松尾匡のページ12年3月29日 日銀審議委員人事反対意見のメール文
※ 下記、河野龍太郎さんの日銀審議委員人事の件、4月5日参議院本会議で無事否決しました。社民党も共産党も糸数慶子さんも反対投票でした。ご協力いただいたみなさんに感謝します。反対投票した議員のかたもありがとうございました。「新党大地・真民主」の二名が賛成し、自民党から二人造反が出たので、あぶないところでした。舛添さんは反対だったけど、もともと「マネタリスト」(てことは金融政策有効論)を自称してたから他意はないな(笑)。
参議院各議員の投票結果 (4月6日追記)
※ 下記、河野龍太郎さんの日銀審議委員人事の件、公明党とみんなの党が反対を表明し、自民党も反対でまとまりつつあるそうで、あと一押しです。下記の、社民、共産向けのメール文で、河野さんの増税志向について触れましたが、具体的に「消費税」と書くのをおとしていました。また、BNPパリバが数々の不正の噂を重ねた上、サブプライム危機の総本山の一つだったことも、社共向けの説得材料としては書いておくべきだったと思います。これから社共系に働きかける人は、これらも話に含めておいたら効果的だと思います。よろしくお願いします。(3月30日22時20分追記)
21日に滋賀の職場の卒業式で、そのあと東京の明治大学で研究会、終末は福島でシンポジウム参加、26日晩に九州に帰宅という旅をしてきました。
2月11日のエッセーで書いた中国からの留学生のゼミ生は、無事大阪大学の研究生に合格。よかったね家族ビザにならなくて。学生結婚している彼女に生殺与奪権を握られる事態は避けられた。実態としてそれで私生活に何か違いがでるとは思えんが。
同時に書いた「バブル2世」も無事卒業できて、お母上に謝りにいかなくてよかった(笑)。拝謁できなくてちょっと残念かも。
明治大学のは「ポスト・ケインズ派経済学研究会」で、弟子の熊澤が、宇野恐慌論をモデル化したグニャグニャの非線形運動のシミュレーションを報告するもので、一応立ち会いに行きました。そしたら、早稲田の藤森御大からオンラインジャーナルを作るから協力せよと声をかけられました。事務仕事は一切しませんから、査読だけならって答えましたけど、ええ。
しかし今の所タイトルは、Japanese Post Keynesian Reviewだそうで、なんかボクみたいなのは投稿しづらい名前だなあ。もう少し間口広げた名前にしたらって言いましたけど。
藤森さんは、主流派経済学でないものなら何でもいいんだって。だったら、Heterodox Economics Reviewか何かの方がいいのでは。いや、
Hetaredox Economics...
がいいかもって言っておきましたが。
どうでもいいけど、今回はじめて明治大学のロゴマークに気がつきまして。あちこちにこんなマークがある。
明治大学の大学マーク
どうも、MeijiのMをデザインしたものらしいのですが、どう見てもハイヒールにしか見えない。ムズムズしてきます。
明治大学はユルキャラまで作っているみたいです。
めいじろう
なかなかかわいくていいんじゃない。ザ・アール大学(なぜジ・アールでないかというつっこみは奥谷さんへ)でも作ったらどうかって思うんですけど、考えてみたら悪役キャラしか思いつかない。悪役キャラならどんどん思いつくぞ。
ボスキャラは「タコのハッちゃん」だな。宇宙征服を企んで宇宙戦艦「スペースジャック」を率いる。ああこれ、単に何のひねりもない「宇宙征服」って意味そのままのベタなネーミングですので、区切りを間違えて読まないように。(内輪ウケのネタですみません)
福島のイベントはやっぱりちょっと重かったですね。
町の様子は何の変哲もない日常って感じでしたけど、そう書いていいのかな。当事者は、安全と言われても危険と言われても腹が立つそうです。わかる気もしますが。
まず南相馬市の桜井市長のお話。職員たちが寝ずにがんばって、揶揄叱責を浴びて耐えてきたそうですけど、今早期退職者が相次いで自治体崩壊の危機だそうです。入院は不可能になり、小さい子供のいる看護師さんは続々辞めて、医療も崩壊状態ということです。でも市役所を残して活動してきたおかげで、人も企業も戻りはじめているということです。
地震当時の情報がない中の孤独な決断の数々とか、生活支援物資もガソリンも30km圏外で止まり、そこまで取りにいかなければならなかった話とか、現場を知らないところに遊離した判断の有害無益さと、現場の強靭さのコントラストがよくわかる話でした。
