松尾匡のページ

17年6月22日 またまたレジュメ労働ムダムダ事件



【イギリス総選挙労働党躍進関連】
 まず、前回のエッセー以後の、拙サイトトップページのお知らせを収録しておきます。

***********
 イギリス総選挙は「惜しかったなあ、よくがんばった」ですんだけど、フランス議会選挙は、マクロン派圧勝とかクソなニュースに「嘘でしょ」という感じ。フランス研究者の掘茂樹さんによれば、投票率がフランスでは異例の過半数割れだったそうで、政治不信の結果とか。日本で勘違いしたお手本にする人が出ませんように。(17年6月12日)

 下記cargoさんの和訳の後半も公表されました。それだけでなくて、本日英国総選挙投票ですが、コービンさんの街頭演説も和訳されていました。感動です!! 日本でも、こんなふうに言ったら、絶対に安倍さんに勝てるのに。「奇跡よ起これ! がんばれコービン!」とありますが、全く同感。ちなみに「俺達の太郎」の「かっこいい」演説リンクもついています。(17年6月8日)

 カナダの現代貨幣理論(MMT)の論客、ブライアン・ロマンチャックさんが書いた、政府と中央銀行の連結論(日本ではしばしば「統合政府論」と呼ばれる)についてのわかりやすい論説を見つけましたので、「ひとびとの経済政策研究会」のメンバーで翻訳して、同会のブログにアップしました
 ところで、昨日のエッセーで紹介した、ブレイディみかこさんが感涙を流したコービンさんのライブインタビュー動画ですが、cargoさんが和訳して4日づけで公表されています。(前半だけですが後半も出るそうです。)(17年6月6日)
***********

 イギリス総選挙については、例によってブレイディみかこさんがその後、熱いレポートを書いてくれています。
Yahoo!ニュース 2017英国総選挙:コービン労働党が奇跡の猛追。「21世紀の左派のマニフェスト」とは?
Yahoo!ニュース 2017英総選挙:コービン労働党まさかの躍進。その背後には地べたの人々の運動
UK地べた外電 第5回 若者たちはなぜコービンを選んだのか:英総選挙と借金問題
 どうしたら安倍さんに勝てるか真剣に知りたい人は必ず読むべし。今大衆から何が望まれているかがよくわかります。イギリスも日本も同じです。文中の「ポリー・トインビーの分析」に出てくる「例の言い方」に従えば―――「そう、経済なんですよ、バーカ」(笑)。
 そぉーです。大事なのは「ブレッド&バター・イシュー」(パンとバターの問題)。ブレイディさんのおっしゃるとおり、つまりは「下部構造」なんです!

 ブレイディさんの晶文社サイトの記事では、とりわけ若者がコービンを選んだことが指摘されていましたが、この件について、下記リンク先の室橋祐貴さんの記事では、カラフルなグラフで年代別投票分析がされています。
Yahoo!ニュース 若者が動かしたイギリス総選挙。コービンが選ばれた理由と日本への示唆
 見事な結果です。若い世代ほど労働党に投票しています。18歳・19歳では、保守党19%に対して労働党66%と、圧勝じゃないですか。EU離脱投票は若い世代ほど残留派だったのですが、そっちは若い世代は投票率は低かったそうです。それと比べると、今回の総選挙は、若者の投票率が大きく伸びています。
 そしてその理由はやっぱり、保守党の緊縮のマニフェストが嫌われて、労働党の反緊縮のマニフェストがウケたということです。

 室橋さんの記事の最後のところでも指摘がありますが、この世代別の投票先の分布、日本の場合とくっきりと対照的になっています。例えばここ(ネトウヨブログにつき閲覧注意)に6月19日の読売新聞朝刊に載っていたグラフが出ています。このグラフは、先月と比べて内閣支持率が12%ポイント下がったとする記事と並んで報道されたものです。世代が若くなるほど内閣支持率が高く、さすがの読売報道にして全体の内閣支持率が50%を割った中で、18歳から20歳台の若者の内閣支持率はなお6割を超えています。
 これ、上の室橋さんのリンク先と、グラフを見比べてほしいのですが、ちょうど労働党の得票率と安倍内閣の支持率が入れ替わったような、ほとんど同じ形をしていますね。

