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 用語解説:北朝鮮問題


 北朝鮮問題になると、日本ではどうして右と左で言うべきことがアベコベになるのだろう。

 事実はこうだ。戦時中の日本の天皇制軍国主義統制経済体制を戯画化したような政権が、飢餓にあえぐ人民を強権で押さえ付けている(戦時中の日本の宣伝映画など見ると、今の若い人などは言葉が難しすぎて聞き取れずピョンヤン放送と間違うのではないかといつも思う)。そして、周辺先進諸国の支配階級は、地域の不安定要因にならないようおとなしくしてくれるかぎりは、この政権の崩壊がもたらすリスクを恐れ、低廉従順な労働力を提供してくれる奴隷頭として、この政権を支えようとしている。しかもこのような抑圧体制をつくり出した遠因が日本の過去の帝国主義政策にある。

 このようなケースが他にあったならば、左翼なら絶対にこの政権と闘うキャンペーンを張ったはずだ。それが日本人の責任だと言って。そして政府による援助に反対したはずである。かつての韓国に対しても、インドネシアに対しても、ビルマに対してもそうしてきた。南アフリカ共和国のケースでは断交や経済制裁さえ求めてきた。どうして平壌政権の場合には同じ態度をとらないのか。

 ともかく、及び腰ながら平壌政権への批判を日本人拉致問題に限りとりあげているしまつでは、全く立場は右翼と同じになってしまう。犠牲者が日本人だからとりあげるということになるのだから。
 民族主義的ヒステリーと同じ「日本(人)対北朝鮮(人)」という枠組みにあたりまえのように乗っかって、おまけに「日本人も昔朝鮮人を拉致した」と言ってはこのヒステリーに油を注ぐ。こんなくらいなら拉致批判も何も口にしない方がよっぽどましだ。

 左翼ならばもっと先に行かなければ。平壌政権の犠牲者は日本人だけではない。韓国の拉致被害者も、元在日「帰」国者とその家族も、何よりも膨大な北朝鮮一般人民が暴政の犠牲になっている。そう宣伝して、世論に「日朝韓等の支配階級vs日朝韓等の人民大衆」という階級的対決図式を認識させなければならない。
 そもそも考えてもみよ。北朝鮮はアフリカなどと比べて人々がみな読み書きができるし、政治が悪くて経済破たんしているけど、もともとは熟練工も技術者もそれなりにいた国だ。このまま平壌政権が周辺諸国と共存して安定したならば、自由な労働運動などあり得ない絶対無権利の低賃金労働力に向けて、日韓の資本家が群がり寄せて、日韓国内産業はますます空洞化が進んで失業者が激増するぞ。国内に留まった企業も北朝鮮産の激安製品に押されてしまい、やはり首きり倒産で失業者が増えてしまうぞ。
 こう考えると、北朝鮮に民主的政権が出来て自由な労働運動が生まれ、賃上げ闘争が闘えるようになることが、北朝鮮の労働者のためであることはもちろんのこと、日韓の労働者にとってもまた死活の利益であることがわかる。それゆえ、平壌政権との共存政策に反対し、これを打倒するための国際的人民闘争を作り上げることは、労働者階級の階級的利益なのである。
 こういうふうに発想するのが左翼的立場ではないのかね。

 本サイトは基本的に以上のような立場で北朝鮮問題を取り上げている。
 
 

推薦図書
いろいろありますが、特にお勧めのものを。

姜哲煥、安赫『北朝鮮脱出』、文春文庫、上619円、下543円 amazon bk1 yahoo!ブックスショッピング

萩原遼『北朝鮮に消えた友と私の物語』文芸春秋 、1762円(文庫590円) amazon bk1 yahoo!ブックスショッピング

チャンキルス他『涙で描いた祖国──北朝鮮難民少年チャン・キルスの手記』、1700円 amazon bk1 yahoo!ブックスショッピング

北朝鮮難民救援基金の書籍紹介ページ
 
 

サイト内リンク

02年9月8日エッセー「瀋陽事件の結末は右派のヤブヘビ」

02年9月16日エッセー「北朝鮮は右派の聖地」

02年9月20日エッセー「日朝会談についての市民運動の声明文」

02年10月22日エッセー「新社会党の日朝交渉論の評価点と限界」

03年1月14日エッセー「これで日本が右傾化したら左派政党のせいだぞ」

03年6月30日エッセー「北朝鮮とイスラエルとビルマ」

03年8月13日エッセー「山田助教授中国当局に拘束される」

03年8月29日エッセー「8月13日と20日のエッセーに追伸」

04年2月9日エッセー 「お寄せいただいたメールから」

06年7月26日エッセー「脱北者あしなが基金にご協力を」
 

勝手にリンク

北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会
 本サイトのエッセーページでたびたびお知らせしてきましたNGO。北朝鮮に渡って平壌政権にひどいめにあっている元在日の人々を救おうという会で、脱北支援活動中中国当局に捕まった山田文明氏が代表をつとめています。(10年9月14日リンク更新。山田さんは現在副代表である。)

救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク(RENK)
 平壌政権が暗殺指令を出していると言われる李英和関西大学教授らが作った北朝鮮民主化のための市民運動グループ。脱北支援には何度も成功するし、メンバーの安哲は何回も北朝鮮に潜入して現地の映像をとってくるし、秘密警察などの内部資料をひんぱんに入手するし、すごい!
(10年9月14日現在リンク切れ。「RENK東京」のサイトがある。)

北朝鮮難民救援基金
 脱北難民を支援するNGO。平壌政権打倒と表立って言えないならば、せめてこのくらいは手助けするのが左翼的良心というものでしょう。

朝鮮民主主義研究センター
 人権と人道の立場からの北朝鮮情報リンク集など。北朝鮮関連の出版物に五つ星で評価をつけている。憶測での断定や国家主義的煽りがある本は評価が低い。脱北者の手記は一般に評価が高いが、信頼性を精査して評価をつけている。
 主催者小池さんの講演録はここ。2000年以降出版された書籍をサーベイしています。
 
 

 
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