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14年7月9日 性感染症と失業の最新報告とこの夏の予定



 ひと月前かかりつけ医から見せてもらった数字では、「クレアチニン」って、これ筋肉でエネルギーを燃やしたあとの老廃物らしいですけど、腎機能が正常なら速やかに尿中に排出されるはずのところ、血液中の濃度が基準値の上限をほんのちょっとオーバーしていました。どうりで疲れやすいと思った。
 でも、久留米の担当医からタンパク質の取り過ぎに注意するように言われていたので、食事が全般的に抑え気味になっていたのですが、そっちはちょっとやりすぎかもしれないとのこと。血中ナトリウムが上限以内なんですけど比較的高めだから、むしろ塩分を抑えた方がいいと言われました。
 そうは言ってもいつも夜遅くまで大学にいて学食で食べるので、自炊していないし、なかなか難しい課題ではあります。近くで外食するときも、京都は薄味だから大丈夫だろうとたかをくくっていましたが、それは我々庶民が行く所ではない、いわゆる「京料理」の話であって、普通は見た目を薄くする分かえって塩分が多かったりするかもしれないようです。
 それにしても、やっぱり京都の街中は外食が高いね。なんとか一食700円台以内に抑えたいところですけど、そうすると塩分の低そうなところはなかなかありません。消費税引上げ以来、学食のアラカルトを300円台に抑えるのに失敗することが多くなったし。
 ほぼ毎日銭湯行ってるし、毎月受診して薬もらうし、鍼灸の保険の制度が自己負担高いし、狭いベランダに合うミニマムサイズの洗濯機を買ったせいで、毎日洗濯しているために思ったより水道代がかかる──う〜む、一人暮らしは思ったより出費だわ。いっそう倹約にはげまねば…と、景気回復にけなげに抵抗する私は口だけリフレ派。

 さて、このところ、月末にシノドスの連載の締め切りと、何か必ず講演が一つ重なるのが続いてバタバタします。5月末は東京で朝日カルチャーセンターの講演でしたし、6月末は大阪で性感染症のお医者さんの研究会で、例によって性感染症と景気の関連について講演しました。7月には、きたる21日に「反貧困ネットワーク京都」で景気政策についての講演があります。

学習会「反貧困と景気対策〜アベノミクスについて考える〜」

 この企画は、実は反貧困ネットワーク京都さんが9月に浜矩子さんの講演を予定しておられるのですが、その企画が決まった際の議論の流れから、浜さんと違う主張も聞いておこうということになって、お呼びいただくことになったものです。たいへん光栄なお話です。経緯がら、いろいろ質問したいと手ぐすねひいているみなさんがいらっしゃるとのことで、はたしてどうなるでしょうか。誠心誠意ご説明に努めさせていただきますので、こんどもドラエモンのご加護を期待したいところです。

 先月は、14日、15日に日本経済学会の大会が同志社さんであったので、出かけてまいりました。今の住居から、一日目は自転車で行って、二日目は歩いて行きました。二日とも、御所のある京都御苑の中を通って行ったのですが、いいですねえ同志社さんは。すぐ隣がこんなところで。(苑内風景)
 同志社さん自体もレンガ建ての歴史的建造物が並んでとてもきれい。浜さんがうらやましいわ。
 ウチなんて、今いる滋賀県のキャンパスができて20年だけど、もともとこんなおしゃれじゃない大作りの建物の上に、減価償却費積み立てたおカネで新キャンパス作るんで、将来の学納金が余程増えないと建て替えが難しくなってくるようで。なんだか、このまま老朽化したら、とてもかなう気がしないのですけど。しかも僕なんかでは浜さんの知名度には勝てませんし…。タコのパウル君なら知名度でも的中率でも余裕で勝つんですけど。

 二日目が終わったら、大学院時代の友人とオヤジ三人して、京都御苑を連れ立って抜けて街に繰り出し、話題作りに「池田屋」跡にある居酒屋(久留米にもある「はなの舞」)に入りました。もちろん「池田屋事件」の「池田屋」ね。店員が襲撃側の新撰組のかっことかしていていいんかい。
 あとから調べたらあのへんって、佐久間象山が襲撃された碑とか、本能寺とかいろいろあるみたい。そう、1582年「いちごパンツに本能萌える」という語呂合わせにもだえた、思春期の恥ずかしい思い出を誰しも持っている、あの「本能寺の変」の「本能寺」。もっとも変後移転したものみたいですけど。
 京都に住み出したけど、よほど意識しないと観光しないぞとひとから言われたけど、まったくだよ。せっかく京都に来た知人を多少案内できるぐらいにしとかないと駄目ですね。

