松尾匡のページ

15年8月8日 ワタクシこの夏も激動中(with生活保護と失業のグラフ)




※ ご注意 トップページ冒頭にもお知らせしておりますが、8月2日夕方から3日昼まで、大学のウェブメールの容量がいっぱいになり、特に2日夜以降は、送受信が一切受け付けられなくなりました。慌てて重い添付を削ったのですが、メーラーがそのことを反映せず、3日昼までこの状況が続きました。たいていの場合、配信できなかった旨の通知が発信元に返っておりますが、まれに発信元に一切通知なく受信できないままでいるケースが起こっていることを確認しております。お心当たりのかたは、今一度ご送信いただきましたらありがたく存じます。ご迷惑をおわびいたします。

 さて、5月20日のエッセー以来、エッセーの更新が止まってしまいましたが、言うまでもなく、言語を絶する忙しさだったのでして...。
 この忙しさを伝えようにもどう伝えればいいのやらであります。自分の抱えている原稿とかの量から見て、普通に考えて組合の副委員長とかどう考えても無理があるし。やっぱり激しく後悔する日々。ろくな貢献をしていなくて、まわりの足引っ張っているばかりと思って心苦しいのですけど、会議の時間は容赦なく食います。

 ともかく大事なことから。
 いろいろ忙しすぎて、名前貸しぐらいしかできず心苦しい状態が続きましたけど、安保法制反対関連の各種団体アピール。数ありすぎてどこまで自分が呼びかけ人になっているか、どこまで賛同者なのかよくわからない状態でしたけど、今確認できたかぎり下記のものがあります。

安全保障関連法案に反対する学者の会
 「賛同者」署名をしています。8月5日朝の学者・研究者の賛同者12,951人。一般市民のかたの賛同者27,656人です。上リンク先で賛同署名できますので、よろしくお願いします!!

経済理論学会幹事有志「安全保障関連法案反対へのよびかけ」

安保関連法案に反対する立命館有志の声明文
 呼びかけ人になっています。すべての立命館学園関係者(学生、教員、職員、卒業生、退職教職員、その他関係者)からの賛同署名を募っております。上リンク先で署名できますので、よろしくお願いします。8月5日昼時点で793人。
 この声明を意気揚々と出した直後、京大さん有志の格調高い声明が出されて敗北感を覚えたのでした。くやしいからリンクしない。その後、早稲田さん有志が早稲田ナショナリズムばりばりの声明とホームページ出してOB中心にもう2400人以上の賛同者を集めています。母校ナショナリズムは危険な業だから反則にしよう。やっぱりくやしいからリンクしない。

自民党議員会合における言論抑圧発言に抗議する立命館大学教員有志アピール
 6月25日に行われた自民党議員による「文化芸術懇話会」において、議員や講師から言論の自由を脅かすような発言が相次いだことに対する抗議声明。呼びかけ人になっています。

 安倍さんがこれ急いでるのは、とっとと成立させれば、来年の参議院選挙(同日選挙だろう)のときにはみんな忘れていると計算しているのだと思います。外国から恐慌が波及することでもないかぎり、これから選挙に向けて景気はよくなっていきますので、このまま法案を通せば、ほっとけば、やがて内閣支持率は再び上昇していくだろうと思います。「ここで負けても、この先時間がたてばどんどん内閣支持率は下がり続ける」と期待するのは危険です。今、内閣支持率が下がっているここで本気で倒さないと駄目です!
 と、言いながら、どこまで自分が本気かと言われると「ごめんなさい」と言うしかないですけど。だって忙しかったんだもん。
 名前貸したり、たまに集会出たりするのは、将来「どうしておじいちゃんは止めなかったんだ」とか言われたとき、「いや、反対したんだけどね」とか言って言い訳にするための姑息な「アリバイ」作りであります。ま、みんなちょっとずつ「アリバイ」作りしたら、それが合成されてホントに力になるかもしれませんぞ。


 さて、このかんやっぱりいろいろドタバタありましたので、ここらで一挙まとめておきましょう。
みんなのメシウマ 松尾匡のガックリ集〜〜!【6月、7月編】 OΓ乙 OΓ乙

6月10日ごろ
 私が「欧州左派は金融緩和に賛成している」と言っているのを、「金融規制緩和」のことと勘違いして、欧州左派が金融規制緩和批判している文章を並べて、「松尾は嘘をついている」と非難を浴びせているブログが出現しました。さらにほどなく、このブログの内容を肯定的にコピペして「拡散」するブログも登場しました。
OΓ乙

