松尾匡のページ12年12月22日 参院選共同名簿はウィン・ウィンのアイデア
反原発アイドルの藤波心さんがブログ更新していて、高卒認定試験合格したって!すごいすごい。めでたい。ウチはまだ飛び級入試はやってなくて、3月末までに18歳にならないと受験できないんだよねえ──などと余計なことをなぜか調べてしまった。
それはいいんですけど、その記事の前の12月の3日の記事で、「3匹の昆虫とアリ」という小話を書いてらっしゃいます。
カナブンとカブトムシとクワガタが、樹液をめぐって争っています。それを見たアリが、「そこの木の皮を、クワガタさんのアゴでめくって、カブトムシさんがその角で放り投げたら、もっと樹液の穴は大きくなって広がるでしょ。それをみんなで分け合って吸えば、カナブンさんだって今よりもっと沢山の樹液が吸えるとおもいますよ」と言うのにも耳をかさずにケンカに夢中になっていたら、昆虫採集の少年に一網打尽にされたという話です。
選挙も迫ってたころで、運動の現場にいたら、いろいろ思うところはたくさんあったのでしょうね。まあ、本当にこの小話のとおりの選挙結果になりました。
実際のところ、反原発政党と言えば、未来の党も共産党も社民党も新党大地も、ほとんど政策は(反原発以外も)変わらないのですけど、みんな壊滅しましたし。
大枠で志を同じくする諸勢力が、支配体制を向こうに回して大同団結しようという試みは、昔から何度も繰り返して起こってきましたが、結局失敗ばかりでした。戦前、山川均が追求した「共同戦線としての統一無産政党」という構想もそうでした。
この話は、拙著『新しい左翼入門』でも取り上げたところです。このときの山川の主張をまとめた拙著の原稿部分をコピペしておきましょう。
…それは、急進的なものも穏健なものも、無産階級のいろいろな要素を含む、「包容的」なものでなければならないと言っています。その結果、意見や政策の違いが、いろいろな流派として党内に現われるのは避けることができないと再三言っています。このことを危惧するのは間違っていて、これに弊害があろうとなかろうと、避けることができない以上は、いたずらに阻止しようとするのではなく、いろいろな異なった傾向にできるだけ自由な表明の機会を与え、争いを公然の討議とし、その結果が党の機関や政策に円滑に体現されるようにすべきだと言っています。
意見の相違が流派として現れることを認めないならば、政党は必ず分裂する。政策や意見の相違のために、たちまち除名騒ぎが起こるような官僚主義は一掃すべきだ。我々は、異なった意見や政策が内部で争っていながら、なおかつ結束を保っていけるような団体的訓練を積まなければならない…と、言っているのですが、全くその通りで、これは、いまだに通用する私たちにとっての課題だと思います。(『新しい左翼入門』p.108-109)
いやほんとにつくづく。
しかしみんなわかっちゃいるけどやめられないのが悲しいところです。だって、それぞれの勢力からみたら、もし団結するとなったら、なんとしても自分が主導権を握らなければ。おとなしくしていると、他派のために利用されるだけになっちゃいます。党派エゴをむき出しにしたところほどゴネ得を得て、一旦そうなると全体の団結を考えたらそれ以外のところは黙るほかない。組織を裏で牛耳るノウハウに優れた者ほど主導権をとり、一党一派の利益のために共同組織が利用されてしまいます。
でも、共同しないと、今度の参議院選挙は共倒れは目に見えています。
ではどうすればいいのか。
要は、「見せかけの統一」を作ろうとするからいけないわけです。意思統一しようとしたら、真に民意を反映しない、政治技術みたいなもので意思決定されて、それが全員に押し付けられてしまう。みんなそれが嫌だというわけです。
そうであるならば、共同組織の内部に争いがあることを偽らず、それを公明正大なものにして、諸勢力の分布を、文句のつけようのない民意の反映にしてしまえばいいということになります。
でも、そんなことができるのでしょうか。
できるのです。参議院選挙でなら可能なのです。
これは、参議院選挙の比例代表区が、「非拘束名簿式」になっていることを利用できることによります。
実は、以前本サイトのエッセーコーナーで一度このことを取り上げたことがありました。「03年5月15日 革新共同名簿はどう?」
ここで、改めてこれを提唱したいと思います。
