、一本買っていたのですね。そのスラックスが半月もしないうちにブカブカになって、もう穿けなくなったという、すさまじき立命館生活であります。

 前年度の内地留学から持ち越した共同研究論文はやっと終息のめどが立ってきて、受け入れ教授だった巌佐先生も、今月中にはできるでしょうとのこと。本当にお世話をかけてしまってすみません。
 5月末から怒濤の月間ですからね。5月25日は関大さんでやる経済学史学会にちょっと顔出したあと、尼崎で午後から講演しないと。6月1日は、東京で経済理論学会の幹事会に出たあと、朝日カルチャーセンターで講演。6月8日は金沢で置塩研究会参加。6月15日、16日は立命館のわがキャンパスで応用経済学会大会なので実行委員だあ。6月22日、23日は富山大で日本経済学会大会。今回はコメンテーターを一つ頼まれています。片付けられるものは早めに片付けとかないといけませんねえ。あちこちから、いただきものの本もたくさんあるのですけど、なかなか読み進める暇がなくてすみません。

 というわけで、エッセー更新もままならない日々でしたけど、この先はもっとすごくなりそうだから、とりあえず今日のうちにやっておこう。
 職場の職員の人でこのエッセーを楽しみにしてくださっている人がいて、更新が滞ったらハッパをかけられるのですが、先日、替え歌の新作を作ったと言ったら、早くエッセーに書くようにと。でもそれがね。例の「天皇の世の中永遠に」の歌の替え歌で、母音が完全に一緒のお下劣な下ネタなの。歌っているときの口の形が同じだから観察されてもまずバレないという案配なんだけど、万が一ばれて処分されても味方も誰も助けてくれないだろうという内容。てなことを言ったら、やっぱり書かないのが正解だって。
 書いて、大きい車で乗り付けた怖い人が窓口にきても、そのままボクのところにまわすからって。そりゃいかんからやっぱり書かない。
 そういえば4月28日には、「主権回復の日」だとかで、安倍さんは陛下を呼びつけて延々一方的に自論を聞かせるという「不敬の極み」(笑)を働いたわけですが、そりゃ一言もしゃべらせないでしょうなあ。私の大好きな明仁さんは、こんなときには、安倍さんの都合の悪いことをお話しあそばされることは、これまでの経験からして目に見えてますから。


 前回のエッセーで何か書き漏らしていたような気がしていたのですが、思い出したら、それに先立って三國連太郎が亡くなったときに、その主演の『襤褸(らんる)の旗』の話をエッセーに書こうと思っていたのでした。
 『襤褸の旗』って、1974年のモノクロ映画で、足尾鉱毒と闘う田中正造を描いたものです。「襤褸」って「ムシロ」のことだそうで、要するに農民達の闘いの「ムシロ旗」のことね。幸徳秋水(中村敦夫演)とか青年荒畑寒村とかも出てくるのですが、オープニングの題字は、寒村本人の直筆だそうです。後年の釣りバカコンビの初共演だそうで、西田敏行さんも出てくるのですが、これが若いの。元気のいい農民活動家青年の役で、村娘と恋仲になることになってたりして。

 映画はいきなり「押し出し」の場面で始まります。鉱毒に苦しむ農民が銅山操業停止を求めて東京に誓願に行こうとする、その数1万2千。利根川で待ち構える武装警官の大部隊。農民がそれを突破せんと、じりじりと詰めより、とうとう権力による大弾圧が始まります。モノクロの大迫力であります。
 そしてその事件を受けた、三國扮する田中正造の国会演説のすごいこと。その弾劾する政府の有様は今も何も変わりません。
 クライマックスは谷中村の強制収容。家屋破壊の強制執行に来た役人の前で、田中正造が土を食って抵抗の意志を示すのですが、これはアドリブで三國は本当に土を食ったという「伝説」で有名です。この「伝説」の真偽には、ネット上でもいろんな説があるようですが。鬼気迫る演技に偽りはありません。

 今回ネットを調べてみて、この映画に関して一番おもしろかった文章はこれかな。
http://toriiyoshiki.blogspot.jp/2011/10/blog-post_23.html

 これ1988年にVHSのテープになっています。以前これが欲しくてアマゾンを見てみたら、そのとき中古が1万数千円していて、ちょっと高いかなと放置していたのでした。
 それが、去年『新しい左翼入門』を出すことになったもので、これが出たら、そのせいで1本、2本ぐらいは売れるかも。そしたら値が上がってしまうぞ。と、リフレ論のセオリー通りに、値が上がらないうちに買っておくという行動に出たのでした。
 まあそんな卑小な行動とはかけ離れた内容の映画ですけど。
 ちなみに今、アマゾンの中古では、7万5千円の値がついています。もちろん拙著の効果ではなくて、三國さんが亡くなった効果ですが。