 「金融緩和(monetary easing)」とは中央銀行がたくさんおカネを出すこと、「金融規制緩和(financial deregulation)」は、金融業や金融取引への規制をなくしていくことで、両者は全然別のことです。私はもちろん、金融規制緩和も労働規制緩和も反対で、それは本サイトや著書等々ではっきり述べてきたとおりです。

 自分についての事実無根の情報が流されているのに、何か手を打とうにも手が思いつかない。仕事がいくつも重なって大変なのに、しばらくは焦ってなかなか仕事に集中できませんでした。
 あわてて本サイトのトップページでお知らせしたところ、半月ほどして元のブログ主が気づいてくれて削除されました。それをコピペしてたブログにも、その旨コメント書き込んでお知らせしたら、こっちも削除され、月末には事件は無事収束をみました。

 まあ、よく考えてみたら、前提知識のない一般の人には「金融緩和」と「金融規制緩和」をごっちゃにする人がいても、たしかにおかしくないですね。「金融政策」なんて言ったら、字面だけ見たら銀行業の監督政策か何かと思ってしまいます。ほんとは通貨の発行政策のことなのですけど。
 今後、当り前のように「金融緩和」とか「金融政策」とか、説明なしに使っちゃいけないということがわかったことが教訓でした。

 ま、このネタ、「も〜らい〜」って言って、こないだの定期試験のひっかけ問題に使わせてもらいましたけど。


7月1日
 「業務協議会」って、立命館当局と労働組合との間の、団交のワンランク柔いやつってことに一応なっているイベントがあるのですが、たまたまその第一回目があったこの日。
 組合の執行委員でもある同僚の橋本貴彦准教授と共著で、経済理論学会の機関誌『季刊経済理論』に投稿していた論文の、審査結果が返ってきました。その結果は…
「掲載不可」!
OΓ乙。

 我々がやったのは、産業連関表を使った投下労働価値の計量分析です。審査報告を読んでみると、前半と後半で全然違うことをしていると書いてある。前半はいいけど後半は稚拙だと。「???」
 よーく読んでみたら、こっちとしては前半も後半も同じ手法で一貫した分析をしているのに、そのことが伝わってなくて、全然別の手法で推計したように受け取られたみたいです。当然わかるだろうと思ってあえて雑駁な説明をつけたのですけど...。
 審査結果は橋本さんが受け取ったのですが、交渉に影響しないよう気を遣って、業務協議会が終わってから帰途教えてくれました。


7月14日
 トップページにも載せていますが、拙著『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』に重大なミスが見つかりました。
 弟子の熊澤が見つけてくれたので助かった!トップページの繰り返しになりますが、改めてその訂正文を以下にコピペしておきます。

 240ページ、第8章図8-1の「社会保障支出対GDP比」は、うっかり対障がい者の支出だけを含むデータで作成しましたので撤回します。したがって、グラフの前ページ239ページの後ろから8行目から、
「次ページの図(図8-1)は、社会保障支出の対GDP比のグラフですが、社民党が政権にあった1994年から2006年の間、減っているわけではなくて、他の国よりも高い割合を維持しています。」
も、合わせて撤回します。社会保障支出全体のGDP比で見ると、この時期、スウェーデンが福祉にかける財政規模は他の欧州所得と比べて特に大きいということはなく、傾向的に特に増やしたりもしていないということでした。ただし、スウェーデンが依然「大きな政府」であるとの記述には違いはないです。

 これとともに、ウェブ雑誌シノドスさんの当該記事や、『立命館経済学』の論文も訂正いたします。
 シノドスさんの記事は、連載第8回「新スウェーデンモデルに見る協同組合と政府──「転換X」にのっとる政策その3」の1ページ目図表1およびその上の文「図表1は…維持しています。」を撤回します。『立命館経済学』の論文は、第63巻第2号の小田巻友子との共著「スウェーデン社会民主党政権(1994―2006)の金融政策」18ページの図表5および「図表5からは,社会保障支出のGDP比がこの数年減少していることも見て取れる。」との文を撤回します。