 翌週22日日曜日は、院生向け教科書「最強のマル経」企画に新しく加わってもらった恒木健太郎さんとお会いして、意気投合しておおいに盛り上がりました。長らく大塚史学を担当してくれる人がいないかということが懸案だったのですが、バッチリの人が見つかってよかったです。専修大学の新任ほやほやの若手の先生ですけど、ちょうど京都にいらっしゃる機会があったので、お目にかかって企画の話を詰めることになったわけです。

 実はその翌日23日がシノドスの原稿締め切りだったのですが、その日は学部の中堅若手同僚の一部で懇親会があって、やっぱり原稿できるはずもなく……。いやあ懇親会ですけど、「経済学史」週一回半年15回の講義だけで経済学240年の歴史が終わるはずがないと訴えるためにどうしても出る必要があったのです。
 そういうわけで、結局できたのが24日晩というか、25日未明3時で、ろくに寝る間もなく、すぐ翌朝一限目から講義だ。昼頃には校正が届いていたのですが、午後はゼミ2コマに続いて学内の研究セミナーの司会をやって、終わってすぐハシゴで学内「反体制運動w」の集会に出ていたのでした。9時すぎにハネたあと、シノドス原稿校正にとりくむも、注の参考文献が不十分だったので加筆に時間がかかり、校了は、また日付変わって26日未明2時。翌朝また一限目からの講義のために目覚めたら最終確認が届いていて、OKしたら7時に無事アップ!…というギリギリ仕事になりました。編集者さまも、2時に校正稿を受けてすぐ最終フォームを作り、7時に公開したわけですから、ほとんど寝る暇なかったはず!たいへんなご負担をかけてしまいました。すみません!!

 というわけで、シノドス連載第8回が公開されております。ご検討下さい。
連載『リスク・責任・決定、そして自由!』:新スウェーデンモデルに見る協同組合と政府──「転換X」にのっとる政策その3

 連載はまだ今月以降も続くのですが、ここまでの分で一旦PHPさんから本にする予定です。振り返ってみると、一般書としては立ち入りすぎたところがちょくちょくありますし、整理が必要だなあと思います。最後のまとめはちょっと足りないので、補足が必要だと思います。

 そして26日にこれが公開されたら、直ちに28日の性感染症講演の準備だ!
 2010年の拙著『不況は人災です!』で、女性の性感染症が失業率と相関しているというグラフを見せたのに対して、性感染症のお医者さんが目をつけて下さり、以降しばしば講演の機会をいただくようになっています。このエッセーでも、こことかこことかここでとりあげました。

 前回は2012年9月の講演でしたが、そのときには、リーマンショック後の失業率の増加にもかかわらず、性感染症が増えていないことを問題にとりあげました。当時のエッセーでお見せしたグラフをひとつ再掲すると。
12年講演グラフ

 さて、では今回新しいデータが追加されたらどうだったでしょうか。上の図からもわかるように、失業率の増大から性感染症の報告数の増大までには、時間のズレがあるようです。そしたら、2012年のデータまで追加したら、はたしてリーマンショック後の失業率の上下を反映した山がでるか。
 じゃ〜ん!出ました。山!
淋菌と失業2012まで
ちっちゃ!

 なにこれ。
 実は、児童買春・児童ポルノの被害者は、もっとはっきりと全体の失業率と合っています。
児童買春と失業率
 「被害者」と言っても、だいたいは合意しておカネをもらった人たちでしょうけどね。

 講演を聴いてくださったみなさんのいる大阪府では、前回も指摘したとおり、10代後半の女子の性感染症の報告数は景気の動きと比較的よくあっているように見えます。今回のデータ追加で一層そう見えるようになった気がするのですけど。
失業率と合わせると、
淋病・失業 大阪10代
女子の高卒就職率と合わせると、逆向きで合っているよう…
淋病・就職率 大阪10代