 ところで、リフレファン(?)には旧聞のことでしょうけど、藤原書店の季刊学芸誌『環』の2013年春号に、拙稿が載りました。「経済再生は可能か」と題した特集の中の一つです。「本来左派側の政策のはずだったのに」という題で、内容はこれまで本エッセーコーナーでも書いてきたことで、新しいことはありません。いわゆるアベノミクスの「第一の矢」、現日銀の遂行するインフレ目標を掲げた大規模な金融緩和は、本来左派側の政策で、欧米では実際そうだという話です。

 そのほか、リフレ派論客せいぞろいで、みんな有益なのですが、一番印象に残ったのは実は若田部昌澄さんへのインタビュー記事で出てきた一言。2月23日、24日の共同通信調査によれば、共産党支持者の40.2%が安倍さんを支持しているということです。
 まだ裏がとれてないのですけどね、これ、本当だとしたらすごいことです。共産党支持者が安倍内閣を支持するなど、景気以外理由がないじゃないですか。改憲を恐れ、安倍内閣の右傾化志向が嫌いな人々一般に広げれば、この傾向はもっと大きいのでしょう。
 ということはですね、今でも、96条改憲は世論調査では反対の方が多いのですから、改憲阻止したい勢力は、黒田日銀与党を名乗って景気拡大を唱えれば、今度の参議院選挙で三分の一確保はそんなに難しくないということです。それをしないということは、戦後民主主義体制が守れるかどうかというこの大事な時に、わざわざ支持が伸びないようなハンデを自分につけていることになります。
 何度も言いますが、これまでの不況で明日、あさっての暮らしも危うかった多くの人々が、今、やっと一息つけて、明日の光明を見いだせるようになっているのです。「憲法かメシか」と問われれば「憲法よりメシ」となるのは物理法則みたいなものです。あとで国民投票で反対すればいいやと思えばなおさら自民党に入れる人は多いでしょう。景気と改憲をセットにさせてはならないのです。

 左派、中道リベラルの群小各党は、結局、共同名簿党の呼びかけもむなしく、それぞれ独自選挙に走り出しているようです。それだったらいっそのこともう、「改憲反対/景気拡大」を唱える新党の出現に期待した方がいいのかもしれません。どうせ革新新党なんて一議席も取れない泡沫に終わると思っていましたけど、共産党支持者の4割が安倍さん支持ならば、「改憲反対/景気拡大」でいけば議席はとれるのではないか。とれるどころか、自民党に流れかねなかった票を集めて結構いくかもしれないという気もします。

 本号は、リフレ派じゃない側も大物なのですが、その中で榊原英資さん。「アベノミクスをどう見るか」という小論なのですが、副題が「「構造的デフレ」の視点から」と、香り豊かです。
 それが、「どうした世界の榊原」って感じの議論なんですね。デフレの主因は東アジアの経済統合だと言うのです。物価が収斂するのだと。だから2%のインフレ目標実現は極めて困難と言うのですが、ちょっと待った。物価の絶対水準が、中国などの方が低いから、引きずられて低くなるというのであれば、それは為替レートがそんなふうになっているせいです。金融緩和が十分進めば円安になって国内物価が下がらなくても「収斂」できます。で、本当におっしゃる通り「収斂」するのであれば、あとは外と同じ率で物価は変動する理屈になるはずです。中国にしろ、どこにしろ、まわりは2%以上のインフレが普通の国ばかりなのですが…。
 「東アジアの経済統合」と言いながら、東アジアの国をここで持ち出すと議論に不利になると思ったのか、榊原さん、唐突にここで話をグローバル化一般にずらします。「グローバリゼーションが進んでいる中で、一国の金融政策だけで物価を押し上げることはなかなか難しい」として、主要先進国のインフレ率の折れ線グラフをあげます。それで、各国のインフレ率が軒並み低下トレンドにあることを見せて、2%インフレが困難という論拠にしているのですが、それ…日本以外みんな今1.5〜2%台ぐらいなんですけど。

 あと、西部邁さんの「インディカティブ・ポリシーへ向けて」という小文がなかなか鋭い。「ナチ」とか「ファッショ」とかの、またも香り豊かな「釣り」のワードは無視して、議論の骨子を言えば、インフレ目標政策は「目安」(インディケーション)を与える政策だということです。市場の不確実性の中にいる民間人たちに、確実に予想できる目安を与えるものだと。
 その通りです。去年の2月20日のエッセーに書いたとおりです。その中で書いたように、これは、ハイエクが自由主義国家でも必要とみなした、民法、度量衡、労働基準などの政策と同類のものとみなせるのです。
 問題は、さすがハイエクを保守主義的に誤読するだけあって、ここでも、インフレ目標政策を、どうやら国民共同体の共通善のような国家的なものととらえて、イノベーションのような不確実性を増やす市場主義的な志向と対極にあって相容れないものとみなしているようです。
 ハイエクの「国家」である、民法、度量衡、労働基準などが、不定形で出入り可能な市場取引の場とともに、それを支える枠組みとして形成されるものであることから当然に、それらは民族国家の枠にとどまるものではありません。取引の枠組みが民族国家を超えて広がったならば、それに合わせて、従来の民族国家を超えたスケールで形成されるものなのです。現にEUではそうなっています。同様に、インフレ目標政策もまた、元来、経済の一体化が民族国家の枠組みを超えて広がったならば、それに合わせていかざるを得ないものです。日本が今回2%の目標を掲げたのも、アメリカが2%を掲げる以上は、それより低い目標を掲げることは長期的に円高が進むことを公的に認めることになるからです。
 一国がメンバーの確定した共同体として依存関係を完結できれば、「目安」ではなくて、西部さんの言うところの「イムペラティブ」、つまり「命令」で世の中を動かすことができます。しかし、グローバルな取引が広がって、メンバーも不確定で不確実性が増すならば、「命令」では、意図しない結果に責任がとりきらなくなるので、政府は「目安」に徹し、民間人は不確実なイノベーションなどに従事することになります。つまり、「目安」の政策と、民間人の不確実な市場行動は、共に同時にでてくる互いに補い合う関係なのであって、西部さんの考えるように相容れない対極ではないのです。


