松尾匡のページ

12年12月25日 総裁人事は好況の手柄を与党に独占させないチャンス



 次の総選挙のときに、こんな自民党のテレビCMが流れるんじゃないかと妄想しています。

(テロップ)「平成24年末」
母「また駄目だったのかい」
息子「ほっといてくれよ!」(部屋に閉じこもる息子)
母「就職また駄目だったって。あんなにがんばってるのにねえ。」
夕食のテーブルで暗く顔を見合わせる両親。
テレビで、民主党の海江田さんが「アベノミクス」を「危険」と批判している。

(テロップ)「平成2×年○月」
経済指標の好調を伝えるニュースが流れている。
母(現金封筒を開けたのを見せながら)「お父さん。これ!」
手紙。息子の声「正社員になって初月給が出ましたので送ります。今まで苦労をかけました…」
明るく顔を見合わせる両親。荘厳に盛り上がるBGM。

(ナレーションとテロップ)もう一度不況に戻りたいですか。
               自民党

 あと、自民党らしくジェンダーバイアスばりばりに、「あたしたちつきあって何年?」から始まって、「正社員に就職が決まったよ」「ほんとう!おめでとう」「…結婚しよう」というバージョンとか。それとか、商店街で隣の店主が店をたたむ挨拶にきて、「俺んとこもそろそろ潮時かなあ」で始まって、商売繁盛の様子で終わるバージョンとか。
 うーん。ホントにこうなったら、今度こそ自民党は、今回と違って本当に圧倒的支持率で、また圧勝するでしょうね。

 失業者がいっぱい出ている大不況では、ファシズムの嵐が吹き荒れて左翼が弱くなるのは、古今東西変わらぬ物理法則みたいなものですから、今度の選挙結果も別段驚くことではありませんでしたけど、逆に景気が好くなれば、普通は我々にまたチャンスの目が巡ってくるというものです。
 ところが、今度ばかりはそうはいかないかもしれません。景気回復の手柄を安倍さんの側だけのものにしてしまったならば、好況の中で迎える次の総選挙は、我が陣営に弔いの鐘が鳴る日になるでしょう。
 ホント左派やリベラル派陣営に、どれだけ危機感があるんでしょうかねえ。
 たとえば、こんな現状。毎日新聞が総選挙当選者にアンケートしたら、
衆院選:当選者アンケート 集団的自衛権「見直し」78% 9条改正「賛成」72%

 それから、これなんか是非目を通して下さい。こないだの選挙のときの秋葉原での安倍さんの街頭演説の様子のレポート。大群衆が熱狂的に盛り上がっています。リンク先の動画も一度見てちゃんと危機感を強めた方がいいです。
再びのファシズム:自民党街頭演説(秋葉原)での愛国的熱狂

 もうこうなったら、今から宣言しとこう。

宣言:わたくしコト、ヘタレの松尾匡は、将来、権力に強権で脅されたら、あえなく転向してしまうことをここに宣言します。
2012年12月25日

 昔若い頃には、将来日本がファシズム化したときに、自分が拷問を耐え抜いて筋を通せるか想像してマジに悩んだものです。ああやっぱり耐えられそうにないと思いながら、いや、でもそうなれる自分に少しでも近づかなければと、もんもんと眠れぬ夜をすごしたりしていたものでした。
 でももう今となっては歳とったから、そんなものしょせん無理だもんね。日頃からすっかり日和見おじさんになってるし。宣言したら気が楽になったわ。

 さあ、左派やリベラル派の野党のみなさんにとって、景気回復を安倍さんの側だけの手柄にするかどうかは、春の日銀総裁人事にかかっていると思います。

 ここで、三つぐらいシナリオを考えてみましょう。

シナリオA:インフレ目標論者の政府提案に対して、与党・右派系が賛成、左派・リベラル系が反対して可決される場合。
 特に、竹中平蔵さんみたいな、左派・リベラル系が反対せざるを得ない筋悪の提案をしてきた場合、それで可決されたら与党にとっては最善のシナリオですね。左派・リベラル系野党にとっては逆に最悪。インフレ目標政策が導入されて、いずれにせよ景気回復は間違いないので、政府側はその手柄を独占します。左派・リベラル系は、「あいつらの言う通りにしていたら不況が続いていたところだった」ということで、景気回復に反対した汚名を着せられて、信頼が失墜してしまうでしょう。

シナリオB:インフレ目標論者の政府提案に対して、与党・右派系が賛成、左派・リベラル系が反対して否決される場合。
 シナリオAは、政府にとって最善ですが、参議院では賛成が足りず否決される可能性があります。過半数122に対して、自民党会派83、公明党19に、みんなの党11、維新の会3、新党改革2を足すと118になって4票ほど足りません。そのうえに、自民党からは投票機の誤動作で反対票が若干出る予定ですので、ごり押しすると否決される可能性はかなり高いと言えます。結局、インフレ目標政策のスタンスが明確でない人事に落ち着いてしまうということはあり得ます。
(後註:参議院は欠員が6あり、議長は採決に加わりませんので、118ならばギリギリ可決されるようです。id: tdamさん、高橋洋一さんからご指摘いただきました。ありがとうございます。詳しくは、次回エッセー参照。)
 こうなると、参議院選挙までに景気回復の糸口をつけたい与党側にとってもうれしくない結果になりますが、左派・リベラル系野党にとっても、多くの人々の景気回復期待をぶち壊すことで、不況持続の犯人扱いされる重荷を背負うことになるでしょう。

シナリオC:インフレ目標論者に対して、左派・リベラル系も賛成する場合。
 インフレ目標政策そのものが景気回復をもたらすことは間違いないことですから、景気回復の手柄を安倍自民党に独り占めさせないためには、左派・リベラル系野党もこれを受け入れ、インフレ目標政策を掲げる総裁人事に賛成するべきです。
 その際、シナリオAが与党にとって最善であることは間違いないので、与党としては、筋悪の提案をする誘因はあります。そこで、インフレ目標論者の中で、左派・リベラル系野党も受け入れられるリベラルな人事を、こちら側から積極的に提案して、それを蹴ったら世論から景気回復の妨げのそしりを与党側が受けるように持ち込むべきでしょう。
 結局、シナリオBの結果よりは、シナリオCの方が与党側にとってもいいので、現状の参議院の勢力分布を前提すれば、左派・リベラル系野党が望みさせすれば──それこそ、社民党一党なり共産党一党なりが望むだけで──このシナリオが受け入れられる可能性が高いと思います。これが、左派・リベラル系野党にとっては最善の手です。

 私は民主党のことはどうでもいいのですが、今度ばかりは民主党代表選で、インフレ目標論者の馬淵さんにがんばってほしかったですね。もともと勝つ可能性はあまりなかったですけど、もし勝っていたら、日銀総裁人事で安倍さんにだけ手柄をわたすことが大々的に阻止できていたでしょう。海江田さんでは難しくなってしまいましたね。

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