松尾匡のページ

08年7月2日 安田洋祐先生に旧著をほめられて思い出す



 『「はだかの王様」の経済学』、その後、ウェブ上でいくつか好意的なご書評をいただいております。そのうち、コメント欄のあるものは、ここではちょっと迷惑をかけると恐くてリンクを貼れませんが、さしつかえなさそうなところでは、このようなのがあります。
出版社「南船北馬舎」さんのサイトの「近著探訪(8)」
 内田樹....。誰だ笑ったのは。いいじゃないか。私はほめてもらえてとてもうれしいぞっ!!
 あと、finalventさんの「極東ブログ」でも、詳しいご批評をいただいています。ありがとうございます。
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2008/07/post_4e7c.html
一応、コメントを書き込みましたが、補足しますと、師匠置塩は、「決定の所在」とか「情報処理能力」の問題をとてもクリティカルなものとみなしていました。その点で、あの本は師匠の思想の、ある面での自然な延長であると思っております。
 それから、富山大学の大坂先生からも、山形さんとのやりとりについて、コメントいただいています。私の考えていることについて、実に正確な解説をしてくれています。
http://d.hatena.ne.jp/osakaeco/20080701
まだ読んでないみたいだけど、これだけわかってるんなら読まなくてもいいわ。

 7月5日号『週刊ダイヤモンド』では、若田部昌澄先生から、とても的確なご書評をいただいています。ありがとうございます。
 それにしても、この号は、「使える!経済学」と題して、すごい特集が組まれていますね。旬の経済学者オールスター勢揃いって感じ。とても有用です。
 と思ったら、yyasudaさんこと、政策研究大学院大学の安田洋祐先生も出ているじゃないですか。ああなんだ、マッチングのメカニズムデザインの話なのですね。「合コンを必ず成功させちゃう」とか書いてあるから、そりゃ安田さんが出たらそれだけで女性側はキャーキャー言って盛り上がるから必ず成功するわなこのやろう、とか思わずフラレタリアートの階級的怒りの青春を思い出したけど。

 安田さんと言えば、ご自身のブログで『「はだかの王様」』本をご紹介下さいました。まだ読まれてはないみたいですが、ありがとうございます。
http://blog.livedoor.jp/yagena/archives/50479532.html
 それで、びっくりしたのは、もう十年近く前に書いた、私の『標準マクロ経済学』を学部時代にお読みいただいていたみたいで、お誉め下さっていることです。いやいや恐縮。
 だいたいあれ、誤植だらけで大変でした。二刷り段階でもまだかなり見逃した上、出版社との連絡ミスで、変えなくていいところを改悪するし。お恥ずかしい。

 それで、この『標準マクロ』に昔書いたことを思い出してしまったのです。
 うーむ。こんな話をするのは、こだわっているみたいで恥ずかしいのですが。
 あの本では第2章の補論で、当時1999年段階ではあまりマクロ教科書に取り上げた例がないと思うのですが、リフレによる不況対策について書いています。それも、山形浩生さんの訳したクルーグマンの本を紹介する形で切り出しています。そして、消費税の税率操作でも同じ効果が期待できることを論じています。実は、このことも、ほぼ同時期に山形さんは主張されていました(出版時点では知らなかったので、独立だったということでご理解下さい)。
 これを、無差別曲線を使って、将来財に比べて現在財の消費を有利にすることで、消費需要を喚起する政策として解説したわけです。
 そうですよ。これが我々の初心だったのです。クルーグマンの元論文もそうだった通り、私達が望んでいたのは、消費需要が増えることによる景気回復だったはずです。

 私は、以前書いたとおり、現実の景気回復はある意味でリフレ論の主張通りにもたらされたものだったと思っています。普通の国債と物価連動国債の利回りの差から類推されるとおり、市場参加者の予想インフレ率が、量的緩和政策などの結果、プラスに転じてさらに上昇したことが、実質利子率を低下させ、設備投資を拡大させた大きな要因の一つだと思っています。
 しかし、国債の利回り差に示されるインフレ予想など、まあ便利な言葉だから使いますけど、「ブルジョワ階級」の抱いている予想ですよ。ブルジョワ階級にとっては、実質利子率が低下したから、設備投資需要が拡大したかもしれない。だけど、一般大衆のほとんどは「量的緩和」が何かも知らないし、そんなものをやっていることも知らなかったでしょう。一般大衆にとっては、賃金は下がり続けると予想し続けて当然で、インフレ予想など起こり得なかった。本当に一般大衆にインフレ予想を持ってもらって、消費需要を興すためには、誰にでもわかるように「〜パーセントのインフレを実現します」と、日銀がはっきり約束する以外なかったでしょう。
 だから、こんな景気回復はおかしいと言うことが、裏切り者扱いされる筋合いはないと思うのですけど。まあ、山形さんにはメルマガでも拙著をご紹介いただいているようで、感謝しますが。

 ところで、このような消費喚起で、景気回復のために一番期待できるのが、(データ分類では個人消費には分類されませんけど)住宅投資です。それで最近思うんですけど、サブプライム危機を作った犯人扱いでグリーンスパン叩きが聞かれたりしますが、それはおかしいんじゃないかと思います。貧しい人がまともな家に住めるようになることは、何も悪いことじゃないはずです。アメリカには住宅金融公庫もなかったし、公的な住居政策が貧弱という制度上の問題があっただけだと思います。まあ、今後の日本の景気対策として論じる時には、この点で財投改革をどう評価すべきか私には勉強不足でよくわからないので何とも言えませんけど。


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