松尾匡のページ12年7月14日 18日発売の新著は『左翼入門』!
新書原稿あげたら楽になると思ったらとんでもない。その新書の残務自体前回のエッセーのあともまだ終わらず、最後の最後まで尾を引きましたが、そんな中で待ってましたとばかりほかの仕事も次々入ってくる。
このかん、ギリシャ情勢だとか、消費税引き上げ決定だとか、大飯原発再稼働反対デモだとか、なんだか世の中揺れるようなできごとがあったみたいですが、ほとんどフォローできないまま目の前の仕事に追われていました。知人たちのブログのフォローもほとんどしてなくてすみません。
先月の今頃、一週間ばかり家を空けたあたりがピークで、それから比べればそのあとはまだましでしたけど。
その旅、6月14日木曜夜、職場から九州に帰宅して、翌日夕方には大阪に向けて出るスケジュールで開始。大阪の宿に夜中に着いたら、出版社からメールがきていました。その前数日、余白を埋めるための加筆とか、前書き後書きの執筆、修正とかで、ずっとやりとりが続いていたもので、またどこかダメ出しがでたなと思ったら、「校正稿を校閲に出していたのが戻ってきたので、指摘点を自宅に送った」という内容。自宅に帰ったときにはとっくに指定の締め切りすぎているスケジュールなので、上京ついでに御社にうかがえないかというメールを出しておきました。
6月16日土曜日は午前中が大阪で講演。「わたしの政経塾」という女性達の勉強会で、不況問題の講演をしたのでした。
いろんな世代の百人ばかりの女性の会でした。まあ冗談はウケてもらえたので、理解いただけたんじゃないかな。質問も活発に出たし。
これまで労働組合関係などで語ってきた『不況は人災です!』講演の焼き直しなのですけど、みなさんいろいろこれまで勉強されているということでしたので、今回はちょっと理論に踏み込んでみました。フリードマンやハイエクや合理的期待形成学派が、ケインジアンを批判したときの、人々の「予想」が大事だという論点を、丸呑みして現代のケインジアンは復活しているんですよと。それで、人々のデフレ予想を変えて、マイルドなインフレ予想を確定させるのがインフレ目標政策なのですという説明をしました。
そして、勉強なさっていることはいいことですけど、ちょっと中途半端にかじるとハイパーインフレとか心配するひとも出ますので、こんなイラストのスライドを作ってみました。これでどや。
冷え込みが厳しいと、多少熱を加えても熱は外に出ていって中まで伝わらない。つまり、おカネが銀行の日銀の口座にムダに貯め込まれて貸出にまわらないということですね。デフレ圧力が続いて、総生産・雇用は減り続けます。
それでもめげずにガンガン暖めれば、圧力が逆向きになる。雇用が伸び、生産が増やせる限り、インフレ圧力はそんなにひどく高まることはありません。
完全雇用に至っても暖め続けると、中の圧力が加速度的に高まっていき、やがて爆発します。
さて、その日は、午後は基礎経済科学研究所の研究会があって、大西広さんの新しい教科書に対する批評報告をしました。講演終わってから、講演主催者の人にプリントアウトできる店がないか聞いて、大慌てで大阪駅隣ビルの事務機サービス屋でレジュメ打ち出し、コピー作業。ばたばたと京都二条駅近くの立命館大学本部ビルの会場にかけつけました。新書の仕事の合間をぬって書いてもなかなか進まなかった研究会レジュメですけど、結局やっぱり新幹線の中で進めて前夜宿で書き上げると言うバタバタぶりです。
その研究会の途中で新書の編集者から電話があり、月曜日に出版社にうかがうことになったのです。
報告した大西さんの本はこれ。慶応義塾大学出版会から出した『マルクス経済学』。
大西さんは、この春、京大から慶応に移ったので、慶応で講義テキストに使うために出したわけですな。
最初から最後まで大西理論全開の本です。読んでると大西さんの声が頭に響く。普通、教科書を書く時には、自分以外の人にもたくさん採用してもらえるようにと配慮するものだけど、この本は自分以外の人が使うことは最初から全然考えてないだろう──と報告の冒頭に言ったら、本人も「そや。考えてへん」と笑っていました。
そんでもって、これのどこが「マルクス経済学」だと言ったら、「おまえが言うか」と返されるだろうからやめとおくと言ったら、本人も「そやそや」と爆笑。
まあ報告自体は結構辛口で、本質的な問題点が議論できたと思います。某雑誌に書評原稿にして送ったのですが、字数制限で内容を大幅に削っているので、もったいないのでそのときのレジュメを「アカデミック小品」のコーナーにあげておきます。ご関心がありましたらダウンロードしてごらんください。
さてこの研究会が終わったら、もうけっこうな時間なので、慌てて東京に移動だ。
翌朝立教大学で、経済理論学会の雑誌の編集委員会。例によって、新幹線の中で論文二本分の報告書を書きはじめ、宿で仕上げ、翌朝近くのセブンイレブンでプリントアウトしてコピーするという間に合わせ方。
もう委員の任期も終わりで委員会に出るのも今回が最後なので、これで仕事も終わりだと思っていたのですが、結局またまた宿題をいーっぱい背負い込むことになりました。
翌日、新書の出版社を訪問。出版社は講談社です。
午前中時間が空いたので、喫茶店で前日出た宿題の一つ、再提出された投稿論文の修正稿を読んでいました。それにしても東京の商店街はやっぱり活気があるね。