ちなみに、今全国で懸案の「ガレキ」問題については、桜井市長は防潮堤を作る基礎のために使わせてほしいとおっしゃっています。まともに防潮堤を作ろうとしたら全然材料が足りないところらしく、もてあましている「ガレキ」を使って作ってその上に植林すればいい、それでもまだ足りないくらいだとのことです。安全性とか大丈夫かという技術的な話はボクにはわからないのですが、ともかく燃やすのは最悪なのだそうです。別途聞いた話では、「ガレキ」問題は、どうも全国各地の産廃利権とのからみがあるらしく、桜井市長は市長になる前、産廃施設建設反対運動をしていて、実際阻止に成功した経歴の人のはずなので、何かそのへんで思う所がおありなのかもしれません。
次にお話された福島県農民連の根本敬さんは、農家の受けた原発被害の全面賠償を求めている人です。農家は被害者なのに、汚染された農産物を出したらなんで農家の自己責任になるのか。原発事故に責任のある者が検査を負担して、責任をもって買取って欲しいと言っています。
桜井市長も、日本のメディアは退避措置後全く入ってこなくなって、きてくれるのは海外メディアばかり。と思ったら、市内で取れたコメから基準値超のセシウムが出たときに、メディアは農家をいじめるために入ってきたと怒っておられました。
あといろいろな人のお話がありましたが、共通して言えることは、現場を知らない所で決めたものを押し付けてくることは迷惑千万。国の役割は、まず何よりも、今わかっている正しい情報を現場に知らせること。責任をはっきりさせて、ちゃんと償わせることが大事で、戦争のときにこれをあいまいにしたから今もあいまいにされているのではないかということでした。なんか、2月20日のエッセーとか、いろんなところで言ってきたことがまた言われているという感じ。
何だか現場レベルの取組みに対して、立ちふさがることばかりが国のやることという印象でしたけど、特に記憶に残っているのは、災害があったときの仮設住宅のこと。これ、夏は暑くて冬は寒いプレハブ住宅にするように決まっていて、あらかじめ全国どこでも特定の大手業者が受けるようになっているのだそうです。福島県復興ビジョン検討委員会の鈴木浩さんが、木造仮設住宅を建てるプロジェクトを立ち上げた時、あとからそんな決まりに気づいて、結局プレハブメーカーにこんなたくさん無理ですと言ってもらうことで枠を作ってもらったそうです。
帰り、何も知らずに福島空港からの飛行機を先に取ってしまったのですが、福島空港って、実はすごい不便なところにあるんですね。乗り継ぎで空く時間とか入れると、福島市から三時間弱ぐらいかかります。旅の最終日は事故か津波の被災地を一度見ておくべきなのではとも思いましたが、どうにも時間のやりくりができませんでした。この空港も何かの政治利権がらみだったらしい。
東京から福島に行ったのだから、東京からの新幹線往復パックで宿をとって、羽田から飛行機に乗ればよかったと思います。もっとも、ガチで宿をとっても、わりといいホテルが安かったですけど。やっぱり需要が少なくなっているんでしょうね。福島観光は今がチャンスだと思いますよ。
ところで、こんなふうにバタバタと旅を続けている最中の23日、政府が日銀審議委員に河野龍太郎BNPパリバ証券チーフエコノミストを充てる同意人事を国会に提示したとのこと。
帰った翌日27日はまともに身体が動かず、昨日ようやくこのかんの事態をなんとかフォローできるようになって、その事実を知りました。4月の頭ぐらいには決めるスケジュールみたい。
それで、ずいぶん遅ればせながら、やっつけ仕事で文章を作って、共産党の代表アドレスと、メールアドレスのわかる社民党の国会議員全員に、この人事に反対するよう求めるメールを出しました。以下に、そのメインの部分を載せておきます。送り先に合わせて若干加筆などアレンジしましたが、基本的に同じ文章で出しました。
みなさんもこれを参考に、適宜アレンジして、是非選挙区やご関係の国会議員などに働きかけて下さい。国会議員に影響力がありそうな大労組などの幹部にお知り合いがおられるかたも、是非働きかけをお願いします。
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すべての働く仲間と市民のために、日夜奮闘されておりますこと尊敬申し上げます。
私は、立命館大学経済学部に勤めております松尾匡ともうします。(中略)
さて、目下の日本社会にとって最も憂慮すべき問題が若年層を中心とした雇用問題であることは言うをまたず、その根本的な解決のためにはデフレ不況の克服こそ喫緊の課題となっております。震災復興についても、人々の自立的生活が真に回復されるためには、全国的に人々の需要が回復して、それに向けて被災地の人々の仕事の機会が拡大することが必要です。
