松尾匡のページ

13年5月18日 立命館大学「経済科学研究会」で講演しました



 立命館大学ってたら、ああた。私が学生の頃などは、「赤旗の歌」の曲にのせて、「民衆の大学立命は、安くて教授が赤い」って替え歌が全国鳴り響いてましたけど。ちなみに歌詞のこの先は、「D志社は高すぎる、S大は右すぎる」(笑)。
 それが、いつの間にかまるっきり安くも赤くもなくなって、小泉改革を先取りして突っ走り、あんまり自民党政権べったりで小沢さんに目をつけられてたために、民主党政権が出来たとき総長が文部科学大臣に会わせてもらえなかったという噂が流れるほど(真偽不明)。
 特に、私達のいる滋賀県の草津キャンパスなんかは、学生運動もすっかり消えて、学生自治組織がないと当局側が学生管理上困るので、手取り足取り維持している状態です。

 そんな我がキャンパスに、往年の資本論読みサークルであった「経済科学研究会」が残っていただけでも驚きというのに、このご時世で十数人のメンバーを維持していたから感心します。まあどこまでイデオロギー色が残っているかはかなり疑問ですけど──薄れていても悪いこととは思わないけどね。

 その学生たちから「アベノミクスについて講演しろ」との話がきました。だいたいこのテーマで、よりによって私にしゃべらせるわけですから、やっぱり党派の指導なんかすっかりなくなっているなこりゃ。
 ちなみに立命館大学経済学部というのは、マクロ経済学のコア講義は、「IS−LMはもう古い」との認識のもと、新古典派の成長論中心にやっていて、他方でマル経の方は『資本論』ベースだから、どっちも経済全体の需給不一致が原理的にあり得ないモデルです(「セイ法則」モデルと言います)。総需要不足で不況のときに、どんなマクロ経済政策をとればいいのかみたいなことを、ちゃんと理論をふまえてやる講義はないのです。「アベノミクス」とか興味ある学生はたくさんいると思うけど、ちゃんと理論的に解説する授業がない状態。結局ボクに聞くしかなかったかな。

 わざわざ拙著『不況は人災です!』を予習してきてくれた人も何人かいて恐縮の限りです。質問も活発にしてもらって、ウケたみたいだし、みんな納得していただいたように思いました。

 使ったパワーポイントのスライドをもらえないかと言われたのですけど、実は前夜3時までかけて作ったのですけど、やっつけ仕事で、かなりあちこちのウェブからとってきた画像とかあって、著作権的には相当微妙かも。しかもかなり重くなったし。ここで教えますのでこれで許してね。
 パワーポイントで見せたグラフなどは、基本的には、『不況は人災です!』に載っているものなので、次の同書の補足ブログをご覧下さい。そこに、同書のグラフは基本的に載っているうえ、同書では掲載しなかったけど本文中で言及しているグラフもすべて載せてあります。同書で使ったデータのダウンロード先へのリンクも漏れなくついています。
http://d.hatena.ne.jp/desert_boat/

 出版後、新たに作ったグラフなどで、パワーポイントでお見せしたものは、だいたい本サイトのエッセーで載せたものですので、次のリンク先をご覧下さい。

栄養摂取量の推移。エネルギー節約率と設備投資増加率の推移。

中央銀行総裁と景気。悪性インフレにならないことのピストンのイラストによる比喩。
この、中央銀行総裁と景気の関連のグラフは、景気の指標として求人倍率を使っていますが、講演では業況DIを使いましたので、改めてそちらのグラフをお見せしておきます。こっちの方が見易いかもしれないと思いました。
業況DI推移と日銀総裁

 リーマンショック後のスウェーデンの大規模な金融緩和と、それを追って実現したデフレ脱却についてのグラフは、こちらをご覧下さい。
新聞が書かない「経済成長がなければ増税しても税収は増えない」という基本的事実

 それと今回新たに作ったグラフもありましたので、ここに掲載しておきましょう。
 日本銀行が「量的緩和」の導入以降、マネタリーベース(中央銀行が発行したおカネの累計)がどんどんと増え続けていることをもって、黒田緩和で将来「ハイパーインフレ」が起こるとする根拠にしている人がいるようです。もちろん実際には全然理由のない話です。
 実は、戦前のアメリカでは、1932年に量的緩和が導入されてから1945年までの13年間に、マネタリーベースを5倍近くに増やしています(金本位制停止は33年です)。日本のケースを、量的緩和開始の2001年を起点にとって、出発点を100にそろえて並べると、最初の方こそ今世紀日本の方が少々上回りますが、やがて戦前アメリカに全然及ばなくなり、今後黒田日銀の「二年で二倍」が実現されても、結局初期値の4倍にも至りません。
量的緩和導入後のマネタリーベース比較(戦前米・今世紀日)

 では、戦前アメリカで悪性のインフレが起きたかと言えば、全然そんなことはなかったです。それが次に見せたグラフなのですが、こんなのです。
大不況期アメリカのマネタリーベースと物価

 物価のグラフの波形は、数年ズレてマネタリーベースの波形を追っているので、上昇させる影響を与えているのは間違いないのですけど、結局落ち着いたあとでも1/3ぐらいしか増えていませんね。もちろんこのかん、最初は低迷したGDPも増えています。

 なお、講演スライドで使った、最近のブレーク・イーブン・インフレ率(人々のインフレ予想)のグラフは、このページのものを使いました。
ピクテ投信投資顧問株式会社サイトより:「期待インフレ率」に期待
これは、3月5日までのものです。前までは、Bloombergさんのサイトにいいグラフがあったのに、いつの間にか見られなくなってしまっています。どこかに更新の早いいいのがないですかね。

 さて今度は、5月25日に、「大阪哲学学校」でアベノミクス関連講演を頼まれています。詳しくはリンク先をご覧下さい。最近ちょくちょくこの関連の講演が舞い込むようになってきましたけど、今の所、どこでも「つるし上げ」にはならずに、ご納得いただいている雰囲気がありますが、さて今度はどうなるか。(引き続きドラエモンのご加護をお祈りします。)


「エッセー」目次へ

ホームページへもどる