 親が失業したら、娘が家計を支えたり、養育が崩壊して一人で食べていかなければならなくなるかもしれません。就職できなければ食べる口を見つけなければならないし、現役の高校生でも、就職できなかった先輩の生き方に影響されるかもしれません。要は、戦前の昭和恐慌期の「娘の身売り」と事情は変わらないというわけでしょう。

 リーマンショック後の変動に対して、性感染症報告数がその前の不況と比べてあまり大きな反応をしなかった理由は、やはり前回講演の推論のとおりだと思います。すなわち、ひとつは性的に活発な年齢帯の人口が減り続けていること。もうひとつは、2006年の風営法の「改正」で、有店舗型業態の風俗業者が規制で激減し、しかも不況の影響もあって、セックスワークを始める女性がインフォーマルな形態に流れているだろうこと。つまり業者主導の検査がされなくなって、闇に隠れた感染者がたくさんいるのだろうということです。
 児童買春・児童ポルノの被害者の場合は、もともとインフォーマルなものがほとんどなので、小泉不況の頃とリーマンショック不況の頃の差が大人の感染症の場合ほど差がないのでしょう。

 こんなふうに、時系列的にみたらいろいろな構造的変化があってきれいにいかないので、今回の最新データ2012年のものを使って、都道府県ごとのクロスセクションの回帰分析をしてみました。
 まず、淋菌感染症の場合。
淋病・失業クロスセクション2012
 重相関係数39%(自由度修正済み決定係数13.3%)でちょっと小さいかな。社会科学としてはこれくらいで「相関がある」と言っている論文はよく見るけど。失業率の係数のp値は0.0068で十分小さいので、有意であることは間違いないと思います。
 沖縄を除くと、重相関係数45.8%(自由度修正済み決定係数19.2%)になります。失業率の係数のp値は0.0014です。

 性器クラミジアの場合。
クラミジア・失業クロスセクション2012
 重相関係数38.7%(自由度修正済み決定係数13.1%)。失業率の係数のp値は0.0072です。

 前回の講演のときには、都道府県ごとのクロスセクションの回帰分析結果はあまりよくなかったのですけど、今回は関係が復活している印象があります。毎年この回帰分析をやったやつの重相関係数の推移はこんなふうになります。
相関係数推移
 失業率の係数のp値の推移はこうなっています。
p値推移

 会場からは、最新のデータでは大阪で感染報告が増えているというお話をいただきました。大阪では、小泉不況の頃はおそらく業者主導で根こそぎ感染者を見つけていたので、他所のような、その頃の感染者が後年見つかる効果がほとんどなかったのですが、リーマンショック後の不況のときはインフォーマルな形態が主になったために、そのときの感染者がここにきて発見されるケースがこれからが本番になると思います。

 ところで、今回お見せしたおもしろいグラフがこれ。犯罪の「わいせつ」の認知件数と完全失業率の推移を重ねてかいたものです。
わいせつと失業
 前半は全然あってないのに、後半は妙にきれいに波形があっている。なぜだ?
 これ実は、ゼミ生の一人が見つけたのですけど、なんでこんなふうになるのかとゼミが盛り上がりました。

 「わいせつ」というのは、無理矢理えっちなことをする「強制わいせつ」系と、モロえっちな画像を売ったりする「公然わいせつ」系という、全く性質のことなる二種類の犯罪がいっしょになっているのですね。これは、前半は主に「強制わいせつ」系で経済状況とは無関係、後半は経済的利益を目的とした「公然わいせつ」が主なものだと推測されます。

 あまり根拠のない私の推測を書くと……。80年代は、失業率の波形に先行していますでしょう。失業率というのは、典型的な遅行指数だから、景気に数年遅れます。つまり、「わいせつ」認知件数はほぼ景気と同時に動いているということです。
 80年代ですから、だいたい媒体は「紙」ですよね。VTRテープということもあるかもしれませんが。これは個人ではなくて業者ということでしょう。つまり、出版業者などが、景気が悪くなるとただちに経営に影響が出て、そういう方面に手を出すということではないかと思います。
 それが、90年代からは、失業率と同時か失業率よりも遅れて動くようになります。つまり、媒体としてネットが登場することによって、職に困った個人がこの数字を動かしているということだと思います。