 これは何も不思議なことではありません。イギリスと日本で落下の法則が違うことはないのと同じで、若者が「ブレッド&バター・イシュー」に敏感ということは地球のどこでも変わるはずがないのです。室橋さんが指摘なさっているとおり、日本では残念ながら野党の方が緊縮的イメージをぬぐえていないということです。特に就職は人生の一大事ですので、就職率が高まってやっと安堵している中で、また就職氷河期みたいなのに戻ることに怯えて、政権を変えるリスクを負いたくないという気持ちになるのは自然法則みたいなものです。

 6月11日のサンデーモーニングでは、18歳から20歳台の内閣支持率が68%もあることが示されて、就職率が上がってよかった等々という街の若者の声が紹介されたのですが、それに対してスタジオに居並ぶ年配リベラル論客の面々が、上から目線の批判を口々に浴びせて、ネットで若者たちの怒りをかっています。詳しくはこちら(ひどいヘイト丸出しのネトウヨブログにつき閲覧注意)。こんなことするから、ますます若者を右に追いやるのに…。

 実は、上のトップページの再録文でもあげたcargoさんというハンドル名のかたからのメールで教えてもらったのですが、労働党の今回のマニフェストは、五月半ばに草稿段階でリークされて世に知られたものだそうです。このリーク報道なのですが、「労働党のマニフェストはこんなに社会主義的なとんでもないド左翼のしろものだ」というバッシングのつもりでやっているように見えます。それが、この報道者の意に反して、かえって大人気を博して労働党の支持率が急上昇したという顛末だったようです。
 今回保守党は、コービンの個人攻撃をする動画を、あちこちにバンバンあげていたのですけど、私は英語が不自由だから何言っているのかさっぱり聞き取れないので、コービン宣伝動画にしか見えませんでした。どうやらトライデント核ミサイル反対の発言など、ゴリゴリ左翼の発言を集めたものらしいです。こんなのを流したら有権者はドン引きするだろうという思惑だったのだろうと思いますが、実際にはそんなことはなかった、特に若者には全然マイナスにはなっていなかったということですね。
 もう一度言いますが、イギリスと日本で落下の法則が違うことはないのと同じで、現代の資本主義経済のもとでは若者だろうが何だろうが同じ条件におかれた人々の意識が本質的に違うはずがありません。はい声に出して読んで〜、「存在は意識を規定する。」忘れてましたか。
 日本の若者はネットに洗脳されて右翼になってしまっていると言って見下したり、そんな彼らから票を得るためには左翼色を薄めなければならないと思って、大企業や大金持ちに対してものわかりのいいスマートな姿勢をして見せたりすると、ますます若者の支持は離れていくでしょう。

 昔、若い年代ほど自民党の支持率が低く、社会党や共産党の支持率が高かった時代の若者は、今よりも賢かったのでしょうか。時代が下るほどバカになるのでしょうか。そんなはずはない。
 昔は労働組合のリーダーの言う通りに組合運動をしたら、実際に賃金がバンバン上がって恩恵を受けた。だからリーダーたちが信頼されて、彼らの語る政治が一般組合員の心をとらえたのではないですか。団塊の先輩方が学生の頃は、高度経済成長の絶頂期で、戦後一番失業率が低かった時代です。景気が悪くなってみんなが就職に困る可能性に怯えたことなんかなかったはずです。何をやっても就職できたからこそ、思う存分暴れることができたのではないですか。
 ナショナリズムを食って腹が膨れるはずがないのだから、「階級」の利益に訴え、雇用の不安やケアの不足に応えた政策を打ち出すならば、若者だろうが年配だろうが、こっち側の方がウケないはずはないです。本気で安倍さんに勝ちたいならば、そこらへんをよく考えてください。