 そもそも数値が小さいことからすぐに気がつくべきことでした。大変お恥ずかしいかぎりです。深くお詫びもうしあげます。
OΓ乙


7月21日
 我が学部の、ミクロ経済学、マクロ経済学と並ぶ基礎科目の、「社会経済学」(ポリティカル・エコノミー)の教員人事の審査委員長をおおせつかりまして、論文・著作読みやら、電話・メールでの情報収集やらにしばらく追われていたのですが、この日、最終候補を教授会に提案したところ、投票の結果、
…我が学部では9年ぶりに否決されましたぁー!
 いやあ、前任者がポスト・ケインズ派だったから、今度もポスト・ケインズ派で大丈夫だろうと甘く見てたらとんでもなかった。
 やっぱり私は複雑な人間関係やら思惑やら読むのがつくづく苦手ですわ。人の言動は額面通りすなおに受け取りますし。
OΓ乙

 以上が超ど級のガックリですけど、細かいのは相変わらずひきもきりませんし。
 相変わらずしょっちゅう電車間違えて湖西線に行っています。
 電子マネーカードやクレジットカードが入ったカード入れを落として気づかず、拾ってくれた親切な人に呼び止められる。以前罵声を浴びるトラブルになったことが、すんでのところで再現されかねないところだったり。定期試験でやっぱり出題ミスをしたけど、受験していたゼミ生が早々に気づいて質問してくれて事なきを得た。……といったニアミスも。
 上述の一回目の業務協議会で、「賃上げ要求がゼロ回答だったのは、学園財政問題を理由としていない」というのはその通りかというのを確認した上で、先方の掲げる理由の批判をしたら、一般組合員のみなさんから、財政は大丈夫OKというのに納得したように受け取られましたし…。すみません。余計な確認でした。OΓ乙。

 う〜〜む。何か憑いてるんじゃないかって状態。僕って、自分で思ってたより実は人望ないんだなって、思い知りました。

 ともかく、6月の終わりぐらいからは、7月1日と31日に行われた業務協議会をメインとする「春闘」(私立大学は妥結が遅いのです)で組合の仕事が増えるのといっしょに、同僚のマル経の先生が入院されたことによる授業の分担と、持ち回り講義が始まるのとで、授業が急に2コマ増え、そこにもってきてこんな↓仕事が入ったのでした〜!


原稿関係

 前回5月20日のエッセーで予告しましたシノドス連載記事、マルクスについての回は、長過ぎるので二回に分けて出ました。
5月22日 連載『リスク・責任・決定、そして自由!』第17回:「生身の個人にとっての自由」の潮流の中のマルクス
5月29日 連載『リスク・責任・決定、そして自由!』第18回:マルクスによる自由論の「美しい」解決

 やはり前回のエッセーに出てきた解説論文。「全国保険医団体連合会」さんの機関誌『月刊保団連』からご依頼いただいたもので、以前橋本貴彦さんと共著で書いたモデル分析の論文「なぜ医療機関は医師が経営するのか」の解説です。2015年6月号No.1189にご掲載いただきました。
なぜ医療機関は医師が経営するのか ─リスク・決定・責任一致の視角から

 ここまでは前回のエッセーまでに原稿はできたものね。その後出たのは...
 やはり前回のエッセーで予告した、週刊『エコノミスト』誌からの依頼記事。内容について詳しくは前回のエッセーの本題で書いたんですけどね。2015年6月16日特大号で掲載されました。
欧州:金融緩和を歓迎する欧州左翼

 次のシノドス連載記事は、7月1日の業務協議会に向けて組合仕事が盛り上がり、上述の通り授業も増えた怒濤の中で締め切りを迎えました。
7月3日 連載『リスク・責任・決定、そして自由!』第19回:「獲得による普遍化」という解決──センのアプローチをどう読むか

 そしてとうとうシノドス連載は、7月末に最終回を迎えたのでした。これがまた、第2回業務協議会の準備と、人事の審査の仕事に重なったもので、戦場状態での執筆になりました。冒頭、これまでの連載のまとめをつけたのですが、編集側から独立させるよう言われたので、一応別記事扱いにしています。
7月31日 連載『リスク・責任・決定、そして自由!』最終回:新観念創造者としての自由と責任――突然変異と交配、そして淘汰
7月31日 連載『リスク・責任・決定、そして自由!』番外:最終回を読む前に――これまでのまとめ


 そういえば、本来5月に出るはずだった大学の紀要論文が今頃出たのでした。学部のゼミ生に、世に出回っている教科書をサーベイしてもらったので、共著者にあげておきました。ミクロ経済学もマクロ経済学もマルクス経済学も、全体系をガラガラポンで組み直して、一つの統一体系にする教育改革案。まあ、十年や二十年で世に受け入れられるとは思いませんけど。
経済学基礎教育科目のあり方 ──「ミクロ・マクロ」分離カリキュラムを超えて