 会場からのご質問でも、近年セックスワークがインフォーマルな形態に流れていることへのネットの影響があげられましたけど、かなり大きいものがあると思います。そのへんは、飯田泰之さんと荻上チキさんの『夜の経済学』(扶桑社)が詳しいので、是非読んで下さいと勧めておきました。

 その夜はお医者さんがたとご一緒に、普段食べられない料理をごちそうになりましたので、夜は大阪に泊まって、翌29日から、月末30日締め切りの短文原稿二本の執筆にかかりました。ひとつは組合ニュースに載せる論考で、シノドス連載テーマの「リスク・決定・責任」の話から大学運営のあり方を論じたもの。もうひとつは、7月20日に金沢大学学生時代の指導教官の藤田暁男さんの傘寿記念の祝賀会があるので、そのとき配る冊子の挨拶文。一応先生の理論的業績を一通りフォローしました。

 この二つがなんとか期日までに仕上がって、今月に入ってから、研究室の片付けはじめ、止まっていた諸々のことを一つ一つ片付けて、やっとこのエッセーの執筆にかかったわけです。しかし、5日に書きはじめてから、授業やら教授会やら電子メールやりとりやらの間を縫って書いているうちに、この時点でもうあしかけ4日もかけているぞ!

 このかん5日には、経済理論学会の奨励賞審査委員会のために東京に日帰りしてきたのですけど、審査のために本1冊論文3本読まなければならなくなった!
 と、思っていたら、学部長と某先生から挟まれて、自分の専門からちょっとズレる人事の審査委員をせよとお達しが。これまた夏のうちにいっぱい論文を読まないと。

 いかんいかん。このあとの夏の間のスケジュールをちゃんとまとめておかないと、収拾がつかなくなるぞ。

7月11日(金) 学内有志団体「月曜会」で「リスク・決定・責任」の話から大学運営のあり方を論じる報告。
7月13日(日) 基礎経済科学研究所でケインズ『一般理論』ゼミのチューター。
7月19日(土) 置塩門下生らによる置塩研究会の例会を我がキャンパスで主催。学部のゼミ生に報告してもらう予定。夕方石川県に移動。
7月20日(日) 金沢で藤田暁男先生傘寿記念祝賀会。
7月21日(月) 朝サンダーバードに乗って、午後から反貧困ネットワーク京都で景気政策の講演。
このあたりで、シノドス原稿提出。
7月27日(日) 立命館が主催校で経済理論学会関西部会。
8月2日(土) 経済理論学会奨励賞選考委員会。ここまでに本1冊論文3本読んでおかないと。
8月5日(火)〜7日(木) 石川県で大学院ゼミの合宿。今のところ7日に金沢で藤田先生傘寿記念の研究会の予定。藤田さんの研究業績をフォローして残された課題を展望する報告をする予定。
うわっ、8月8日(金)に京都の診療所に朝から受診する予定になっている。7日に晩まで金沢にいたらキツいので、7日の研究会が本決まりになったら日を変えてもらおう。
8月下旬にシノドス原稿提出。
9月6日(土) 経済理論学会奨励賞審査委員会。8月2日に絞った本・論文が自分の担当したものでなければ、この日までに読んでおかなければ。
9月7日(日)〜9日(火) ナカニシヤ出版の共著教科書企画の合宿。ここまでに原稿を作っておかなければ。
9月11日(木) 大学院時代の副指導教官のOB研究会in大分。自分の報告はないので安心。
9月14日(日)・15日(月) 基礎経済科学研究所大会in駒沢大学。これも自分の報告はないので安心。
9月20日(土)・21日(日) 経済教育学会。これは立命館が主催校なので開催業務。この日の前から準備の仕事があるだろう。こないだも打ち合わせがあったけど、今月中にまたある。
9月23日前後 学部のゼミ合宿。ああ今週中にこいつの企画を詰めないと来週の前期最後のゼミに間に合わないぞ。
このあたりで、シノドス原稿提出。

 こんな中に人事の審査の論文読みが入るのか…。
 この夏一番の大仕事は、ナカニシヤ出版の共著原稿(四章分ほど)ですけど、さあこんなスケジュールの中どうやって執筆するか。8月10日頃から久留米の自宅に帰る予定ですが、カミさんの老父の世話を、カミさんが一人でしてきて遊びにもいけなかったものだから、手ぐすねひいて待っているぞ。

 いかんいかん…こんなエッセーを書いている暇はなかった。


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