【宮崎哲弥ラジオにたろさと出演】
 そういえば、6月13日には、ニッポン放送の宮崎哲弥さんの「ザ・ボイスそこまで言うか」に生放送出演して、山本太郎さん飯田アナウンサーと四人でトークしてきました。cargoさんもブログでとりあげてくださっていますので、いくつかの発言の要約についてはリンク先をご覧ください(同じような声で発言が錯綜していて、これは私が言ったっけという感じのもあるけど、まあそのとおりだと思っているのでいいです)。音声はユーチューブなどでたくさん上がっていますので、興味があったら検索して聞いてみて下さい。
 この番組の冒頭で宮崎さんが、最近出た本を激賞しています。北田暁大さん、栗原裕一郎さん、後藤和智さんの鼎談本で、『現代ニッポン論壇事情』ってのですけどね。あんまり誉めるものだから、すぐ買ってざっと目を通したのですけど、いやはや。次から次と人様を滅多斬りにしている本じゃないですか。こんな中で私の名前が、たびたび肯定的文脈で出てくるもんだから、夜道が歩けなくなるんじゃないかと怖いです。あ〜私はこの本の企画とはホント何の関係もありませんからね。
 この本の中で、何を隠そう不肖私が、リベラル系超々々大物論客の面々から大変嫌われていたということがわかりました。俺スゲ〜。何のことか気になる人は現物を読んでみてね。まあ、長期不況でひどい目にあってきた人々に思いが至らず、あっけらかんと経済停滞時代を肯定する自称リベラルがいかに多いかということがよくわかりましたわ。

 この本ができた動機は、北田さんが内田樹さんの発言に怒ったことだそうですが、その発言というのは、シールズに見られる今の若者の動きには媚びつつ、ロスジェネ世代を斬って捨てるものでした。まあ、今の若者だって、上で見たように安倍内閣支持率6割超えというのがその後の現実で、シールズだけ見て世代代表のようにみなすのは幻想もいいとこだとは思いますが、それにしてもロスジェネ世代を切り捨てるのはたしかにひどい。
 就職氷河期で就職できないのも自己責任扱いされて、人生をかけて必死に資本に取り入る青春を送ってきたんですよ。そうするように強いられてきた。でもたくさんの人が就職できないで、不安定な雇用で歳を重ねてきているのです。

 番組では、宮崎さんがこの世代のいわゆる中高年フリーターなどの問題について、まっとうな正規の職で働けるリミットが近づいていることについて警鐘をならしていました。放置すれば、生活保護に頼らざるを得ない人々や、保険でカバーできないまま病気になる人々が急増するでしょう。山本太郎さんもこの問題について大変に食いつきがよく、危機感を持って政治の責任ととらえていらっしゃいました。
 太郎さんはそのほかにも、奨学金や子育て支援の充実、若者向け公的住宅の供給、貧困層への所得支援を訴え、宮崎さんは「すばらしい!」として、「自由党の経済政策はあなたが担え」とおっしゃっていました。

 太郎さんは、直前まで国会で質問の予定で、最初は間に合うかどうかみんなハラハラしていたのですが、委員長の解任動議が出たか何かでいきなり審議が止まってしまって、出番がないまま無事番組に出ることができました。本人にとっては残念だったところでしょうけど。
 番組途中で出番が終わってからは、すぐに小沢さんとの共同記者会見で、本当に忙しいスケジュールの中、お疲れ様でした。
 その後何日もたたないで共謀罪法は無理矢理に採決を迎え、牛歩の投票で「恥を知れ!」と叫んだ勇姿は、「たろさカックイー」だ。