講演・研究会報告・模擬授業

5月30日 関西唯物論研究会のシンポジウムで、大西広さんとプロレス講演しました。
 ともに「我こそマルクス主義」と自称して、世間から「はいはい」とあしらわれている二人ですが、大西さんが碓井敏正さんたちと共著した『成長国家から成熟社会へ──福祉国家を超えて』(花伝社)と、私の『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』がほぼ同時に出たもので、宣伝も兼ねてバトルトークしようとあいなったわけです。

 大西さんは、この本の中でいつもにもまして、「小さな政府」論、緊縮論、反ケインズ政策、反リフレの持論を全開させています。それに対して拙著では、財政規模や規制の基準が小さな政府を目指すのではなく、目指すべきは、政府の権限が裁量的でない「基準政府」だとして、公金を十分にかけた高いベーシック・インカムや、リフレ政策としてのケインズ政策の復権を唱えています。まあ、大西さんもいわゆる「アベノミクス」の景気政策が、新自由主義政策ではなくてケインズ政策だということをよくわかっているので(「だからよくない」という批判)、論点を噛み合わせるのに苦労することはない点はいいですねえ。
 しかし、会場は大バトルを期待したかもしれないし、私もけっこうつっこんだつもりですけど、大西さんにはだいぶかわされて会場のみなさんは肩すかしだったかな。

 大西さんの共著の共同編者である碓井さんが司会をされましたけど、碓井さんは私の主張に同調されていったような感じがします。リフレ論もある程度は理解下さったみたい。専門は哲学の人ですから、専門外のことにそう軽はずみに白黒つけるかたではないとは思いますが。

 会場は「あべのはるかす」23階、絶景の阪南大学のサテライトキャンパス。阪南大の牧野広義さん、司会の碓井さんにはお世話になりました。

6月7日 「護憲円卓会議ひょうご」の学習会で講演しました。
 同会の世話人代表の佐藤三郎さんからご依頼いただきました。もともとは、2年前に書いた本サイトのエッセー「参院選共同名簿はウィン・ウィンのアイデア」に、佐藤さんが目をおとめくださって、そこで提案している案について解説してほしいとのことでした。
 言っていることは、参議院比例代表区で、革新派・護憲派が共同名簿で立候補して、その中で各参加政党は自分の候補を地区割りして、旧全国区のように政党間競争すればいいというアイデアです。しかし正直言って、当時と比べて今は事態が進みすぎていて、こんな共同したぐらいでは事態は覆せないと思ったから乗り気でなかったのですが、今危機感を持っている景気のことについて話させてくれるならという条件で引き受けたものです。

 引き受けたものだから、前回の参議院選挙の得票でもって、実際に護憲派(民共社生風大緑)が共同名簿を組んでたらどうなるかを、エクセルで試算してみました。このエクセルファイルは、本サイト「アカデミック小品」のコーナーに上げておきますので、ご関心のあるかたはダウンロードして下さい。
 そしたら、護憲派が2増えて、改憲派が自民1、維新1の2減って、差が4議席になるという結果がでました。もちろんこれだけで改憲阻止議席とれるわけでは全然ないですけど、4の差というのは決して小さい話じゃないなあと感じました。
 たしかに、現実に政党が乗るかどうかということになると、だいぶ非現実的だろうと思いますが、戦争を知る佐藤さんの危機感にかられた熱意には負けます。もし何かのアクションが起こるならば、できるだけ協力していきたいと思います。

 講演の前半は、来年の参議院選挙(たぶん同日選挙にする)での改憲議席確保に向けて、景気を絶好調にもっていくように安倍さん側は綿密に計算しているのだという、去年の11月24日のエッセーウェブ雑誌『ポリタス』からの依頼記事で書いた話をして、私の危機感を訴えました。
 つまり、目下景気は設備投資と輸出が主導で拡大しており、夏までは消費の停滞で回復感にとぼしいが、やがて人手不足から賃金上昇にはずみがつけば、選挙までには消費も拡大して好況は本格化する可能性が高い。国内的要因で選挙までに景気が後退期入りする可能性は100%ない。これに対抗するためには、金融緩和マネーを福祉・医療などに使う本格的な反緊縮政策で、一層の景気拡大を訴えるしかない──ということです。