歴史的に見ても、不況と失業の悪化のもたらした社会的動揺が進歩的なものであった例は愚見の及ぶ限りなく、常にそれはファシズムの温床となってきました。大量失業は、失業者どうし、失業者と就業者、就業者どうしの間に分断と競争をもたらし、自分よりちょっと恵まれた者を叩き、弱者を蹴落とす風潮を不可避にします。そして、苦境からの脱却のために、強い力による解決を求め、外に不満を向ける論調がおこってきます。
まさに今、小泉フィーバーの教訓覚めやらぬ内に、またも橋下現象がおこり、河村、石原といった極右首長の人気も衰えないことに、そのことがはっきりと現われています。これは経済的条件がもたらす必然的傾向であり、失業問題の完治なくしてこのような社会風潮が克服できた例は知りません。しかもこれが一旦ある限度を超えて悪化すると、もはや経済の好転によってはあともどりせずに破滅に向かっていくことは、戦前の教訓がはっきりと示す所です。
また、原発立地にしても、基地のある町にしても、全国的な不況が続いているせいで、地域経済が別途十分な雇用を生み出す展望が見えない限り、人々は原発や基地のない町を作るために踏み出すことは容易ではないと思います。
このデフレ不況の原因が、さしあたり総需要の不足にあることは、もはやアカデミズムの世界で否定する者はないと思われます。評論家の中には、人口停滞などの供給能力の停滞に原因を求める論調も見られますが、労働人口が足りないならば人手不足になりこそすれ大量失業の原因にはなりません。十年前に平成不況の原因を供給能力の不全に見立てた小泉「構造改革」が、おびただしい失業と倒産をもたらした教訓からも、その議論の誤りは明らかです。
たとえ人口が減っても、福祉のニーズ、医療サービスのニーズ、子育て支援サービスへのニーズはじめ、もっと安全で環境にやさしいものへのニーズ等々、私たちにはまだまだ満たされていない旺盛なニーズがあるはずです。ただ、人々のそんなニーズのあるところにおカネが回っていないから、それがまっとうな雇用につながる需要として現われていないだけです。
したがって、このような社会のニーズにあった総需要を拡大して失業を解消するためには、増税や財政支出削減で総需要の足をひっぱるのではなく、大胆な金融緩和でおカネを作り出して、必要なニーズのあるところにつぎ込んでいく仕組みを作り出すことが望まれるところです。
ところがこのような中、政府はこの23日、日銀審議委員に河野龍太郎BNPパリバ証券チーフエコノミストを充てる同意人事を国会に提示したと報道されています。
河野氏は、財政再建派として知られ、金融緩和についても、財政支出の増大についても、およそ総需要を拡大する政策に対して反対するスタンスをとってきました。特に、氏は、東日本大震災復興構想会議検討部会の委員として、国債発行による復興財政支出に反対して増税を唱えてきました。そして、経済悪化の原因は供給不足にあるとし、デフレよりもインフレを懸念してきました。増税が景気を悪化させるというのは総需要不足のときに当てはまるのであり(それはその通りです)、今のように供給制約下では当てはまらない、「復興資金を増税によってファイナンスすれば、総需要の刺激を避けることが可能となる。供給制約に直面しているからこそ、復興資金のファイナンスを国債発行に頼ってはならない」と主張しています。
http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/kentou1/kouno.pdf
現実には東日本の供給能力はたちまちのうちに復活し、インフレになるどころか、デフレ不況が続いています。しかし、河野氏が前言を撤回したという話は聞きません。
対して河野氏が主張する経済政策は、供給能力を上げるための政策です。だから掲げているのは、一層の構造改革です。規制緩和です。そしてTPPです。
http://www.toyokeizai.net/business/interview/detail/AC/cded87b7de80097b6514b29388f2abfc/page/3/
総需要が足りない中で、供給能力を拡大する政策をとったら一層失業が増えることは、小泉改革の経験を引くまでもなく、ちょっと考えてみれば明らかです。
財政削減や増税を志向し、金融緩和に対して否定的な河野氏のようなスタンスは、ヨーロッパでは、グローバル資本主義を推進する新自由主義の手先と見られるのが通り相場です。これは、主観的にはともかく、客観的にはヨーロッパに限らず、どこでもあてはまることです。ブルジョワジーが労働者に対する階級支配を貫徹するためには、失職の脅しが最大の常套手段であり、そのために失業者の存在が労働者の境遇の改善にとって死荷重となることは、『資本論』の昔から変わらぬ事実です。だからこそ、資本家側はいつも、景気拡大が人手不足になる前に、総需要に冷や水をかける政策を取るのです。