 話は変わりますが、こないだまでの内地留学先だった九州大学の数理生物学研究室では、准教授の岩見真吾さんが疫学の数理モデル分析をされています。
 そこで、留学して間もなく、私の調べてきた、性感染症と女性失業率の相関の話をしたら、大変おもしろがってくれて意気投合し、共同研究して「第13回リバネス研究費TENGA賞」に応募しようという話になりました。それで、岩見さんがフランス留学中に、同じくフランスに留学していた、立命館の同僚で大学院の後輩筋の大野隆と偶然親しくなっていたので、彼を「警察庁への電凸要員」として巻き込むことにして、三人で共同研究体制を組んで本当に応募したのです。
 いやあ、本当に当たったら、論文の謝辞に「テンガさんありがとう」の文章を書くのか、副賞にもらえるテンガ商品3万円詰め合わせはどう分配するのかと、検討事項が次々と思い浮かんだのですけど。

 この研究計画書を岩見さんが作ったのですが、これは「取りに」いっているぞというスゴいものになりました。その結論部で、とってつけたように、「アダルトグッズが性感染症予防に与える効果」を研究するという項目が。
 それってテンガさんに媚びてるだけだろうと思ったら、案の定なんにも考えてなかった。
 そしたら、内地留学がまだ始まって間もない昨秋に、立命館に出張して三人で打ち合わせをしたら、本題はそこそこに、この話ばかりでどんどん盛り上がっていくこと!
 テンガ商品を装着した抱き枕とか、「下半身ドール」みたいなものと、ipadの大きいヤツを組み合わせて、ベッドに持ち込んで使うことにすれば、肩から上を映せばいいので、AV女優でなくても一般女優でいい。相当グレードの高い女優でも使える。それで一般化すれば、経済的に困った女性は、自宅に居ながらにして、主に肩から上を写すだけで、性感染症など一切なく小金をかせぐことができるようになる…ってボクがアイデアを披露したら、次々とアイデアがわき出して大盛り上がり。とてもここでは書くことができない妄想案のオンパレードになりました。

 数理生物学研究室の院生に上がる予定の学部生にちょうどいいのがいるので、共同研究に巻き込もうと岩見さんが言ってきたのですが、その学生はなぜか僧侶!…得度しているそうです。
 そりゃあ是非今度から打ち合わせの場にきてもらわなければ。そして、我々三人のそばに警策を持って立っててもらって、話があらぬ方向にいったら「喝!」とかやってもらうの。

 と、楽しみな企画でしたけど、ずいぶん審査に時間がかかり、結局岩見さんが最終面接まで行ったものの、先日、不採用の通知がきたのでした。残念。

 いや、研究の本体自体はいたって真面目でしたよ。疫学モデルに失業の効果を組み込んで、性感染症のキャリア数の動きをできるだけ正確に予想するモデルを作るという計画。おまけに、セックスワーカーへの偏見を解消し、性感染症への正しい知識を啓発するための一般向けのオムニバス講演のシリーズを企画するという。
 共同研究自体は、研究費にかかわらずやっていくつもりではあります。


 ところで、反原発アイドルの藤波心ちゃんが、3月に入ってブログ更新していたのですけど、3月29日のエントリーが
福島原発事故と東北・蝦夷・アテルイ

 新国立劇場の舞台で、蝦夷の英雄アテルイを演っているという話ですが、その話の前に、3.11の集会の話があって、そこで坂本龍一さんの話がでてきます。坂本さんは次のように言ったそうです。

たとえば、お金を使わないで貯めておくと日々、
価値が落ちていくシステムとか
良い悪いは別としてそういうやり方も面白いのではないか。
そうなれば人々は価値が落ちる前にお金を使いきろうとするから、
お金がぐるぐる社会を循環して、ある特定の場所に澱み溜まりすぎて
不健全な状態にならないで済むのではないか??
とかいうお話をされていて、すごく興味が持てました。

 これって、リフレ論が言ってきたインフレ目標政策が目指すものそのものではないですか。この理屈に共感するならば、心ちゃんもリフレ派になれるかも。まさにJKリフレ


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