ついでに、講談社から20分ほど坂を登ったところにある、同社オーナーの美術コレクション館「野間記念館」に行ってみたのですが、月曜日は定休日! それで、その近くに看板が出ていた、細川家の所蔵文物の展示館「永青文庫」に行ってみたのですが、そこも月曜日で定休日でした。残念。
講談社のロビーで待っていると、ちょうど待ち合わせ時刻に携帯電話がなる!何かと思いきや、某大学の昔世話になった先生からで、昇任人事に外部審査が要るそうで、ボクにやってくれという依頼でした。夏休み中に三本論文を読んで報告書を書くという仕事。まあそのころには少しは手が空いているでしょうからいいですけど。
といううちに編集担当の岡部さんがやってきて、仕事部屋の裏の一室で作業をしたのですが、メールでやりとりしたらやたら手間がかかったことも、面と向かって話し合うとサクサク進みました。
それにしても、岡部さんも校閲者の人も、本当によく調べてくださって、いったいどっちが著者でしょうという感じ。くだらないミスは例によっていっぱいしているのですが、みんな奇麗にされました。プロの仕事とはこういうものだと恐れ入ります。すごいです。
講談社は、なんと隣に専用のスタジオ棟を持っていて、そのあとそこに連れていかれて、写真をバシャバシャ撮られました。あんまりキリリ顔はいやって言ったんだけど、結局採用されたのはニコニコしてないやつだったね。
で、そのまま滋賀に行って、続く三日の授業に入ったわけ。九州に帰った週末は身体がキツくて大変でした。
このあとも、二校のかたわら、「注」を本文に入れ込むのに抵抗するやりとりが続いて、結局括弧書きにすることで落ち着いたり、コラムの位置をあちこちやったりして、最後の最後まで調整が続いた本でしたが…
やっと出ますよ。ホントやっとこれで解放されるかと思うと感慨深い。
講談社現代新書。その名も。
新しい左翼入門──相克の運動史は超えられるか
誰だ笑ったやつは(笑)。いや、ボクも最初びっくりしたのよ。
命名の経緯はあとがきに書いてあるんですけどね。最初にこの企画が出た時に、編集者の人と、最近若いもんが上の世代がどんな愚かなことをやってきたか知らずに運動に足を踏み入れるのはよくないと言って盛り上がって、これから運動に足を踏み入れる人にとって教訓にできるような注意書きみたいなものにしようということで、「裏タイトル」を「左翼入門」にして進めてきたのです。もちろんそのときには、「左翼」なんて言葉を表立って使うつもりは二人とも全然なかったのです。
それが、もう初稿段階にきてから、なんと販売部局のサイドから、「左翼」を是非タイトルに使ってくれと要請がきて、編集者もボクもビビりまくり。さんざん抵抗してメールのやりとりを繰り返したのですが、結局今のに落ち着きました。そしたら販売サイドは、「左翼」がタイトルに入ったからというので、部数を上積みしてくれたのです。「左翼」と入ったらかえって強気になるなんて、いったいどんな計算をしてるんだと、ボクも編集者も目を回しました。
まあプロの言うことだから任せておきますけど、いまだに半信半疑です。
表紙はこれだ!
帯のあおり文句、装丁、すべて編集者も知らないところで、販売側が決めています。ボクも何も聞いてません。まあ、大きくはずれてはいないので、いいと思いますが。
そういうわけなので、例えば「男たち」だけでなく女も闘っていたというご批判とかあると思いますが、どうかご容赦下さい。
なぜか「社会学」にされてるので、稲葉さんとか怒るかも。
たしかにあんまり経済学ではないのですが、終わり四分の一ぐらいで論じている話が、本当は自分の専門の、ゲーム理論とかを使った経済理論が背後にある話です。2月11日のエッセーで取り上げた田中秀臣さんとの対談とか、2月20日のエッセーの話なんかが関係する領域。もちろんゲーム論のゲの字も出てこないし、全然数式もないし、経済理論っぽいみかけは何もないので、経済学を知らないみなさんにも安心して読んでいただけます。
本当はそんな話を中心にするつもりだったのですが、運動史の話を書き出したらおもわぬ分量をとってしまったのです。まあ、おかげで一般には読みやすくなったかも。
もうネット書店で注文できますよ〜。
amazon セブン&ワイ HonyaClub
これがようやく印刷にまわったところで、締め切りすぎまくった定期試験の作問にかかったのですけど、毎度のことですが、数値が割り切れるように、なるべく桁の多いかけ算や割り算にならないようにと数値を設定すると、すごい時間を喰います。経済学史は六百何十人もいるのでマークシート。そしたら問題をたくさん考えなければならず、過去問出回る中ではネタ切れでウンウン苦しみます。
同時に、市議会議員の後援会の7月号後援会通信の原稿を編集して印刷所に送る仕事もあった。そんなこんながようやく終わって、昨日は久留米大学の非常勤から帰ってから献本リスト作成にかかりきり。それが今日昼頃できて、やっとエッセー更新となったわけ。
このあと差し迫った仕事は、経済理論学会の雑誌の特集記事のために書いてもらった論文を検討すること。四本あるうち一本まだきてなくて、一本は修正の方向を考えないと。二本は今から読む。
今年の夏休み中は共著原稿一本あるし、上に触れた昇任の外部審査があるし、あと某学会の雑誌のレフェリーがひとつありました。うーむ。
「エッセー」目次へホームページへもどる