 この講演はユーチューブで動画になっています。
20150607護憲円卓会議「選挙共闘のための学習会」立命館大学経済学部教授・松尾匡
20150607護憲円卓会議「選挙共闘のための学習会」質疑応答

 佐藤さん、司会の松本さんには大変お世話になりました。門永さん久しぶりで楽しかったよ。

6月26日 神奈川県厚木で、日本政策金融公庫の取引先の中小企業の社長さんたちの集まりで講演しました
 ここでも、景気が向こう1年以上は拡大するという短期的見通しを述べた上、日本経済の長期展望と中期展望を語りました。

 長期展望は、少子高齢化が進行して2030年ぐらいには、慢性的な人手不足経済になるというものです。生産能力が足りないので、慢性的にインフレ気味になります。貯金の取り崩しの方が多いので、経済全体として貯蓄不足になり、財政も赤字ですから、海外からの資金流入でファイナンスされることになります。資金流入と経常赤字は表裏の関係なので、日本は慢性的な経常赤字国になります。つまり、資金不足で高金利傾向になり、海外から資金流入するので、円を買う動きが強くなり、そのときの貿易財の購買力平価水準と比べて円高になり、輸出が停滞して輸入が増えて経常赤字になるという構造になると思われます。

 中期展望は、デフレ経済時代から、今述べた高金利・経常赤字時代への構造転換をもたらすビッグプッシュが、オリンピックになるかもしれないという話をしました。
 自民党は2017年の消費税再引き上げ後の不況を、オリンピック特需で乗り切ることを計画していると思います。それは、ある程度成功すると思いますが、一旦現行景気政策で完全雇用が実現され、傾向的にも労働力不足が進行する中で、一時的に不況になったあととは言え、大きな特需が発生することは、大きな問題をもたらすと思います。
 つまり、ほどなくしてすぐ失業者が尽きて需要超過状態になるので、ほっとけばインフレがひどくなってしまいます。そしたら日銀は2%インフレ目標を守るためにインフレを抑え込もうとします。つまり、金融引締めするということです。
 ところが、一方でオリンピック支出をはじめ、政府が赤字国債をますます出して民間から資金を借り入れる中で、日銀が資金の供給を絞るわけですから、そりゃ高金利になります。だから民間設備投資ができなくなります。さらに日本でおカネを運用するのがトクになるので海外から資金が流入し、円に交換するので円高になります。よって、輸出もできなくなります。
 首都圏は特需でもうかるかもしれませんが、設備投資低迷と円高で、地方経済は衰退するでしょう。オリンピックが終わって特需がなくなったとき、これが一気に表面化することになると思います。──ということを述べました。

 いやあ、いつもの派手な景気拡大予想は、日頃の左派系講演では危機感を訴えるためにやっているのですが、社長さんたちにとっては明るい話だろう……と思ったら、結局長期的には暗い話と言われちゃいました。まあ、一旦人手不足のインフレ時代になったなら、累進強化と法人税増税と資産増価税でブルジョワジーから税金いっぱい取り立てて財政赤字を抑え込めば、インフレと利子率も抑え込めて大丈夫かもしれないのですが。社長さんたちの前では言えないかな。左派系講演なら言ったかも。

 旧友三澤くんはじめ、政策金融公庫厚木支店のみなさん、懇話会のみなさんには大変お世話になりました。ありがとうございました。

7月3日 上智大学で行われた「連帯経済研究会」で報告しました
 同会はラテンアメリカ研究者の研究会で、同僚だった小池洋一さんがメンバーで、「アソシエーション」についてしゃべってくれとおっしゃるのでいってまいりました。
 ラテンアメリカでは、私企業でもなく国営企業でもない、NPOや協同組合などの非営利事業体が担う経済があちこちで勃興しているのですが、それぞれやはりいろんな問題を抱えています。それを理論的に整理したいということのようなので、合意性と開放性の両立を目指さなければならないとか、そのためにどうすればいいかとか、「リスク、決定、責任」が一致するガバナンスでなければならないとかいう話をしました。みなさんそれぞれご自分のフィールドのケースに思い当たることがあったみたいで、大変好評をいただき楽しかったです。
 小池先生も思い当たることがいっぱいあったみたいですねえ。あれ?どこの国のことですか。