 そういえば、ラジオ出演に数日先立つ週末10日午後2時頃、京都の街中でカフェで仕事をしようとしてどこもいっぱいで、暑い中うろうろ難民化していたら、四条河原町の交差点で怪しい声が聞こえる―――と思ったら山本太郎さんの街宣でした。見つからないように端っこで聞いていたら、やっぱり見つかって、無茶振りでしゃべらされた。これもユーチューブ探したらあります。

 最近何かと山本太郎さんネタが多いですが、5月27日にご好評いただいた、山本太郎×ひとびとの経済政策研究会presents 「全てのひとびとのための経済学講座」、今度は7月8日に第2回を行います。前回予約が間に合わなくてお断りすることになったケースが予想以上に発生しましたので、今度はもう少し広い会場で行います。「ひとびとの経済政策研究会」ブログのお知らせエントリーに、予約フォームへのリンクがありますので、ご関心のある方は、そちらからご予約下さい。


【応用経済学会ガックリ話】
 さて、今回はこれを書きたくてエッセーを書きはじめたのだった。みんな大好き、読者のメシウマ、プチ受難話。
OΓ乙 OΓ乙

 6月17日、18日は、前任校の久留米大学で応用経済学会大会があったので、久々に家に帰りました。17日に、「推薦講演」をしろとご用命を受けたので、長らく多忙のため止まったままになっている出版企画の内容を「ザ・経済学に向けて」と題して発表することにしました。
 忙しすぎてパワポとか準備する暇はなさそうなので、事前に資料要請が来た時は参考論文のダウンロード先だけ伝えて、レジュメ本体はこっちでコピーして直接会場に持ち込む旨事務局にメールしたら、OKなので60部用意しろという返事がきました。
 それで、忙しい中合間を縫って手書きのレジュメを書き進め、当日、朝までレジュメ書いて、なんとか間に合ったぞ。そのレジュメを、大学の近所のコンビニで2ページをB4で1枚にして、計4枚を60部自腹でコピー。会場棟のロビーで一人でシコシコ仕分けして二つ折りにして完成させて、事務局の人にどうすればいいか尋ねたら、会場係がいるので講演教室に直接持ち込んで置いておけと言われました。
 それで、前のセッションの最後から二人目の途中でしたけど、教室の後ろの資料置き場に置かせてもらったのです。

 その後、いよいよ自分の出番になって、レジュメ原稿をOHPで大写ししながら推薦講演を無事終えた――――と思いきや!
 講演が全部終わったあとで、レジュメが全部、前のセッションの資料と判断されて回収されていて、誰も手にしていない中で講演していたと判明しました。チャンチャン♪
 あんまりもったいないので、レジュメをスキャンしたのを、本サイト「アカデミック小品」のコーナーにおいておきました。どうかご検討いただければ幸いです。

 今晩は、息子と京都市交響楽団の定期演奏会に行ってきました。小泉和裕さん指揮のベートーベン三昧で、レオノーレ序曲第3番と交響曲第2番と交響曲第7番。終始緊張感あふれる演奏で、しかもさすがにベートーベンばかりですから、お腹いっぱいで精神的に疲れ切っています。頭の中に演奏が鳴り響いて止まらない。スゴすぎです。
 明日、あさっては、立命館大学の経済学部のあるキャンパスで日本経済学会の大会で一応運営協力だから、朝早くから行かないと。来年はこのキャンパスに経済理論学会の大会を呼ぶことになって、実行委員長なんかやらされるのですけど、同僚が日本経済学会運営の仕事をテキパキ仕切っているのを見ると、自分にこんな仕事ができるとはとてもじゃないけど思えない。今からビビりまくっています。

 なお、「ひとびとの経済政策研究会」で行なっている、「インフレ上限までの政府支出拡大の余地の概算」の改訂作業ですが、現在最終校正の段階です。できあがったら本サイトトップページでもお知らせします。次は具体的な政府支出の中身や財源の付け方の検討に移る予定で、まず、イギリス労働党のマニフェスト付属資料を翻訳してみようと言っています。

「エッセー」目次へ

ホームページへもどる