金融緩和の結果の低金利で損をするのはブルジョワであって、庶民・労働者にとってはむしろトクになっていること、デフレ時代には物価より賃金の下がり方の方が大きくて、インフレ時代は逆に物価よりも賃金の上がり方の方が大きかったことについては、次のページの拙文をご覧下さい。
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__100122.html
つまり、金融緩和とマイルドなインフレは労働者にとって何も損ではなくて、むしろブルジョワにとって階級利益に反するということです。だからこそ日銀はじめ支配エリートはこのことに及び腰だったのであり、河野氏は客観的にはその最も忠実な代弁者だったことをご理解下さい。
このかんの円高で、今まで高い技術力で日本経済を支えてきた多くの中小零細業者が破滅に追いやられてきました。今、先日日銀がまがりなりにもインフレ目標めいたことを打ち出してから、過酷な円高も多少和らいで、日本経済にほんの少し希望が見えてきたところです。しかし、日銀に本気で政策転換する気がないと人々から見透かされたならば、これもまたすぐ元通りになってしまうでしょう。河野氏が日銀審議委員に選ばれることは、ただそれだけで、こうしたメッセージになってしまいます。もちろん、実際に就任したならば、一層の金融緩和に反対し、ちょっと景気が上向けばすぐそれを再引締めの理由にするであろうことは想像に難くありません。
仮にも革新政党の議員であるはずの者が、失業あふれる中で構造改革やTPP参加を主張する者の日銀審議委委員就任に賛成したとなれば、その事実はこのネット時代、簡単に一目(うわ字間違えてた!「人目」だ)に触れる所で永久に記録されることになるはずです。そのことの重大さを是非理解していただきたいと思います。
そしてその場合、行き場のなくなった人々の不満は、今以上に極右勢力に吸収されるであろうことも、歴史の教訓ではなかったかと思います。
どうか以上のことを考慮いただき、日銀審議委員承認人事の審議の際には、なにとぞご賢断をたまわりますよう、よろしくお願いいたします。
貴職の今後の一層のご活躍を心からお祈りもうしあげます。
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河野さんの主張については、片岡剛士さんがメルマガで評論されています。片岡さんのフェースブックに公開されていますので、ご覧下さい。
https://www.facebook.com/note.php?note_id=343831798961891
片岡さんからは、河野さんの主張がわかる資料として、復興構想会議の検討部会の議事録(第1回及び第2回)、及び第二回目の河野さんの提出資料もご教示いただきました。ありがとうございます。
http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/gijiroku/01kentou.pdf
http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/gijiroku/02kentou.pdf
http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/kentou2/kouno.pdf
※追伸:言うまでもないことですが、上記のメール文は社共向けですから、その他の議員にこのままで出すと、かえって逆効果になる恐れがあります。念のため。なお、社共系も私がメールを出したからもういいと考えず、お知り合いなどがいたら是非働きかけて下さい。特に活動現場をお持ちのかたは、議員と直接面識などがなくても、不況で直面されている困難な経験などを交えて、メールなどで訴えていただきますと効果的と思います。日銀審議委員人事については、意味もわからずに政府提案に言われるままに賛成するという、左派反対派にあるまじきことを続けてきたのが、この国の社共です(例えばこちら)。みなさんの働きかけがなければ、あっさりと賛成してしまう可能性が高いです。参議院では保守系野党と公明党だけでは過半数がとれませんので、このことは大きいです。ある程度経済に通じた議員向けには、上記片岡さんの文章へのリンクも入れると効果的だと思います。よろしくお願いします。
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