 お世話いただいた幡谷さんはじめ、みなさんありがとうございました。

7月11日 長野県松本で、民医連の合宿で講演しました
 これも景気の講演です。やはり、来年の選挙に向けて好景気にもっていく安倍さんの作戦を推測して、景気拡大の現状を確認し、安倍さんの思惑通りになってしまう危機感を訴えました。
 医療関係者の集まりですので、緩和マネーを使って、医療・福祉につぎこんで景気を拡大させる必要性を強調しておきました。現状の、設備投資財の生産なり、建設業なりに雇用が吸収される形での景気拡大では、完全雇用が達成されたあと、後年、高齢化に対応して医療や福祉の労働配分を増やそうとしても、スムーズに人手が移動できなくて困難に陥る。失業者がいる今のうちから、医療・福祉で労働を吸収する形で景気が拡大しなければならないということです。

 景気関係の情報は最大限更新しましたけど、その中で私が一番注目したのは、日経の7月2日の朝刊記事でした。日銀の短観では大企業製造業の今年度の設備投資計画が、前年度比18.7%増の予定で、計画通りになればバブル景気ピーク近くの1989年以来の伸びになるとのこと。本来は設備投資主導ではなく、個人消費や福祉等の支出が主導する景気回復の方が望ましいのですが、ともかく現実には設備投資主導で、景気だけはよくなっていくことは間違いないです。外国の景気後退に巻き込まれないかぎりですね。

 共産党さんの支持者のかたが多い団体ですので、金融緩和とかインフレ目標とかの有効性を語ると、最初吊るし上げにあうかもとビクビクして行ったのですけど、蓋を開けたらずいぶんとご好評をいただいたので、驚くやらうれしいやらでした。懇親会や二次会で話をうかがうと、やっぱり医療関係者は本当に生活が大変な人たちと直接接しているんですね。不況時代いかに患者さんたちが大変だったか身に染みて感じていらっしゃいます。諏訪地方とか、精密機械の輸出産業関連の中小零細企業がいっぱいありますけど、円高時代は生産停止状態で、従業員のクビを切るわけにもいかず、社長さんが私財取り崩して給料を払っていたと言います。

 何か、うまくいかないことばかりなのに、景気関係の講演だけはうまくいく印象があります。やっぱりドラエモンがついているのか。
 熱烈に歓待いただいた河野先生、事務の山田さんはじめ、お世話、歓談いただいたみなさんに感謝します。

7月31日 富山第一高校で模擬講義をしました
 まあなにしろ、まさにこの日がシノドス連載最終回の掲載日で、数日前に締め切りがあって、そのあと校正作業が続いていたわけです。さらに前日30日は夜中まで及ぶ第2回業務協議会の日。当然、その準備に連日追われていたわけですから、この模擬講義用のパワーポイント作成に着手する暇はほとんどないまま当日を迎えたわけ。
 業務協議会の日の午前中に着手して、業務協議会終わって帰宅してから夜中に作って、朝サンダーバードに乗ってもまだ必死に作って何とか間に合わせました。

 内容は、経営学などの考え方と経済学の考え方の違いについて。つまり、人為を離れた法則を見出すのが経済学だということをわかっていただこうというものです。やってみたら、生徒のみなさんのアンケートでは、好意的な感想が多かったのでよかったです。ご親切にお世話いただいた先生がたに感謝します。

 パワーポイントスライドを本サイト「講演資料」のコーナーに上げておきますので、ご関心があるかたは、ダウンロードしてご覧下さい。
 この中で、実は弟子の熊澤が作った興味深いグラフを載せているので、ご紹介します。よく、こんなグラフを見せて、生活保護が景気と無関係だと言われるそうです。
生活保護世帯数
 ところがそれは違って、生活保護開始数をとってみると、失業率ときわめて強く相関しています。特に30代-40代の失業率との相関が強いそうです。
生活保護開始数
 さらに驚くべきことに、生活保護廃止数も、失業率と正の相関気味です。普通考えて、景気がよくなると就職できて生活保護を卒業し、景気が悪くなって人があぶれると生活保護を卒業できなくなるので、失業率と逆に動くべきところなのに、そうなってなくて、失業率と同じように動く。つまりこれは、役所側が、失業が増えて生活保護を開始する人が増えると、全体の保護数を抑えるために切る人を増やしているという、ヒドい事態を表していると考えられます。以下のグラフは失業率はでてきませんが、保護開始世帯数は上のとおり失業率とほぼ同じに動くので、わかると思います。
生活保護廃止数