どういうことかと言うと、非拘束名簿式の比例代表制では、名簿に載っている個人への投票が、その名簿党への投票になって政党への議席配分をもたらす一方、名簿内での当選の順番が、各個人の得票で決まることになっています。
ということは、極端に言えば、全然政策のかけ離れた人々が同じ名簿に載っていてもかまわない。いや、その方がかえって名簿の得票が増える仕組みにさえなっているということです。例えば、橋下さんと志位さんが同じ党の名簿に載れば、党はそれぞれまったく重ならない支持者から票を集めることができて、支持者が重なる同じような傾向の人ばかり並べた場合よりもトクになります。名簿登載者間で、罵詈雑言批判し合ってもかまわない、かえってその方が票が掘り起こされて名簿全体の得票が増える制度なのです。
この特徴を考えれば、今度の参議院選挙では、未来の党も社民党も新党大地も沖縄社会大衆党も、できれば共産党も、みんな一つの共同名簿にまとまって立候補すべきです。
このとき、参加各党は、自分の党がなくなってしまう心配をする必要はありません。どこか一党に主導権を握られる心配をする必要もありません。
そもそも、執行部もリーダーもおく必要はないのです。
未来、共産、社民等の参加各党の内部では、「関東は○○さん、関西は△△さん」などと、きっちり地区割りをして、自党メンバーの各個人候補に投票するように運動すればよいのです。これは、比例代表制が導入される以前に、全国区で各党がやっていたことと同じです。そして、公然と参加各党の名前を出して、参加党どうし互いに批判しあっていいわけです。
このとき、どんなに批判しあったとしても、名簿全体の得票にマイナスになることはありません。
各党がバラバラに立候補したならば、どの党も一議席もとれないということも今の情勢ではあり得ます。同じような政策を支持している人々の票が、それぞれの党の得票で端数になってしまって、非効率な死票になってしまうのです。しかし形式的に一つの名簿にまとめておけば、端数がまとまって当選枠が増えるので、どこかの参加党のメンバーの当選にはつながります。それが自分の党になるように、各自がんばればいいだけです。たとえ地区割りの失敗をしても、名簿全体の得票にはマイナスになりません。
それで、選挙後、当選した議員は、参加各党の会派名を名乗ればいいことになります。
もし、共同名簿の枠組みを残しておくならば、その決定機関のメンバーは、「個人候補の得票上位〜人」と決めておけば、陰にこもった人事抗争なく、公明正大に選ぶことができます。
以上の仕組みは、各党にとって、まったくウィン・ウィンの選択であって、何も損することはありません。妥協も犠牲もない。得ばかりです。やらない手はないと思います。
とはいえ、先の総選挙でも有権者の主たる関心は景気問題でした。失業者は多いし、中小零細企業は経営が苦しいし、若者は就職できないし、みんな不況で苦しんでいるのですから、これは当然です。
だから自民党の大きな勝因が、安倍さんが景気対策を明確に打ち出したことにあったことは明確です。
前々回のエッセー、前回のエッセーでとりあげたテーマですが、この政策は成功し、景気が好くなることは確実です。本来我々の側がなすべき批判は、「そんな土建屋ばかりもうけさせる支出ではなくて、全員に給付金でばらまくとか、福祉や医療や授業料に使え」とか、「2%のインフレ目標と言うならば、最低賃金も生活保護水準も2%で上げないとつじつまが合わないし、インフレ目標の本気度が疑われるぞ」とかでなければならないでしょう。日銀に2%のインフレ目標を立てて大幅な金融緩和をさせるとか、発行した国債を日銀がオペで買い切るとかいう手法自体は全く正しいことです。これに対して、「ハイパーインフレ」とか「国債暴落」とか「金利急騰」とか、大量失業下では絶対あり得ない非科学的な批判をしていると、いざ、この政策が成功して、ハイパーインフレも国債暴落も金利急騰もなく好景気がもたらされた暁には、大衆の信頼を失って、安倍さんのカリスマ性を高めるだけでしょう。
未来の党にしろ共産党にしろ社民党にしろ新党大地にしろ、インフレ目標をつけた財政政策・金融政策一体の総需要拡大政策という方向性について、足を引っ張る主張をして人々の期待の腰を折ろうとしたならば、今度の参議院選挙を生き延びることは困難でしょう。
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