 以上の講演類、全部一応パワーポイントを用意しましたので、それなりに準備に時間をとったわけです。まあ、使い回しのスライドも多いのですけど。ネット上からとってきたグラフなどの著作権問題がよくわかりませんので、その点で怪しいものはウェブ上に上げるのは自粛しておきます。
 ちなみに、自分の報告ではないのですが、6月20日には専修大学で、私の理論を題材にとった研究会も行われています。報告して下さった大坂洋さんと石塚良次さん、暖かいホスピタリティで会場運営して下さった吉田雅明さんはじめ、参加者のみなさんに深く感謝します。大坂さんの報告のもとになった論文は次のとおりです。
「松尾匡氏の「方法論的個人主義」について : 社会的役割とマルチエージェントの観点から」『富大経済論集』第60巻第3号(2015)pp.603-632。

 まあこんなわけで、7月の終わりなど、人事審査の仕事および否決後の後引いたゴタゴタと、業務協議会準備と、シノドス最終回原稿が同時にやってきて、30日業務協議会本番と31日富山出張が最後を飾り、帰宅して8月1日、2日の土日は、本当に何にもしない二日間を過ごしました。腎臓が弱って冷えやすいので冷房を入れられないから、あの暑さの中ではもともと日中何もできなかったでしょうけど。
 でも週が開けてからまたしばらく組合関係などの用事や、学生や院生の指導があったし…。何もしない日があと二日は欲しいなあと思います。

 そういえばこないだ、経済教育学会の理事選挙(立候補制でなくて原則全会員対象に投票する)で当選したから引き受けるかというメールがきました。前回2012年も同じことがあったのですが、その年九大に内地留学するので研究費が九大に納めて尽きたので、理事会のための交通費が出ないから断りました。そんなことがあったものだから今度は断るわけにいかないと引き受けたのですけど、その当選通知のメールを弟子の女子院生が読んで、「できるわけないでしょ!」って。「三年間って書いてありますよ。ちゃんと読んだんですか」等と詰められて、院生の連絡用に「サイボウズ」ってSNS掲示板使っているのですけど、今度からこんな依頼がきたらそこにあげて、引き受けていいかどうかみんなの了解をとってから引き受けることを納得させられました。

 なんだかんだ、そんなこと言ってウダウダしていると、またあとになって慌てるので、ここでこの夏にやることをまとめておきましょう。


この夏にやる仕事

◆ ナカニシヤ出版さんの院生向けマルクス経済学共著教科書仕上げ。若手の原稿待ちだけど、一回ちゃんと調整しないと。
◆ シノドス連載後半をPHPさんから出版するための加筆修正。今のところPHPさんからまとめた原稿が上がってくるの待ち。
◆ C社、同僚の橋本准教授との共著の学部生向けマルクス経済学教科書作成。この夏の間に脱稿を目指す。現在未着手。
◆ O社、景気関係の単著本原稿作成。この夏の間に脱稿。現在未着手。
◆ D社、マクロ経済学教科書単著企画のサンプル原稿。あす8月9日締め切り。未着手なのでこのエッセーをアップしたら着手。
◆ 経済理論学会奨励賞の審査の仕事。しあさって8月11日までに自分の分担分5点読まないと。ほとんど手がついていませんが、だいたいは一度目を通してあるので、ちゃんと読む必要があるのは英文一本ぐらい。だがこれがちょっと大変そう。最終審査は9月10日。
◆ 某雑誌の投稿論文審査。8月25日締め切り。
◆ 関西唯物論研究会の雑誌の依頼論文。9月30日締め切り。
◆ 橋本准教授とのリジェクトされた共著論文の作り直し。
◆ 9月9日にPOSSEさんの対談企画があるので、近づいたらちょっと準備が要るかな。
◆ 9月26日に経済教育学会のシンポで話をしろと言われているので、これも近づいたら準備が要るかな。 
◆ そういえば、マクロ経済学入門のパワーポイントスライドの後半を作ると公約していたのだった。 

 8月の半ばに妻の父の初盆で一週間ほど、9月の初めに九産大での集中講義で、ついでに病院での検査も含め五日間、九州に帰るので、そのあいだはネット環境が不十分で作業がはかどらないと思います。そう考えると休んでいる暇はないな。
 あーーっ!! そういえば、定期試験・レポートの採点というものがあるんだった! それが最優先じゃないか!



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